第13話 俺のことが大大大大大嫌いな1人の彼女

「ちょっ!? シロパイが解雇って、どういうコトだし!?」

「あ、相棒!? 生徒会、辞めるんか!?」

「辞めるぅか、辞めさせられそうぅか……えっ? 俺の身に何が起きてんの、コレ?」

「えっ? えっ!? ど、どどど、どういうこと!? め、メイちゃん!?」

「はいはい。みなさん、落ち着いてください」




 パンパンッ! と、場を鎮静化させるように、芽衣の乾いた拍手が取り乱した生徒会役員たちの間に落ちる。


 いや、落ち着けったってアンタ……落ちつけねぇよ。


 だって俺、現在進行形で生徒会を辞めさせられそうなんだもん……。


 えっ、マジでどういうこと?


 誰がグーグル先生を呼んできてくれ!


 混乱する俺をよそに、芽衣は1度だけ大きく息を吐き捨てると、いつもの生徒会長の仮面を顔に張り付けたまま、微笑を浮かべて見せた。


 瞬間、生徒会役員はおろか村田委員長までもが顔をこわばらせた。


 そもそも、笑うという行為は本来、攻撃的なモノであり、獣が牙を剥く行為が原点とされているらしい。


 芽衣の笑みは、まさにソレだった。


 顔こそ楽しげに笑っているが、明らかな敵意をもって村田委員長を見据えている事は、この場にいる全員はもちろん、当事者である村田委員長にも分かったことだろう。




「随分とまぁ面白いモノを持ってきましたね、村田仁美さん? これはどういう意味ですかね?」

「ど、どうもこうもありません。額面がくめん通りの意味です」




 村田委員長は一瞬だけたじろぐも、すぐさま気を取り直したかのように強気な口調で言葉をつむぎだした。




「そこに居る大神士狼は、生徒会役員に相応ふさわしくありません。よって、校則にのっとり『解雇願い』を届けに来ました」

「……確かに在校生の過半数の署名が集まれば、生徒会役員を解雇することは可能です。でも、最終決定権は会長にゆだねられているハズですよね?」

「はい。ですから、こうして署名を集めて会長に直談判しに来ました」




 バチッ!? と、2人の間に火花が散ったような錯覚を覚えた。


 一瞬だけ場の雰囲気に飲まれた俺だが、すぐさま我に戻り、慌てて村田委員長に言い寄った。




「ま、待ってくれ村田委員長! お、俺のどこに問題があるっていうんだ!? 俺ほど生徒会の似合う模範的生徒は他に居ないぞ!?」

「模範ですか……そうですか」




 村田委員長はポケットから手帳を取り出し、冷めた声音で、




「ワタシが知る限りでは、窓ガラス等を割るなどの器物破損が30件以上。さらに他校の生徒との喧嘩。極めつけは、先日の全裸での校内徘徊はいかい……これでもまだ何か言いたい事がありますか?」

「凄いで相棒! 犯罪のオンパレードや!」

「器物破損に暴行罪、そして猥褻物陳列罪って……。シロパイ、よく退学にならないね?」

「ど、どうしようメイちゃん!? い、言い訳のしようがないよ!?」

「士狼、アナタねぇ……」

「ま、待ってくれ! 俺は悪くない! 社会が悪い!」




 もしくは妖怪が悪い、どぉわっはっは~♪


 よぉ~お~か~い~の~せいなのね?


 そうなのね?


 間違いない、妖怪が悪い。




「確かに士狼は村田さんの言う通り、素行は悪いですが、能力はピカイチのモノを持っています。生徒会に居なくてはならない大切な人材です。辞めさせることは出来ません」

「め、芽衣ちゃん……っ!」




 その毅然きぜんとした物言いに、思わず涙腺が爆発しそうになる。


 さすがは芽衣ちゃんだ! 


 俺の秘められた潜在能力ポテンシャルと才能に、いち早く気がついているだなんて、さすがは生徒会長! 


 人を見る目があるぜ!


 何故か周りの生徒会役員が「えっ?」というような表情で俺を見てきたが、きっと気のせいに違いない。


 気のせいだよね? 


 気のせいってことにしておこう!




