二人で穏やかな食事を

ネコ山

二人で穏やかな食事を


<登場人物>


・ナナセ

23歳。スーパーブラック企業勤めの会社員の女性。

乙女ゲームをしていたヲタ活女子。一人称が私から拙者になる時がある。

役の性別変更、一人称変更不可。


・リド

実年齢93歳、見た目年齢14歳。

ハーフエルフの男性。魔法大国アインスの国家魔道士。

少年声推奨ですが、声変わり後か前かは演者さんにお任せします。

役の性別変更、一人称変更不可。


上演時間目安40分弱


※話の世界観に合わないアドリブ、セリフの改変はご遠慮願います。


○2023/10/22

加筆、軽微な修正をしました。


----お話はここから----



ナナセ:(N)入社してから早一年。

毎日毎日残業で、一日の半分以上を職場のデスクで過ごしている。

休みの日も職場からの電話があって…ろくに休めたことがない。


私の唯一の楽しみは通勤電車での異世界ファンタジー乙女ゲーム。

各種族のイケメン達が素敵な声で私の名前を呼び、会話をしてくれる。


束の間の楽しみを味わった後、私は職場へ向かう。

休憩中も取引先からの電話がいつ来るか分からないからという理由で先輩に電話番を押し付けられ…私のお昼ご飯は上司の真横に置いてある備え付けのカップ麺。

カップ麺は何も悪くない。うん。

それに非常食としては保存も効いて優秀な食品である。

それは一旦置いといて。

私、学生時代に栄養士免許と調理師免許をとって商品開発部に希望出したのに…

食品会社でなんで事務職もとい営業部宛にきたクレーム対応をさせられてるの?……


-ナナセの意識が薄れていく


ナナセ:(M)…ん?

風が吹いてる?…ここは33階よ?

そんな高所のオフィスの窓を開けるなんて…

…ん?いや、窓が空くわけ無いか


リド:あ、目が開きましたね


ナナセ:……?


リド:治癒魔法をかけておきました

外傷は特に無かったのですが…

こんなに疲れている人間は初めてで…

僕の治療は上手く出来ていますか?


ナナセ:…え?

(M)え?!なになに?この美少年!!乙女ゲーに出てくる主人公みたいなキラキラした笑顔に衣装!それに耳がとんがってる!!!


リド:…まだどこか痛みますか?


ナナセ:う、うぅぅぅ…(泣き出す)


リド:え?!どうしたんですか?お姉さん!!


ナナセ:(泣きながら)拙者の目の前に…現実世界じゃ有り得ないレベルのエルフみたいな美少年がいるよおぉぉ…!!


リド:ん?…まあ、僕はハーフエルフなので耳は少し尖っていますが

あと、現実世界?でしたっけ

よく分からないけど僕たちがいるのは王都アインスから少し離れた丘の上ですよ


ナナセ:(急に泣き止む)お、王都アインス??


リド:はい、この大陸で最も名高い魔法大国の王都アインスです


ナナセ:どこそれ


リド:この丘の…ほら、あっち!

王都が見えますよ

(ナナセの足元を見る)あ、お姉さん裸足ですね


ナナセ:…っと、ととと…

あれ?なんで私裸足なの?


リド:少し待っててくださいね

っと、これがいいかな?…はい、


-ポンっという音と共にナナセの足を木靴が覆う


ナナセ:えっ??さっきまで裸足だったのに

私靴履いてる…これ木靴かな?かわいい


リド:気に入ってもらえて良かったです


ナナセ:いきなり靴が出てくるって…

…いま何が起きたの?


リド:いきなり過ぎましたね、

驚かせてしまいすみません

これは僕の使える魔法のひとつ、

服飾創成魔法です

木の精霊の力を借りてお姉さんの足に合った靴を作ってもらいました(微笑む)


ナナセ:そ、そうなんだぁ

ありがとう

(M)なんと眩しい笑顔…!!ヲタ活女子の拙者には夢の中でかろうじて向けられるか否かレベルなんだけど……!!


ナナセ:というか今、魔法って言ったよね??


