【第十四話:ブレイブ・ヒーロー】
「挙句の果てにはキチガイ女に誘拐されてこんな傷モノにされたとあっちゃあ……仮にここから生きて出られたとしてもホームレスでゴミ漁り待ったなし、そうでしょ?」
瞳孔全開の真っ黒な目を見開き、エアタバコで鎮静ニコチン補充しつつ無理やり笑うRINKO。
「それでさ、こんな形ではあったけど……あたし、あなた達みたいな善良な人達と出会えてこの数日間本当に楽しかった。こんなクソみたいなゲームでもみんなと一緒に参加出来て協力する喜びや生き延びれる幸せを知ることが出来て本当に良かった」
「……」
「あたしみんなと違って帰る場所も無いから……加藤君が死んだ時点でどこかで脱落死するしかないなって決めたの。でもクソみたいな人生でも最期に独りで逝くのは寂しいから皆も一緒に来て欲しいわ。だからお願い……このまま一緒に脱落、して、ね? おねがい? エヘッ……エヘヘヘヘ、ヘヘヘヘ」
「RINKOちゃん、落ち着いて!! その手の怪我も治療しないといけないし……その危ないガラス片を棄てて正解のお人形さん達をこっちに渡して、お願いよ!!」
「そっ、そうですよ。最初にあの賞金を見たでしょ? あれだけの金があれば……人生遊び暮らすのは無理でも何とかなりますから、だから落ち着いて、ねっ?」
訳も分からぬままぽろぽろと涙を流しつつ薄気味悪くふひふひ笑うばかりのRINKOの説得を試みるハ卜派信濃さんと佐倉川。
だが強烈なタナトフォビアで心を完全に閉ざしたRINKOにその声は届いていない。
「…… くっ!!」
予期せぬ仲間割れに構うことなく動き続ける時計。
発狂RINKOに確保されてしまった5つのガスマスクドールをあきらめて残り2つだけでも確保すべきか、多少の怪我は覚悟で恐怖のあまり発狂した元・仲間を取り押さえるべきか迷う6人。
「うおおおお!!」
「牛田さん!?」
そんな中上着を脱いで闘牛士のマントの如く構え、猛牛の如くRINKOに突撃していく牛田。
「ぶごぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びと共に突っ込んでくる大男に大きな上着を頭から被せられて視界を封じられたRINKOが怯んだ隙を逃さず牛田は凶器を持った右腕を掴む。
「離せ!! 離せよ!! 離せええええ!!」
視界を封じられたまま牛田の大きな手にものすごい力で細腕をがっちり掴まれ、パニックに陥ったRINKOは握った凶器を手放さず無茶苦茶に身をねじりよじって抵抗する。
相手が女性とは言えこの状況では手加減してはいられない、そう判断した牛田は右腕を完全に押さえ込みつつ背後に回り込み、そのまま首を締め上げて動きを止める。
「ぐああああ!! ぐっ…… ぐぁぁぁ!!」
「RINKOちゃん!!」
「早く人形を取れ!! そして指定位置に置くんだ!!」
首を締め上げられ、腕をへし折られる恐怖で獣のようなうめき声を上げるRINKOと顔を真っ赤にして全身の力を振り絞って押さえ込む牛田。
これはチャンスだとわかりつつも体が動かない5人。
『あらまぁ、流石は元武道家の牛田さんね!! 刃物を振り回す発狂した子を一瞬で押さえ込むなんて見事だわ!!』
こんな状況でも空気を読まずにおちゃらかすような声でゲームに乱入するゲームマスター・レディ。
『鮮やかな動きに見惚れちゃう気持ちは分かるけど……まずは自分の安全確保をした方がいいんじゃないかしら? それに残り時間的にあと2つを探す余裕は無いようだけど?』
「!?」
慌てて腕内のスマートウォッチを確認する5人。
RINKOによる隠匿行為発覚からの発狂によるとんでもないタイムロスで05:23:63まで減っていた残り時間。5人は慌てて動き出す。
「私のは1番だわ!!」
「俺のは5番です、いそいで鳥籠に戻さないと!!」
「これが5番の箱じゃ!!」
「源太郎さん、あぎっす!!」
牛田に取り押さえられたRINKOのガーターベルトに挟まれていたガスマスクドールとコルセットの胸に押し込まれていたガスマスクドールを回収し、手帳の特徴とケースの番号を照合する5人。
「よしっ、行くぞ……せ―のっ!!」
ガスマスクドール片手に鳥籠の前に立った5人は同時に人形をかご内に置く。
「よしっこれで正解のは……いてっ!!」
神経に突き刺さる痛みと共に間違いなく何かを体内に注入したスマートウォッチ、その画面を慌てて確認する。
『CONGRATURATION!! YOU GOT AN ANTIDOTE!! PLEASE WAIT WHILE POISON GAS ATTACK』
「ええと……おめでとう、アナタはアンチドテを得ました。毒ガスアタック開始までお待ちください。毒ガスだって!?」
大文字だらけで文節が分かりづらい英文を読んで直訳した直樹。
同じ画面に表示された毒ガスと言う単語に気が付いた5人の顔が青ざめる。
【第十五話:ルーム・エスケイプに続く】
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