【第二十二話:ロック・シザーズ・ペーパー】

「直樹君、行きましょう」

「ええ、信濃さん」

 ビニール手術着を脱ぎ、指定衣装に着替えて渡り廊下のゲームルーム前に立つ2人。

 誘拐されて青ビニール手術着に着替えさせられる直前に着ていたブラウスにスカートにローフアーに着替えた信濃さんと学校の制服姿の直樹。

『00:03:18』

 その真意はさておき、第五遊戯会場入室期限まで残り時間約3分を告げる腕内のスマートウオッチカウントダウンを確かめた2人は覚悟を決めて扉を開ける。


『ハアイ、ようこそ最終遊戯会場へ!! さぁさぁ、お2人共お席にどうぞ!!』

 3枚の裏にしたトランプが置かれたテーブルとイス2つが置かれたシンプルな部屋で一人待っていたゲームマスター・レデイ。

 立派すぎる美巨乳とスタイリッシュな美グラマーボディを見せつけるぴたぴた黒ハイレグエナメルスーツと首元に黒蝶ネクタイチョーカー。

 頭には黒いピンピンのうさ耳ヘアバンド、網タイツ美脚にハイヒール、手首には白い帯輪を付けたお色気MAXのバニーガールレデイ。

「……」

「……」

 自分たちを誘拐して多くの狂遊戯で苦しめた張本人とは言え女神も顔負けの美しすぎる姿に圧倒されてしまった2人は促されるままに椅子に座る。

『今回の最終ゲームは……カードゲーム3本勝負!! さあそのカードを表にしてみて?』

 裏になっているとは言えこの明らかにトランプなカードとラスベガスを連想させるバニーガールレディ。

 ルールは知らないがポーカーゃブラックジャックでもやらせるつもりなのだろうか…… ? 懸念と共に2人は手元のカードを表にする。


「これは……グーチョキパー?」

 青いグー、チョキ、パーのイラストが書かれたカードを前に戸惑う直樹。

「赤だけど……私も同じだわ。」

 信濃さんは自身の赤いグー、チョキ、パーのイラストが書かれたカードと直樹のカードを見比べる。

「まさかこれってジャンケン……なのかしら?」

『その通りよ、信濃さん!! 今から2人にやってもらうのはジャンケンのカードゲーム。

 ルールは簡単! お互い1枚選び、裏にして目の前に置きデイーラーの私が表にする……そしてあいこはノーカンの3本勝負で2勝した方が今回のグームの勝者となるのよ!!』

 真っ赤なルージュでお色気たっぷりに微笑みつつ、説明を終えるレデイ。

(つまりこれは……どうあがいても1人しか勝ち残れない。そういうグームじゃないか!!)

 ジャンケンを題材にした単純なゲームである事はさておき、対戦回数は3回であいこは無効試合。

 つまりは自分が勝てば解放されるが信濃さんは殺される、信濃さんが勝てば解放されるが自分は死ぬ。

 その事実に気づき、カードを場に出すように目線で促すレディを前に固まってしまう2人。

「あらあら、どうしたものかしら……このままではグームが進まないわ。しょうがないわねえ? ど・れ・にしようかなっ……と』

 そう言いつつレディは直樹と信濃さんの手札を裏から適当に選び、伏せた状態にして置く。

『さあ、運命の時間よ……覚悟はいいかしら?』

「まっ……」

「まだ……」

『カードオープン!!』

 直樹と信濃さんのストップに構うことなく2枚のカードをめくったバニーレデイ。

『うふふ、赤のグーと青のパー……おめでとう! 直樹君の先勝よ!!』

 そう言いつつ直樹の右頬にキッスするレデイ。

 自身の頬にくっきりと付いたルージュのキスマークに直樹は嫌悪感さえ覚えるが、拒むことさえ許されないそれを受け入れるしかないと言う現実を理解していた彼はポーカーフェイスで我慢する。

『さあ、三本勝負はまだ終わらないのよ……準備はよろしいかしら?』

 テーブルでカードを持つ2人を見下ろしつつ妖艶に微笑むレデイ。

(もし次に直樹君が勝ってしまったら……私、わたし……)

 とにかく何でもいいから場においてゴーサインを出さないと意思に関係なく強制進行される。

 それを理解し、震える手で赤のチョキを選んで裏置きする信濃さん。

(あいこが無しと言う事は……僕が勝ってしまったら信濃さんが、信濃さんが……)

 さっきの1回目は自身と信濃さんの同意無しにバニーレディに強制執行されたものだ、ジャンケンと言うゲームの特性上運よく勝ってしまったとは言え自分に非はない。

 アイヒマンナントカではないが、どうにか自分を無理やり正当化しようとしようとしてしまう直樹。

 そんな醜い自身に直面させられた事で生じた強烈な罪悪感、死の恐怖と生存本能で脳と心をもみくちゃにされつつも青のパーを選んだ直樹も震える手で裏置きする。

『さあ、両者共に出そろったようね……カードオープン!!』

 赤のチョキに青のパー。ひとまずラウンド2で敗者としての死を回避した信濃さんはレディーにルージュキッスをされつつ、安堵の涙を流す。

『さて、次が最終ラウンドとなるわけだけど…・・・・ここで特別ルールを追加するわ。

 リチャード、休憩中のお2人に冷たいお水を』

『かしこまりました』

 どのみち『あいこは両者同点』と言う2人共揃って助かるものでないのは確かだ。

 仮面執事リチャードが置いて去ったよく冷えて未開封のペットボトルを開けて飲む直樹と信濃さんはあきらめ7 割、期待1割、その他の感情2割でもったいぶるバニーレディに耳を傾ける。


【第二十三話:ダウト・ヒューマンリィに続く】

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