リド:魔法はあまり見たこと無いですか?

まあ…でもこの服飾創成魔法なんて、僕くらいしか使えませんからね!

僕は木の精霊と火の精霊、あと水の精霊と契約をしています


ナナセ:(M)また魔法って言ったよ?!


リド:あ、魔法の話になるとつい…

名乗るのが遅くなってしまいすみません

僕はリドといいます

この王都アインスの国家魔道士をしています


ナナセ:…ええと、

私はイガワナナセ、ナナセって呼んでもらって大丈夫だよ…


リド:なら、僕のこともリドとお呼びください

ナナセお姉さん


ナナセ:(M)…!!はわぁぁぁぁ!

び、びび美少年が拙者に笑顔で「ナナセお姉さん」と…!!この訳の分からない状況でも拙者のヲタ活女子の属性は健在ですなあ!!…と、美少年を目の前にテンション爆上がりで大事なこと忘れてた!


ナナセ:えーと、私は池袋で会社員をやっていたはずなんだけどなぁ〜…


リド:イケ…ブクロ…カイシャイン…?

冒険者ギルドの名前や役職ですか?


ナナセ:ぼ、冒険者ギルド?!


リド:その反応…冒険者ギルドでは無いみたいですね

ナナセお姉さんの着ている服は少しヨレヨレですが、土埃や魔物の返り血みたいなものも無いし…そもそも裸足で武器も何も持って無さそうで……ん?


ナナセ:リド、どうしたの?


リド:ナナセお姉さん…


ナナセ:ん??


リド:その…えーと……(照れる)


ナナセ:(M)び、美少年が頬を赤らめてる!!どうしたの??拙者に現代女子のような色気やかわいさを感じたの?ん?んん??


リド:す、スカートが裂けて脚が上の方まで見えてて…

…僕には刺激が強いです……


ナナセ:・・・(少し固まる)

え!な、なんで?!スカート破れてる!

どうしよう!


リド:そのしっかりとした縫製の上着なども気になって仕方がないですが、年頃の女性の脚をいつまでも外界に晒す訳にはいきません…!え、えーと、、これで大丈夫かな…

はい!


-ポンっという音が響く


リド:あれ…?


ナナセ:うぅぅ…スカートがこんなに裂けるなんて…

何が起きてこうなったんだろう…


リド:あれ?

僕の服飾創成魔法で服が変化しないなんて…

服の素材は綿や絹、植物が原料だから木の精霊の力が働くはずなのに…


ナナセ:綿や絹……えーっと洗濯表示洗濯表示…あ、


リド:植物じゃない服だと…動物の革や毛皮とか?


ナナセ:ポリエステル80%にレーヨン10%とポリウレタン10%


リド:ポリエステル?…レーヨン?聞いたことのないものですね…


ナナセ:あー、、私の服はね、化学繊維で出来てるみたい


リド:化学繊維?


ナナセ:えーとね、石油を使って出来た繊維のことだよ


リド:石油って……地中深くから湧いて出てくるあの黒い油のことですか?


ナナセ:石油は伝わった!よし!


リド:たぶん僕が地の精霊と契約を交わしていないから、魔法が効かなかったのかも…


ナナセ:そ、そういうことになるのかな…

あはは…

(M)ハーフエルフの美少年に魔法に精霊に情報過多で頭が…!


リド:ナナセお姉さん!


ナナセ:はい!?


リド:旅の途中だったらすみません!

あなたの服を新調しますので、僕の家に来てくれませんか?


ナナセ:私がリドの家に?

(M)美少年の家にスカート裂けてる拙者がいっていいの?!否!お家のご家族が心配しちゃうって!


リド:宿を探すにしても服がボロボロで街中でナナセお姉さんが変な人とかに声掛けられたりしたら心配なので!


ナナセ:(M)せ、拙者…美少年に心配されている!!


リド:それに、、


ナナセ:それに?


リド:…こんなに酷く疲れている人間の治療は初めてで…僕、ちゃんと治せているか心配なんです


ナナセ:(M)…なんて良い子なの?!!