「なるほど。つまり会長は、そこの大神士狼よりも優秀な能力を持った生徒が生徒会役員になれば、解雇も致し方ないと、そう言いたいんですね?」

「誰もそんなことは――」

「なら、ちょうど良かったです。風紀委員長であるワタシから、直々に森実生徒会役員に推薦したい生徒が居たので」




 芽衣の言葉を遮り、少々強引に話を進めていく村田委員長。


「入ってきてください」と、村田委員長は閉じられたドアの方へ声をかけると、ギギィッ! と重苦しい音を立てながら、扉が開いていく。




「恐らくですが、みなさん気に入ると思いますよ? では紹介しますね? 彼は――」




 全員の視線がゆっくりと開いていく扉へと注がれる。


 そして中から現れたのは、中肉中背の黒髪短髪で、いかにも異世界に転生してチートでハーレムを築いていそうな男子生徒で――てぇっ!?


 ちょっと待て!?


 コイツは!?




「彼は――2年C組出席番号35番、名前は小鳥遊たかなし大我たいがくんです」

「……ども」




 そこには我ら2年A組、いや森実男子生徒の天敵である『ヤリチンクソ野郎』こと小鳥遊大我が、至極ツマラそうな顔で立っていた。




「彼は今年の頭に転校して来たばかりなんですが、その優秀さは風紀委員長であるワタシが唯一認める男子生徒でもあります。彼ならば大神士狼の後釜にピッタリだと思いますが、いかがでしょうか?」

「……精一杯がんばりまぁ~す」




 やる気も覇気も無い小鳥遊転校生の声音が、不思議と生徒会室に響き渡った。


 その人生を悟ったような瞳で一瞬だけ俺を視界に納めたかと思うと、すぐさま視線を芽衣の方へと固定させる小鳥遊転校生。


 や、野郎ぉ~!?


 スカした態度を取りやがってからにぃ~っ!


 奥歯をギリギリッ!? 噛みしめる俺のことなんぞ、眼中にナシと言わんばかりに、涼しい顔で芽衣を見据える小鳥遊転校生。


 それが余計に俺の敵愾心てきがいしんあおっていく。




「……村田さん。申し訳ありませんが、見たところ小鳥遊くんには、やる気の『や』の字すら見当たらないようなんですが?」

「そんなことありませんよ? やる気満々です。ね、小鳥遊くん?」

「……任せてくださぁ~い」




 スゲェ棒読み……なんだコイツ?


 その人生舐め腐った態度に、思わず元気の顔が歪む。


 コイツこういう男、大っ嫌いだもんなぁ。


 俺もだ♪


 俺と元気は一瞬でアイコンタクトを飛ばし合うと、どこからともなく2人して頷き合い、小鳥遊転校生の前へと歩みを進めた。




「おうおうおうおうっ? この『なろう』主人公が俺様の後釜とは、随分とまぁ生徒会役員も安く見られたもんだなぁ。のぅ元気?」

「ほんまやでぇ! こりゃ1回ヤキを入れんとアカンのちゃいますかぁ、なぁ相棒ぉ?」

「役員っていうか、もはやチンピラだし……」

「は、はわわっ!? はわわっ!?」




 元気と一緒に小鳥遊転校生にメンチを切る傍らで、呆れたように溜め息をこぼす大和田ちゃんと、文字通りアワアワッ!? と右往左往しているラブリー☆マイエンジェルよこたん。


 俺たちのチームワークは完璧だ!


 今なら誰にも負ける気がしねぇぜ! ……って、あれ?


 なんで小鳥遊転校生は、そんなバカを見るような目で俺たちを見てくるのだろうか?




「……すげぇ小物臭がするけど、お前、ホントにあの『喧嘩狼』なのか? 人違いとかじゃないよな?」

「……残念ながら、本物です」




 芽衣が申し訳なさそうな顔で「ごめんなさい」と小さく謝る。


 バカ野郎!


 下手に出たら相手の思うツボだぞ!? 


 チクショウめッ!?


 トークの魔術師であるシロウ・オオカミの実力を舐めるなよ、小僧!?




「小物臭だとぉ? テメェ、俺のジャンボ☆フランク(自称)も見たことねぇクセに、随分とまぁ言ってくれるじゃねぇか! なぁ村田委員長? 俺のビックマグナムは、小物じゃなかったよね? 大業物21工くらいあったよね!?」

「話しかけないでください、クソムシ。耳が腐ります」




 辛☆辣!


 うっひょ~♪ 人間って、あんな冷たい目をすることが出来るんだぁ。


 もう士狼オドロキ!


