好奇心はネコを殺す

森 三治郎

第1話

「あれ・・・・」


 私は、“何とか院”とある位牌の裏に小さな箱を見つけた。


私は居候だ。ここは私の家ではない。従兄弟の加藤勝彦の家だ。勝彦の父、慶彦の家で慶彦の父善蔵が同居している。


居候の身で、神聖な仏壇にある物を探るなどしてはいけないと思いながらも、好奇心を押えることが出来ない。


そ~と、取り出してみた。漆塗りの木で出来た、小さな箱だ。『何だろう、小判でも入っているのかな』と思い、ドキドキしながらそろりそろりと開けた。


綿が詰まっていた。その綿を除けると、枯れ木のような物があった。手に取り、じっと見た。


「わっ!」


私は、それを取り落とした。それは、干からびた指だった。


「加奈、何をしている」


「⁉・・・・」


勝彦が、怖い顔でにらんでいた。


私は、転がった指、そして優等生の勝彦が唯一気にしてる部分、右手の小指わきのへんに肉が盛り上がった部分を往復していた。


勝彦の視線は震える箱、そして転がり落ちた指に。


そして、よりけわしい、恐ろしい、物凄い禍々まがまがしい顔で私を見た。


優等生で、温和で、優しい面影は無い。


「ガッ!」と来た。






「わあー!」


異様な叫びを聞いて、善蔵が飛んできた。


「どうした」


「ううう・・・・」


善蔵は転がった箱、干からびた指、横たわる加奈、首を絞めた状態のまま固まった勝彦の手を見て、状況を悟った。


「何てバカなことを」


「うう」


「あのな~指が一本多かったくらい、何でもないんだぞ~。若いころは、何でも潔癖症ぎみになるがな、そんなことは何でもない。気にすることないんだ。馬鹿者が」


「うう」


「どうするつもりだ」


「自首するしか・・・・」


「う~ん、『好奇心はネコを殺す』か、『きじも鳴かずば撃たれまい』に。加奈もへんな物を見てしまったんだな~」


善蔵は動かない加奈を見ていた。


「しょうがない。首吊りに見せるしかないか」


「えっ、それって」


「起こったことはしょうがないだろ。元に戻るわけじゃなし」


僕を、助けてくれることはありがたいけど・・・・それって犯人隠避いんぴ、共犯。法律違反じゃ・・・・。いや、いや、切り替えが早すぎるんじゃ・・・・。


「そっちを持て」


二人で加奈を持ち上げようとした時、「げほげほげほ」と加奈がせき込んだ。


僕は思わず加奈を取り落とした。“ゴツン”と音がした。


僕も善蔵じいさんも、飛び上がるほど驚いた。


「加奈、大丈夫か」


「うん、大丈夫」


加奈はしわがれた声で応えた。






 それから、私はハスキーボイスになってしまった。


クラスの男どもから、急に「女っぽくなった」とか「魅力的な声」とか言われてモテモテになった。


良かったのか、悪かったのか判らない。


勝彦とは、指のことも死にかけたこともダブーとなっている。





・・・・・・・・・・・・



多指症→手と足の指が多い症状です。


発症率は、1000人に1人か2人といわれています。真偽のほどはわかりません。


私のまわりにそんな人は居なかったし。


豊臣秀吉は、手の指が6本あったといわれています。これも、真偽不明です。

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好奇心はネコを殺す 森 三治郎 @sanjiro

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