ナナセ:私は大丈夫だよ!えーと、その治療魔法のおかげで!!

(急に視界がぐらつく)えっ……???


リド:っ!!ナナセお姉さん!


ナナセ:(M)私はその後、また意識を失った



-リドの家



リド:僕の治療魔法は王都でも一、二を争うレベルの高位魔法なのに……ちゃんと治せて無かったなんて…


ナナセ:……リド?


リド:ナナセお姉さん!どこも痛くない?大丈夫ですか??


ナナセ:ここは?


リド:僕の家です


ナナセ:ご家族は?


リド:母はエルフの里、王都アインスとツヴァイス共和国の国境近くにいます

父は人間なので寿命を全うして、今はこの街の墓地で眠っています


ナナセ:そうなんだね…


リド:あ…変な気を使わせてしまってすみません


ナナセ:ううん、大丈夫だよ

私は大学生になってから上京して、大学を卒業して就職は東京の食品会社で…

毎日毎日休みなんてほとんど無くて

ずーっと働いて働いて、、帰り道の電車の中で乙女ゲームしてる時だけは楽しかったな…


リド:…?


ナナセ:これは私の独り言、聞き流してくれて良いからね


リド:わかりました…


ナナセ:いつものようにパソコン開いて仕事を始めようとしたら、意識が遠のいて…

…で、目が覚めたらリドがいて

私を助けてくれた


リド:…もしかしたらなんですけど

ナナセさんは「転生者」なのかもしれませんね…


ナナセ:「転生者」?


リド:はい

僕は昔、王都の図書館で「転生者」について書かれた本を読んだことがあるんです

その本に書かれていた「転生者」は元いた世界から魂も肉体もそのままの状態で別の世界へ来たと…書かれていました


ナナセ:元いた世界から別の世界に…?


リド:はい、元いた世界で意識を失って目が覚めたら

先程僕たちが会った

あの、星降る丘にいた…

…何の偶然か、本の記述と同じことが起きていますね…


ナナセ:え?…


リド:明日、王都の図書館へ行ってあの本を探して調べてみます

ナナセお姉さんは明日もそのベッドで休んでいてください


ナナセ:あ、うん…


リド:その前に晩ごはんにしましょう

街の人にたくさん野菜を頂いたので気にせず食べてくださいね


ナナセ:…凄い量だね


リド:野菜のスープなら作れるかな…

よし、この野菜の皮を剥いて


ナナセ:そのナイフの持ち方危ないよ?


リド:大丈夫です!ナナセお姉さんは寝ていてください!痛っ!


ナナセ:ほら、こういう時はお姉さんに任せなさい


リド:…はい(しょんぼりする)


ナナセ:(M)しょんぼり顔もたまらないっ…!!

今はそっちじゃなくて野菜野菜っと、

これはじゃがいもに似てる

この根菜っぽいものはニンジンみたい

なんかネギっぽいにおいもするなあ

ん?これはセロリみたいな見た目

最初はこのたまねぎみたいなのを切って炒めよう


リド:……


ナナセ:リド、塩や砂糖はある?


リド:ええと、これです


ナナセ:ありがとう

少し時間がかかりそうだけど、待っててね


リド:はい…


ナナセ:(M)まずはみじん切りにしたたまねぎを飴色になるまで炒めて…コンソメっぽいものを作る

次は煮込み時間が長くなる芋や根菜を炒めて軽く塩をふって炒めて、見た目が透き通ってきたら鍋にお湯を入れる

胡椒の実みたいなものもあったからそれも一緒に煮込む

具材が柔らかくなったら塩で味を整えて…

あれ?この小さな茶色い壺の中身って…味噌??

作ってるスープはもう洋風の味付けにしたから、味噌のことは一旦おいといて…


ナナセ:大変お待たせしました

野菜のスープです


リド:わぁ…すごく良い香り

ありがとうナナセお姉さん


ナナセ:私の方こそありがとう

久しぶりにお料理が出来て嬉しかったよ


リド:いただきますね(ひと口食べる)…!

