第2話 スイス2日目 グリンデルワルドへ
トラベル小説
朝6時に目を覚まして、ホテルの朝食会場に行く。朝食会場は別棟というかHインの本館にある。朝4時から開いている。さすが空港近くのホテルだ。空港までシャトルバスもあるという。それがわかっていれば、夜遅く来ても問題なかったのに・・と思ったが後の祭りである。
ビュッフェ形式の朝食は充実していた。ハムやチーズだけでなく、野菜サラダがあるのは嬉しい。コーヒーもおいしかった。
9時ホテル発。ベンツは快調に高速道路を走る。制限速度の120kmを出してもスピード感を感じなかった。まるで60kmで走っているみたいな感覚だ。クルマの良さか、道路が広くて走りやすいからなのだろうか。
高速道路を下りると谷合いの道に入り、上りの道だ。30年前にも走った道だ。途中の踏切で、遮断機につかまった。赤い色の氷河特急の電車が横切っていく。妻はシャッターを切りながら喜んでいる。
昼前にはグリンデルワルドに着いた。ホテルは駅に隣接しているDホテルだ。ここに3泊する。30年前にも泊まった思い出深いホテルだ。前回は駅側の部屋だったが、今回は山側の角部屋。見晴らしがよくて最高の部屋だ。小さなテラスもあり、山やグリンデルワルドの草原地帯を望むことができる。
登山電車のチケットを購入する。往復の正規料金は2万円を越す。距離計算をすると世界一高い鉄道料金だ。途中のクライネ・シャイデックまではさほど高いとは思えないが、そこから先のトンネル部分がやたら高いのだ。でも、100年前に人力で掘ったトンネルだから無理もない。
今回は、日本でハーフチケットを購入しておいたので、1万円ほどで購入することができた。ハーフチケットも1万円ほど取られたので、これで元はとった。明日以降からの登山電車は半額で乗れることになる。あと4日間乗る予定があるので、何回も乗る人にはすご~く有効なアイテムだと思う。
指定された1時までにはまだ2時間ほどあったので、昼食をとることにした。安くて、早くて、うまいという店を探すのは至難の業だ。メインの通りを歩くと、バカンスシーズン前なのに、観光客であふれている。どこも時間がかかりそうだ。少し歩くと、スーパーの裏手にピザ屋さんを見つけた。開店したばかりなのか、お客はだれもいなかった。客のいない店はある意味危ないが、値段は2000円から3000円程度とスイスでは格安の部類。味は期待しないということで、メニューの一番上のピザ1枚とコーラ2本を注文した。ピザならば二人で分け合える。
10分ほどでピザが焼けた。薄焼きのピザだ。それを持ってテラス席へ。アイガーとヴェッターホルンがよく見える。最高の天気だ。気持ちのいい陽の光を浴びて、ピザを食べてみると、これが結構おいしかった。なんのことはない代り映えのしないピザなのだが、かつてローマで食べたピザとそん色のない味だった。
「あたりだったね」
と妻も喜んでいた。もて余すことなく完食できた。もう1枚食べてもいいと思ったぐらいだ。が、店の入り口には観光客が列をなしていた。どうやら私たちが入ったことで、呼び水になったようだ。
1時の登山電車に乗車。最初は下り、下の駅でスイッチバックをし、登り始める。窓際に座ったので、妻は景色にうっとりしている。緑の牧草地と白のアイガー・青い空とコントラストがすばらしい。
車掌が検札にやってきた。我々は問題なかったが、近くにいた外国人のグループに車掌が食い下がっている。よくは聴き取れないが、どうやら登山鉄道に乗れない周遊券で乗ったようだ。レイルパスというものだ。これには登山鉄道以外という注釈がついているのだが、この外国人はそれを知らず、鉄道ならば何でも乗れると思っていたようだ。故意ではないようなので、車掌は根気よく説明していたが、聞いていると
「800frans 」という金額が聞こえてきた。およそ10万円だ。10人ほどのグループなので、一人1万円ほど。クライネ・シャイデックまでの往復の正規料金だ。外国人は困った顔をしている。結局、その外国人グループは次の駅で降ろされた。その後、歩いて山を下ったのだろうか。1時間ほど歩けばグリンデルワルドに着くが、どうしたのだろうか。旅はトラブルというが、こういうトラブルはいやなものである。事前の情報収集は大事だ。
