ex2 ツンデレ少女、思い出す
――ダンジョン撮影日の夜のこと。
絵麻は軽快な足取りで家に帰った。探索後はだいたい疲れているものだが、今日はかなり調子がいい。それも、あのマネージャーのおかげだ。
絵麻が部屋の電気を点けると、質素な1Rの部屋が絵麻を迎えた。現在は、学校指定のアパートで生活している。少々手狭だが、物をたくさん持つタイプでは無かったので、不自由なく生活はできている。
「どうしよう」
元気はあるが、ご飯を作るのは面倒だった。コンビニ弁当が頭を過るが、マネージャーの言葉を思い出す。だから、鳥のささ身とブロッコリーをゆでて、それに塩を振って食べることにした。
絵麻はご飯を食べながら、改めて部屋を見回す。友達からはよく驚かれる質素な部屋。家具らしい家具と言えば、冷蔵庫と机、ベッド、ハンガーラックくらいだ。残りは全部、クローゼットの中にしまっている。
この部屋で生活を始めるようになって約一年になるが、一年前のことがはるか昔のことのように思えてきた。
絵麻は元々、田舎にある地元の高校に進学していた。しかし去年の夏に、今の事務所がディーバーになりたい高校生を募集していることを知り、選考に合格して、ディーバーになる機会を得た。
それから親や事務所の協力を得ながらあれやこれややっているうちに、高二の十月になっていた。ディーバーの活動自体は、はじめてまだ2、3か月くらいしか経っていないが、すでに壁にぶち当たりそうになっていた。
しかし、突然現れたマネージャーが、その壁を簡単にぶち壊してくれた。何となくだが、あのマネージャーに従えば、うまくいきそうな予感があった。
「私って、運が良いかも」
絵麻は、にししと笑う。
ご飯を食べてから、鞄の中を整理していると、ボイスレコーダーに気づく。あのマネージャーを追放するために準備していたことを思い出した。
「……ちょっと聞いてみようかな」
絵麻はイヤホンを挿して、ベッドに座る。あのホテルのやり取りはしっかりと録音している。部屋に入る前に、こっそりと電源を入れていたのだ。
絵麻とマネージャーの会話が聞こえる。自分の甘い声に絵麻は顔が赤くなった。
「なんて声を出してんのよ」
そして、聞いていうちにあのときの感覚やマネージャーの温もりを思い出す。
絵麻にとって、彼は、父親以外ではじめてちゃんと接する大人の男だった。最初は、しょーもない根暗変態野郎くらいにしか思っていなかったが、実はとんでもなくすごい人で、やさしくて、あたたかかった。彼にぎゅっとされたとき、幼いころの父親の安心感を思い出した。いや、あのとき以上の感情があったかもしれない。
「ふふっ」
絵麻はもじもじしながら、自分の甘い声を聞き続けた。
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