とっても美味しい!!


ナナセ:ふふ(笑)たくさんあるからね


リド:こんなに美味しいごはんは生まれて初めて食べました!


ナナセ:生まれて初めてなんて大袈裟だよ(笑)まだ14,5歳くらいでしょ?これからもっとたくさん美味しいごはん楽しめるじゃない


リド:僕、見た目はこうですけど93歳です


ナナセ:…え???


リド:エルフやハーフエルフ、ドワーフの見た目年齢はほとんど当てになりませんから


ナナセ:…!この世界でもエルフは見た目年齢若いままなの?!ゲームの世界だけかと思ってた!!

私は23歳だから……呼び方リドさんだった!!


リド:気にしないでください

それに、さん付けなんてしなくても良いのに(笑)


ナナセ:リドのままで良いの?


リド:はい、なので僕はナナセとお呼びしますね


ナナセ:丁寧な言葉使いもしなくて大丈夫だからね、リド


リド:わかりました(微笑む)


-食事が終わり、就寝


ナナセ:(M)「転生者」…転生もののライトノベルや漫画ではその物語の主人公は「死」がきっかけで異世界に行っているけれど…

まあ、それは作り話だもんね

私、ほとんど会社のデスクにいて…出社と退勤の時くらいしか事故にあいそうなことはほとんど無いし……

じゃあ私は何でここにいるんだろう?


-夜が明ける


リド:朝ごはんも美味しかったよ

ありがとう、ナナセ


ナナセ:そそそそんな、私こそお家に泊めてもらってるんだもの

水と火の精霊さんのおかげで台所が自由に使えて楽しいよ

それに、ごはん作りくらいさせて貰えた方が罪悪感が無い、というか…


リド:罪悪感だなんて、

ナナセはまだ疲れが溜まってるんだからちゃんと休まないとダメだよ

それじゃあ僕は王都の図書館へ行ってくるね


ナナセ:行ってらっしゃい、リド


リド:(微笑む)…ナナセ、行ってきます


ナナセ:(M)リドが帰ってくるまでに私にも出来ることしないとね!

それにしても…ふふ(笑)

リドが魔法で作ってくれたこの服、本当にかわいいな…


-王都の図書館


リド:「転生者」…

まあまあ、新しめな本かも

この一冊だけか…ナナセの為になることが書いてあると良いんだけど


リド:(N)「転生者」はこの世界に存在しない衣服を纏っていた。

我らが持ち得ない高度な技術を持ちながら、その技術をひけらかす事も無く

この王都アインスの食文化発展の為に尽力した。

その「転生者」の名はイガワサトシ。

食材を長期保存する為の調理法や多様な味付けをするために使う多くの調味料を開発した。

王にも腕を認められ、王直属の料理人として生涯を過ごした。


リド:(M)…イガワサトシ?

ナナセも最初、イガワナナセと言っていたような…


-リドの家


ナナセ:日が落ちると寒いな〜

こういう時はおじいちゃんが教えてくれたゆず蜂蜜茶が美味しいんだよね

昼間のうちにこのミカンっぽいのをおそらく蜂蜜であろうものに漬けておいて良かった〜


リド:ただいま、ナナセ


ナナセ:おかえりなさい、リド


リド:今度は甘い良い香りがする


ナナセ:これだよ(カップを差し出す)

はい、どうぞ


リド:いただきます(ひと口飲む)

わぁ…すごく美味しい


ナナセ:これは私のおじいちゃんが教えてくれたゆず蜂蜜茶みたいな…まあ、ざっくり言うと甘くて後味が爽やかな飲み物だよ


リド:説明、本当にすごくざっくりしてる(笑)

ナナセのおじいちゃんも料理が上手だったの?


