【第五話:バイオレント・サムライ】

「うおぉぉぉ!!」

 サムライリチャードの法螺貝が鳴り響くや否や上半身を脱ぎ捨てて袴一枚になり壁の刀掛けに疾走するまだら金髪男。手当たり次第にチャンバラ刀を掴み、十数本のそれを上着で無理やり縛って丸太の如く太い束にした男は凶悪な眼つきで8人を品定めする。


 安全に考慮した素材で出来ているとは言えあの凶悪な束で殴られたら痛いでは済まないと察したその他全員。なりふり構わず確実に勝つ卑劣な方法を選んだ名も知らぬまだら金髪男に対抗すべく慌てて床に散らばったチャンバラ刀を拾って構え、ポーズだけでも反撃の意思を示す。

「ヂッ…… !!」

 流石に8対1では分が悪いと判断したのか攻めに転じる事が出来ないまだら金髪男。

 無用の長物となったチャンバラ刀の東を手にどうしたものかと考えていたその時だった。

「ひぇぇぇぇえぇ!!」

「あっ、バカ!!」

「うごぉぉぉぉ!!」

 プレッシャーに耐え切れずチャンバラ刀を放り出して部屋の隅に駆けだし、頭を抱えて丸くなってしまったロン毛ニキビ男。それを逃さずまだら金髪男はすぐに襲い掛かって武器で無茶苦茶に殴打し始める。

『さあ、面白い展開になったわね!! 流石はチーマーヘッドの竜五郎君、この奇策で彼にだけどんどんポイントが入っていくわ!!』

 安全な場所で高みの見物に興じるミステリアス花魁レディの頭上に現れたモニターに映し出される縦棒グラフ。

 まだら金髪男の顔写真アイコンと竜五郎の名前上の棒は他の8人を置き去りにして雨後のタケノコの如くにょきにょきと伸びて行く。

『ちなみに同点最下位もありだからね!! さあ残り17分よ! 他の皆もハッスル、ハッスル!!』

 チンピラ狂獣の標的にされてしまった哀れなロン毛ニキビ男はとにかくとして、最悪の場合チンピラ男を除く8人が全員脱落……その事実に気づいたものの荒れ狂うケダモノに殴り掛かる勇気の無い7人はどうしようもなく立ち尽くす。

「お互いにペアで打ち込むんだ!! そうすれば最下位脱落だけは回避できる!! 直樹君、早く僕を叩くんだ!! 君も僕を叩け!!」

 直樹の肩を掴んで自身と向き合わせた聖は慌てて近くに落ちていたチャンバラ刀を1本拾って2本重ね持ちにし、直樹の横腹に細かく優しいリズミカルな打ち込みを始める。

「……ごめんなさい!!」

 聖と同じく近くに落ちていたチャンバラ刀を拾って2本重ね持ちにした直樹も聖の肩にリズミカルに何度も振り下ろす。

「少年よ、すまない!!」「ごめんなさい、源太郎さん!!」「牛田さん、許してくれ!!」

 それに続いて3人で輪になってお互いの背中と肩を打ち据えあい始める牛田さん、浩介、源太郎。

卑劣な竜五郎の上昇速度には到底追いつかないが、5人の棒グラフも少しずつゆっくりと確実に伸び始める。


「あたしたちも、ほらっ!!」

「RINKOさん、そんなの出来ません!!」

 袴の紐と胸のサラシを抜き取って小ぶりなチャンバラ刀束を2セット作ったRINKOは唄子に1束渡し、対面ペアとなって打ち合いを始める態勢に入る。

「しっかりしてよ!! あの男みたいに死にたいの?」

「いっ、嫌ですぅ!!」

 半泣きでガタガタ震えながらどうにか重たいチャンバラ刀束を右脇に抱え、腰を回してRINKOの左腕にペチペチと打ち付ける唄子。

「よしっ、じゃああたしも行くよっ!!」

 その邪魔にならないように右腕でチャンバラ刀束を抱え込んだRINKOも唄子の左わき腹にペチペチと打ち付ける。


(さあ残り30秒!! 最下位になるのは誰かしら? 誰かしらぁ?)

「あはははは!!」「うひゃひゃひゃひゃ!! うひゃひゃひゃひゃ!!」「ふぉぉお!! ふぉぉぉ!!」「たのじぃよぉ うわぁぁぁん!!」「皆、あと少しだ!! 正気を保てぇ!!」「うわあぁぁ!」

 わずか十数分の恐怖で思考感覚も麻痺して何をやっているかも分からなくなり、発狂寸前な参加者の悲鳴と泣き声、使いすぎて壊れてしまったチャンバラ刀の破片が床中に散らばった阿鼻叫喚のチャンバラゲーム。

「ヂッ!!」

 力任せに振り回し殴打しすぎて使い物にならなくなった特大チャンバラ刀束を投げ捨てたチンピラ竜五郎はロン毛ニキビ男からさらにスコアを稼ぐべく使える状態のチャンバラ刀を探しだす。

(ああ、もう死ぬんだな……)

 腫れ上がった顔でそんな様子を見つつ走馬灯に思いをはせる佐倉川 史雄(さくらがわ ふみお)。

 大企業創業家にしてエリート資産家一族に生まれ、超一流高校を首席卒業したものの超一流大学受験に失敗。それ以来一族の落ちこばれ爪弾き者と蔑まれ、数年間の安酒漬けの昼夜逆転引きこもり生活となっていた佐倉川はどこからか見つけた来たチャンバラ刀を手にとどめを刺しに向かってくるチンピラ男を前に地面に崩れ倒れる。

(ピッ?)

 何かに当たって腕内のスマートウォッチが反応した気がしたものの、動く力も無い男は振り下ろされるトドメの一撃を前に目をそっと閉じた。


【第六話:ジャイアント・キリングに続く】

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