第9話 我が家に女神が舞い降りた!

「――あっ、もしもし洋子? 実は今日雷がすごくって、家に帰れそうにないの。だから今晩、知り合いの家に泊めて貰うことにしたから、玄関の鍵は掛けておいていいわよ。……えっ? えっと、宇佐美さ……大和田さんの家。うん、そうそう。だから心配しないで大丈夫よ。はぁ~い。それじゃ、おやすみぃ~」




 ピッ! とスマホの通話ボタンをタップし「ふぃ~」と一息入れる芽衣。


 場所は生徒会室から頑張って移動して、大神家のリビングのど真ん中。


 俺が勇気を振り絞り、1人で何とか湯船にお湯を入れてるミッションを完了させ、リビングへと戻ってくると、芽衣が同居人であるマイ☆エンジェルに電話していた所だった。


 芽衣は俺の存在に気がつくなり、雨で濡れた亜麻色の髪を軽く指で払いのけながら、




「あっ、おかえり。お風呂いれてくれた?」

「おう、バッチリだ。それよりも、よこたんは何て言ってた?」

「ん? 普通に『わかったぁ~』って、いつも通りポワポワ♪ とした返答よ」




 う~む?


 なんだか新婚さんみたいなやり取りに、ちょっとだけテンションが上がってしまうなぁ。


 トキメキに胸を高鳴らせた俺だが、すぐさま「ゴロゴロゴロ……」と鳴り響いた雷によって、打ち消されてしまう。 


 俺はすぐさま芽衣の手、というか腕にしがみつき、ブルブルと生まれたての狼のように身体を小刻みに震わせた。




「ほんと雷が怖いのね、士狼」

「こ、怖いワケじゃねぇぞ? ただちょっと苦手なだけだ!」

「ふぅ~ん? じゃあ手ぇ離してもい~い?」

「嘘です! メチャクチャ怖いです! だから手を離さないで――って、あぁっ!?」




 芽衣はいたずらっ子のように『にたぁ~❤』と意地に悪い笑みを浮かべたかと思ったら、そのままスルリと俺の腕の中から魔法のように居なくなってしまう。


 そのタイミングを見計らっていたかのように、再び「ドォォォォォォンッ!」と我が家を揺らすほどの雷鳴が、辺り一面に鳴り響いた――ってぇ、ひぃっ!?




「待って、待って!? どこに行くの、芽衣ちゃん!?」

「いやぁ、先にお風呂でもいただこうかと思ってね。さすがに体が濡れたままじゃ、気持ちが悪し」




 さも当然のようにリビングから出て行こうとする芽衣。


 俺はそんな会長閣下の細い腰に、全力で抱き着いた。


 そのまま瞳に涙の膜を張り、イヤイヤッ!? と首を激しく横に振る。




「うわっ!? ちょっ、士狼?」

「バカ野郎ッ! 俺を1人にするんじゃねぇ! 泣くぞ? 超泣くぞ? いいのか!?」

「どうしてアンタは、そう弱気で強気に出られるのよ?『1人にするな!』って言ったって、このままじゃ2人とも風邪をひくわよ?」




 雨に濡れて若干寒いのか、服の上からでも芽衣の身体が震えている事に気がついた。


 なるほど。


 確かにこのままでは、2人して風邪をひいてしまうのは確実だろう。


 かと言って、芽衣1人だけお風呂場へ行かせて、俺だけリビング待機なんて事になろうものなら、俺の下半身が大雨洪水警報を発令してしまう。


 最悪『パンツ』という名のダムが決壊し、我が家のリビングに琵琶湖を形成してしまうかもしれない。


 並みの男なら、ここで「どどどどど~すんのど~~すんの?」と、超ミニな浴衣を着込んだウマのような尻尾と耳が生えた美少女と共に、可愛く小首を傾げ、トレセ●音頭を踊り出す所だが、神々もビックリの頭脳を有しているこの俺、シロウ・オオカミはそんな無様な声は出さない。 


 そう、もうすでに、この危機を乗り越えるための手段は俺の手の中にあるのだ!


 故にこそ、俺はいつものように、自信満々に、女の子が惚れてしまいそうなニヒルな笑みを浮かべて、言ってやるのだ!




「――よしっ、なら一緒にお風呂に入ろう! それなら問題ないハズだ!」




 瞬間、芽衣の紅玉のごとき瞳が、こぼれんばかりに見開かれた。

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