ナナセ:うん!おじいちゃんは農家の人で果物を作ってたの

その果物を使ったお店もやってて

お父さんや私にたくさんの料理を教えてくれたの


リド:へぇ〜、すごい人なんだね


ナナセ:おじいちゃんから教わった美味しいごはんの作り方はばっちり覚えてるよ


リド:それはすごい


ナナセ:私が産まれたときにお母さんが死んじゃってね、

お父さんとおじいちゃんの家に引越して、私は18歳まで3人で一緒に住んでいたの


リド:…


ナナセ:暗い顔しないで、大丈夫だから


リド:うん


ナナセ:私が大学生になってひとり暮らしを初めてから半年後、おじいちゃんは果物の収穫中に高い所から足を滑らせて崖から落ちて死んじゃったんだ…

…私、もっとたくさんレシピを教えて貰いたかったなあ


リド:ねえ、ナナセ


ナナセ:なに?


リド:ナナセのおじいちゃんの名前は?


ナナセ:おじいちゃんの名前はイガワサトシ、私の憧れの料理人であり最高のおじいちゃんだよ!


リド:…!!


-翌日、図書館にて


リド:(M)調理法や調味料を開発した人ならきっと本が残っているはず

と思ってこの棚に来たんだけど…

想定外に料理に関する文献が多いな

これは王都の名店レストラン10選

こっちは王宮務めの人が書いた絵日記のような手記……これならもしかすると書いてあるかもしれない!ナナセのおじいちゃんかもしれない人のことも!

いや、この手記は書かれたのが60年前だ…

昔過ぎるな…


ナナセ:(M)ナナセが18か19歳のときに死んじゃったって言ってたから…今から5年以内に書かれた本の中に何か他の情報があるはず…


-リドの家


ナナセ:塩と砂糖以外にも馴染みのある調理料が並んでる…

これは…塩麹、かな?懐かしい香りがする…

保存されていたお肉を漬けておいて、、

リドが、帰ってきてから焼こう


ナナセ:何も知らないこの世界に突然来て最初に会えたのがリドで、本当に良かった…(ホッとひと息)


ナナセ:そろそろ良いお出汁が出来たかな?

幸いこの世界には味噌があったし、今日はたまねぎとお芋のお味噌汁にしよう

リド、喜んでくれるかな…?

ん?扉を叩く音がする


-扉を開ける


ナナセ:はい、今リドは王都へ出掛けていて留守ですよ


-リド、帰路へ着く


リド:(M)5年以内に書かれた本があんなにあるなんて想定外だった…

ナナセの不安を少しでも早く和らげてあげたいのに…

王宮からの依頼も今のところ無いから調べるなら今、なんだ…!


リド:ただいま、ナナセ


-返事も人のいる気配も無い


リド:ナナセ?ナナセ!!

(M)鍋は…まだ暖かい、火の魔法は消えている

何か買い物?いや、買い物はまだ出来ないはず…この国の通貨をナナセに渡していないし

どこに行ったの?ナナセ!

とにかく家の周りを探そう!


-走り回ること一時間


リド:(息を切らして)はぁ…はぁ…魔法以外、とくに肉体労働は苦手なんだけどな…


リド:(M)集まった情報は1つだけか…

見慣れない顔の女性が品の良いおじいさんと一緒に歩いていたこと

たぶん高確率でナナセのことだろう…

おじいさんと歩いているのなら

そう遠くへは行っていないはず


ナナセ:リド?


リド:ナナセ!!(抱きつく)


ナナセ:わっ!!

(M)リドからのハグ…!!?

し、心臓がもたないよっ!!

……あれ?


リド:(少し泣きながら)本当に良かった…

ケガは無い?酷いことされたりしてない?


ナナセ:…大丈夫だよ

突然いなくなったらびっくりしちゃうよね…心配かけてごめんなさい


リド:ナナセが無事なら僕は大丈夫だよ


ナナセ:リド…


リド:家へ帰ろう


ナナセ:うん


-リドの家


リド:今日のごはんも初めて食べるものばかりで全部美味しかったよ

ありがとう、ナナセ


ナナセ:どういたしまして

初めて食べるものばかり…ってことはこの中に食べたことのあるものがあったの?


リド:このスープは昔、王宮で食べたことがあるよ

具もおんなじ


ナナセ:王宮で食べた??