 村田委員長の発する絶対零度の視線に、舌が凍りついていると、その隙を縫うように、爆乳わんがやたらニコニコし♪ ながら俺の傍まで近づいてきた。




「ねぇ、ししょー? なんでムラタさんが、ししょーのアレの大きさを知ってるって思ったの? ……もしかして、何か粗相そそうでもしたの? んん~?」

「お、落ちつけよ、よこたん!? 敵は俺じゃない! クソゥ、おのれぇ、小鳥遊大我ぁっ! 言葉巧みに俺たちの仲を分断する作戦だな? なんて策士なんだ……みんな気をつけろ! 奴はかなりのキレ者だぞ!?」

「……なぁ会長さんよぉ? ホントにコイツが生徒会役員で大丈夫なのか?」

「お願い士狼、少しでいいから黙っていて頂戴ちょうだい……」




 懇願こんがんするように涙目で俺を見据える芽衣。


 俺の身を案じてくれているのか?


 大丈夫だ、安心してくれ! 


 そして全部俺に任せておけ!


 その気持ちをこめて、グッ! と芽衣の方に親指を向けてやる。


 のだが……どういうワケが芽衣は頭を抱えて「あぁ~伝わってないぃ~」と呻き声をあげ始めた。


 俺はそんな芽衣から視線を切り、まっすぐ小鳥遊転校生を射抜きながら、こう言ってやった。




「上等だ! 俺とテメェ、どちらが真の生徒会役員として相応ふさわしいか、勝負しようじゃねぇか!」

「……ハァ、勝負?」

「それはどういう意味でしょうか、クソム――大神士狼くん?」

「えっ、委員長? 今『クソムシ』って言いかけなかった?」




 ま、まぁいいや。


 いや、よくは無いけど今はいいや。


 俺はゴホンッ! と場を仕切り直すように空咳をしながら、ビシッ! と小鳥遊転校生に人差し指を向けながら、ハッキリと言ってやった。




「ルールは簡単だ! 生徒会役員に必要なモノ、それは! 『人望』『能力』、そして『運』! ソレが俺と小鳥遊転校生のどちらが上回っているか3本勝負して、真の生徒会役員を決めようじゃねぇか!」




 瞬間、俺以外の役員全員の顔に「ヤバいッ!? 始まった!?」と言わんばかりに焦りの色が浮かび上がったような気がしたが、構わず続けた。




「これで俺が小鳥遊転校生に勝ったら、今まで通り生徒会役員を続けさせて貰う! ただし! 万が一にも俺が負けた場合は、そのときは……潔く生徒会を辞め――」

「全員っ! 今すぐ士狼の口をふさぎなさい!」

「「「イエッサー!」」」

「うわっ!? お、おまえら何を――ムゴムゴムゴッ!?」




 芽衣の号令と共に、残りの生徒会役員たちが慌てて俺の口を塞ぎにかかる。


 な、何すんだテメェら!?


 ハッ!? 


 ま、まさかこの俺のイケてるボディを複数人でメチャクチャにする気だな?


 エロ同人みたいにっ!


 エロ同人みたいにっ!?




「ち、違うんだよタカナシくん、ムラタさん! こ、これはちょっと言い間違えただけで! ねっ、オオワダさん!?」

「そ、そうそうっ! いつものシロパイジョークって奴だし!」

「ば、バカ野郎、相棒! 自ら自分の首を締めに行ってどうするんや!?」

「むぅぅぅぅ~っ!?」




 離せぇぇぇぇぇぇっ! と叫んでみるが、出てくるのはくぐもった呼気のみ。


 それでも俺の意図を汲んでくれたらしい村田委員長は、不敵な笑みを浮かべながら「なるほど」と小さく頷いた。




「わかりました。ではその勝負、そこのクソムシが勝てば、今まで通り生徒会役員として頑張って貰って構いません。ですがっ! 小鳥遊くんが勝った時は、キチンと自分の言葉に責任を持って、生徒会役員を辞めていただきますよ?」

「むごっ!」




 上等だ! と大きく頷いた瞬間、役員全員が「あぁっ!?」と何とも言えない悲しげな声をあげた。


 が、そんな事は『どうでもいい!』とばかりに、まっすぐ俺だけを睨みつける村田委員長と小鳥遊転校生。


 それはそれとして、ナチュラルに『クソムシ』呼ばわりされてるんだけど、これはアレですか? 彼女の中で俺のあだ名は『クソムシ』で確定ですか?




「では今日から2日後の土曜日にでも決着をつけるとしましょう。それでいいですか、小鳥遊くん?」

「……構わねぇ。勝負内容もソッチが勝手に決めてくれ」




 それじゃ俺は帰る、とそれだけ言い残し、小鳥遊転校生と村田委員長は生徒会室を後にした。


 俺はゆっくりと閉まっていく扉に向かって、中指をこれでもかと勃起させながら、心の中であらん限り悪態を吐きまくる。


 扉が閉まったその瞬間――その悪態が他の役員たちの口から俺めがけて飛んできた時は、流石に泣きそうになった。

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