第4話 ヤマキティーチャーと愉快な生徒たち

「――大神よ? おまえは先生に何か恨みでもあるのか?」

「まっさかぁ~っ! 俺ほどヤマキ先生をリスペクトしている生徒は、中々いないですよぉ♪」




 村田風紀委員長の怒声が校舎に響き渡って、30分後の職員室。


 俺は5時限目の授業に出席することなく、職員室の一室で、コメカミをピキピキ言わせたヤマキティーチャーと向き合いながら、反省文とにらめっこしていた。


 あっ、もちろん全裸じゃないよ?


 ちゃんと服は着てるよ……プライドっていうね。


 いやぁ、ビビるよ?


 村田風紀委員長が叫んだせいで、ソレを呼び水に、どんどん人が集まってくるのよね。


 しかもテンパった大和田ちゃんが、何故か俺の制服を持ち去って、その場を遁走とんそうしちゃったのもんだから、さぁ大変!


 全裸のナイスガイのお兄さんと、腰を抜かして涙目の村田委員長だけが取り残されちゃうっていう、もう犯罪の臭いしかいない空間が出来あがちゃったのよね、コレが。




『おいっ、なんの悲鳴だ!?』

『コッチだ! コッチから悲鳴が聞こえたぞ!?』

『誰か先生を呼んで来い!』




 なんて廊下から不穏な会話が聞こえてくるは、冷や汗は噴き出るは、全裸だはで、もうね……社会的に死ぬんじゃねぇの俺? って気分だったわ。


 そっからはもう、アレよアレよと言う間にオーディエンスが集まってきて、怒声と悲鳴のオンパレード♪


 その絶叫の熱量といったら、もう「立てよ国民!」「アンギャ―ッ!」とか言い出しかねない怒涛の勢いさえあったね。


 気がついたら真冬だというのに、駆けつけたヤマキティーチャーによって生まれたままの姿で職員室の一室に放り込まれてましたよ、えぇ。


 そして今に至る、というワケですね!


 ……ほんと、どうしてこうなった?




「いやぁ、それにしても職員室の中は温かいですね! スッポンポンだというのに、少し汗ばむくらいですよ!」

「……おまえは今、自分が全裸であるという自覚はあるのか? 肝が据わり過ぎにも程があるぞ? 落ち着き過ぎていて、逆に先生の方が怖いわ……」




 ヤマキティーチャーがドン引きした様子で俺を見据えてくる。


 いやいや、心外ですよ? 


 俺だってこの場に制服があればキチンと着替えていましたからね?


 まぁその制服も、今や大和田ちゃんが持って行って無いんだけどね!




「やだなぁ先生! 今さら全裸くらいで慌てふためくほど、俺は子どもじゃありませんよ? こちとら何度ハードゲイにお尻を掘られかけて1等賞しかけたことか……。今さら裸程度で恥らうほど、ヤワな人生は送っていませんよ?」

「ぜ、全裸に躊躇ためらいが無いだと? お、大神……。おまえ、そのよわいで一体どういう人生を歩んできたんだ?」




 何故か大変な変態を見るような目で俺を見つめてくる、ヤマキティーチャー。


 どうしたのだろうか?


 俺のあまりに美し過ぎる肉体美に、見惚れているのだろうか?


 思わず大胸筋を意味もなくピクピク♪ 震わせていると、ヤマキティーチャーがコメカミを押さえながら、吐息と一緒にストレスを吐き捨てるように、




「なぁ大神よ? この3学期が始まって、もう2週間経つが、その間にお前が書いた反省文は何枚だと思う?」

「14枚程度ですかね?」

「60枚だ、バカたれ! おまえが入学してから書き続けた反省文は、何枚になると思っている? 730枚、730枚だぞ!? ちょっとした文庫本が5冊ほど出せる分量レベルだぞ!?」




 おまえは作家か小説家か?


 違うだろ!?


 男子高校生だろ!?