リド:4年くらい前かな、その時の王専属の料理人のおじいさんが僕に作ってくれたんだ

棚の茶色い壺の中にあるミソという調味料もその人が作り方を王宮から街中に広めたんだよ


ナナセ:やっぱりこの茶色い壺の中身は味噌だったんだね

味噌の作り方を知ってるなんて…そのおじいさん、日本人だったのかな…?


リド:(驚く)っ……!

…もしかして!!


ナナセ:どうしたの?急に驚いて


リド:あ、えーと…お、王宮の図書館で読んだ本のことを急に思い出しただけ…


ナナセ:そうだ、今日会ったおじいさんのことなんだけど…去年まで王子様の執事をしていたんだって

私が晩ごはんを作ってる時にリドの家から懐かしい香りがしたみたいで、誰が作っているのか気になって扉をノックしたって言ってたよ


リド:そうだったんだ


ナナセ:でも…リドの家に知らない人を勝手に入れるのは良くないなと思ったから

この家の近くにあるお茶屋さんでお話してたの

すぐ帰るから大丈夫かな?と思ったから火の精霊さんに魔法を止めて行ったんだけど…

私のおじいちゃんに似た人の話やこの国の料理のことをたくさん話してくれて、

聞いてたら楽しくなっちゃってつい…

…心配かけて本当にごめんなさい


リド:その会ったおじいさんはどんな人だったの?


ナナセ:この国の王子様の執事をしてたって言ってたよ

王子様は料理人の作るお味噌汁が大好きで、よく作ってもらっていて執事さんも一緒によく食べていたんだって


リド:その元執事さんはこの辺りの人かな?


ナナセ:元執事さんのことは特に話はしなかったけど…


リド:そっか…

にしてもナナセ、まだ知らない土地に来て間も無いのに

よく知らない人について行ったね


ナナセ:あはは…

料理の話となると見境なくて、、

次は気をつけるよ


リド:本当に気をつけてね

はい、約束


ナナセ:…これは?


リド:木の精霊の加護付きバングル


ナナセ:わぁ…かわいい…

お花の柄になってる


リド:よく似合ってるよ


ナナセ:ありがとう、リド


-夜は更けていく


リド:(M)「転生者」の本にはこんな記述もあった

転生後、二度目の夜に転生する直前の夢を見る…


リド:(M)ナナセはとてつもない疲労を抱えてこの世界に来た。

ナナセが転生者と確定したわけじゃないけど、共通することが多過ぎる。

もしかしたら今晩……

考え過ぎかな…僕、

ナナセと会ってからまだ三日も経ってないのに…

なんだろう…この気持ち

ナナセは僕が守らないと…なんて、

柄にも無いことばかり頭をよぎっていく…


-すすり泣く声が聞こえる


リド:…ナナセ?

(ドアを叩く)入ってもいい?


ナナセ:(泣きながら)いいよ…リド……


リド:怖い夢を見たの?


ナナセ:うん…今見た夢が本当なら私、

過労で死んじゃったってことになる…

職場の自分のデスクに座ってパソコンの電源を入れた途端…

私は意識を失って、救急車とパトカーが来て…その場で私が死んだって言ってて…!!


リド:ナナセ…


-リドがナナセを優しく抱きしめる


ナナセ:リド…?


リド:ナナセがどのくらい怖い夢を見たのか僕はわからないけど

今、とても悲しんでいるのはわかるから…このままで良いなら気が済むまで泣いて


ナナセ:…うん…ありがとう、リド



リド:(M)泣き疲れたナナセはそのまま眠りについた。

明日、元気になってくれるかな…



-翌朝


リド:おはよう、ナナセ


ナナセ:リド…おはよう


リド:朝ごはん、作ったよ

味は…いまいちだけど


ナナセ:ごはんは味よりも「誰と一緒に食べるか」が大事っておじいちゃんが言ってたよ


リド:ナナセのおじいちゃんの言葉、今の僕ならわかる気がする


ナナセ:…昨日の夜は本当にありがとう

リドが側にいてくれたから…

私、心が壊れなくて済んだ


リド:…僕はただ側にいただけ

ナナセの心の疲れがとれたなら良かった


ナナセ:…うん、もう大丈夫だよ!