 と、熱弁をしてきたヤマキティーチャーが、疲れたように小さく溜め息をこぼした。




「頼むから、新年早々トラブルばかり起こさないでくれ……。先生の胃はもう限界だぞ?」

「むっ? お言葉ですが先生、トラブル最高じゃないですか! 朝起きたら全裸で添い寝、つまづいたら股間へダイブ、妹……満更まんざらでもない。まったく、あのご時世に週刊誌で地区Bを描く漢気おとこぎに、一体どれほどの青少年が勇気を与えられていたことか」

「そっちの『To L●VE』じゃないわ、バカたれが。……ハァ、お前ももう少しでいいから転校生のように大人しくしていてくれたら、先生としてもかなり助かるんだけどな……」

「いやぁ、俺なりに大人しくしてるつもりなんですけどね? って、うん? 転校生? なんですか転校生って?」




 聞き慣れないワードに、意味もなく僧帽筋そうぼうきんを震える。


 そんな俺を見て、共鳴するかのようにヤマキティーチャーの上腕二頭筋がピクピクと痙攣した。




「なんだ大神、知らんのか? 3学期の頭から、2年C組に転校してきた生徒が居るんだよ」

「へぇ、この時期に珍しいですね。……女の子ですか?」

「いや中肉中背の黒髪の男子生徒だ」

「……そうですか」

「あからさまに興味を無くしたな、貴様。一気に心の距離が離れて、先生ビックリしたぞ?」




 先生と世間話を繰り広げながらも、右手は別の生き物のように反省文を執筆していく。


 それにしても、ここ2年ですっかり反省文も書き慣れたなぁ。


 なんて思っていると、ヤマキティーチャーの呆れた瞳が俺を捉えていた。




「相変わらず執筆スピードだけは1人前だな。これで中身も少しはマトモなモノになってくれたら、言うこと無しなんだが……」

「えっ? 俺の反省文に、何か問題でもありましたか?」

「むしろ問題しかないわ。大神おまえ……今自分が書いている反省文の内容を声に出して言ってみろ?」




 俺の反省文の内容?


 まぁ別にいいけど。


 俺はヤマキティーチャーに言われた通り、書きたてホヤホヤの反省文の中身を、職員室に残っていた先生方に聞こえるように、朗読してやった。




「『拝啓 村田委員長へ~大神士狼より愛をこめて~


 突然のお手紙でごめんなさい。


 こんな形でしか自分を表現できない私を許してください。


 今日は村田委員長に謝罪しようと思い、筆を執らせていただきました。


 気がついたら全裸のナイスバディなお兄さんが目の前に現れ、知らないうちにお股に顔面ダイブをかました村田委員長の心中、お察し申し上げます。


 しかし、アレにはやんごとなき事情があったのです。


 それを語るには、まず私の生い立ちから話さねばなりません。


 そう、アレはまだ私が【大神士狼】ではなく、大勇者【ストロガノフ・ビーフシチュー】と呼ばれていた時のことです。


 世はアンデットと呼ばれる魔物に支配され、人間は彼らに見つからないように息を潜めて生きていくしかなかった暗黒の時代。


 これはその暗黒の時代を終わらせるべく立ち上がった1人の少年、【ストロガノフ・ビーフシチュー】の愛と勇気の物語である――』」




「ちょっと待て大神? 一応確認しておくが……反省文なんだよな、コレ?」

「? そうですよ、何を当たり前のことを言って――ハッ!? そうか! さては俺の反省文の手に汗握る内容を前に、興奮と共に幼き頃に誰しもが持っていた少年の心と冒険心をムクムクと刺激され……安心してください先生! そして期待してください先生! コレはまだ物語の冒頭の話で、これから現実世界の俺と過去の俺がリンクしていき日本の、ひいては世界の暗部を白日の下にさらしていく、ヒューマンドラマへと発展して――」





 ――書き直させられたよ☆(テヘッ♪)

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