元の世界では私、死んじゃったけど

この世界ではこうして生きてるんだもの!(お腹の音が鳴る)…あっ


リド:(微笑む)生きているからお腹が空く

さ、朝ごはん食べよう


ナナセ:(微笑む)それじゃあ、さっそく…

いただきます


リド:いただきます(ひと口食べる)

…やっぱり僕じゃ美味しく作れないな(笑)


ナナセ:そんなことないって(ひと口食べる)……う〜んと…ちょっと待っててね、

これをサラダに入れれば良いかな?


リド:え?これって、スープに入れるものじゃないの?


ナナセ:味噌とこの卵のオイルソースは相性抜群なんだよ、食べてみて


リド:(ひと口食べる)…あ、すごく美味しい


ナナセ:でしょ?


リド:本当にナナセは料理が好きなんだね


ナナセ:うん、昨日の夜は怖くてたくさん泣いたけど…

朝になってリドと一緒にごはん食べたら元気が戻ってきた…(微笑む)


リド:(微笑む)…ナナセ


ナナセ:(M)うっ…!!やっぱりリドの笑顔はせ、拙者には眩し過ぎ!美少年ハーフエルフ最強!!!

…あれ?…いつもの私に戻ってる


リド:二人で食べると本当に美味しい


ナナセ:(照れながら)…私、リド専属の料理人になっても良いかな?


リド:僕専属って…なんか照れるな(笑)

そうだ、去年まで王専属の料理人をしていた人の話をするね


ナナセ:王様直属の料理人!

すごい人だ!!


リド:その料理人は、

王宮から出て街中の人達に

食材を長期保存する為の調理法を教えたり

多様な味付けをするために使う

多くの調味料を開発したんだ

僕の家の棚にある茶色い壺のミソは今や

国民が常備する調味料のひとつだよ


ナナセ:私の元いた世界でも味噌って

同じ名前で同じような味なんだよね

味噌を作るなんて…

その料理人さんが私と同じ世界の

同じ国出身の人としか思えないよ


リド:「転生者」の本に料理人の名前はイガワサトシって書かれてたんだ


ナナセ:えっ!!

私のおじいちゃんと同じ名前!

だけど、全く同じ名前の人もいるし

まさか、ね…?


リド:実際に僕もナナセもその「転生者」や、本を書いた人に会ったことも無いから

今のところはただ偶然が重なっているだけかもしれないし、

もしかしたら本当にナナセのおじいさんかもしれない


ナナセ:リド…


リド:二人で「転生者」について調べてみよう


ナナセ:え、良いの?


リド:国の図書館には本が一冊あるだけ

正直、僕だけじゃ調べきれない

だから…


ナナセ:だから?


リド:二人で調べよう

国家魔道士の仕事がある時以外は

ナナセと一緒に「転生者」について知っている人を探したり、

図書館以外の場所にある本を漁ったりして


ナナセ:…リドはなんで私のために

そんなに動いてくれるの?


リド:僕はナナセがこの世界で楽しく暮らしていけるようにしたいんだ


ナナセ:リド……ありがとう(微笑む)


リド:これから大変なことがたくさんあるかもしれないけど、

ナナセと一緒なら出来ると思う


ナナセ:私も、リドと一緒なら頑張れるよ

ふつつかものですが改めて…

よろしくね、リド


リド:うん、こちらこそ

よろしく、ナナセ


ナナセ:(N)こうして私はリドと二人で「転生者」について調べることになりました。

リドは仕事をしながら。

私は家事をしながら。

ひとり暮らしで会社員をしていた時には想像も出来なかったあたたかい日々を今、

私は送っています。

たまに私がヲタ活女子の発作を起こしたりするけど…(笑)

今日も二人で朝ごはんを食べて、

リドを見送る。


リド:ナナセ、行ってきます


ナナセ:行ってらっしゃい、リド



~完~


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