アイガーに見とれているうちにクライネシャイデックに着いた。乗り換えである。ユングフラウヨッホ駅に向かう電車に乗る。バカンスシーズン前なのに満員だ。人気観光地だから無理もない。トンネル前の駅で止まる。あたりはまだ雪が残っている。本来の計画では、ここからハイキングを始める予定だったが、これでは無理とあきらめた。計画変更だ。
トンネルに入り、2つの途中駅で止まる。工事用の穴を利用した駅だ。ここから見るとグリンデルワルドの村がディオラマに見える。でものんびりしていると、乗り遅れてしまうのでそそくさと電車にもどった。前回は、団体客用の車両にのってヒンシュクをかったので、車両を間違えないように気をつけた。
ユングフラウヨッホ駅に到着。TOP OF EUROPE の名のとおり、ヨーロッパでもっとも標高が高い3,454mの駅。軽い高山病を感じる。頭痛がするのと、呼吸がつらい。ゆっくり歩く。階段に座りこんでいる人もいる。
エレベーターで最高峰のスフィンクス展望台(3.573m)に上がる。足元には雪が残っているので、気をつけて歩く。手すりにさわりながら、景色を見ると西にユングフラフ(3,970m)南にアレッチ氷河が見渡せる。30年前に見た時よりは小さくなった気がする。やはり地球温暖化のせいなのだろうか。
陽の光があって、まだいいがやはり風は冷たい。そうそうに下に降りる。長いトンネルをくぐっていくと、出口近くで人だかりができていた。どうやら急病人がでて、運搬用のストレッチャーに乗せられているようだ。山岳レスキュー隊の活動をじかに見られるとは思っていなかったので、いい機会と思ってカメラを向けた。すると、レスキュー隊の一人がこちらを見て、
「NO PHOTO !」
と叫び、英語か独語かわからない言葉でおこっている。どうやら
「病人を映してたのしいか!」
と言っているようだ。早々にカメラを引っ込めた。病人ではなくレスキュー隊を映したかったと言いたかったのだが、そんな雰囲気ではない剣幕だった。後で写真を見たらトンネルの中なので、暗くてピンボケだった。よく考えてみれば軽率な行動だったと反省している。
トンネルを出ると、赤いドクターヘリが待機していた。今にも飛び立ちそうだ。しばらく見ていると、大きな音とともにものすごい風を起こしながら飛び立っていった。10mも離れていないところに多くの人がいるのにだ。日本ならば退避させられているところだが、自己責任のヨーロッパでは巻き込まれた方が悪いという考えだ。
崖にぶつからないように巧みに上昇して、反転して麓へとんでいった。スマートな機体でかっこいい。そこからは、雪原が広がっている。私は軽登山シューズをはいているが、妻はパンプスだ。雪道を歩くわけにはいかないが、固くしまったところを100mほど歩いた。傍らにはそり遊び場があり、子どもたちが歓声をあげている。南方の人たちだろうか。この時期にヨーロッパに来れる日本人は少ない。
またトンネルに戻り、氷の宮殿(アイスパレス)に行った。前回は日本色が強かったが、今回はC国色が強い。やはりC国人の観光客が多いからだろう。妻は少々がっかりした顔をしていた。
帰りの電車の時刻が迫ってきた。土産売り場をのぞいてみたが、さほどのものはない。妻はちょっと高山病気味だ。おとなしく降りることにした。
グリンデルワルドまで戻ると、妻の元気は回復した。やはりいっきに高地へ上ったことによる体調不調だったようだ。そうしたら
「スーパーに行きたい」
と言い出した。女性の買い物欲はどこへ行っても同じらしい。
スーパーに行くと、妻は「高い、高い」と言いながら、夕飯のたしになるようなものを買い物かごに入れている。今日はテラスで景色を見ながらの夕食ということになった。妻はシコンを見つけて喜んでいた。少し苦みがあるが、シャキッとした食感はおいしい。これにハムを巻いたり、きゅうりをはさんだりして食べるとおいしい。ドリンクを買ったりして3000円ほど。外食よりは安くすんだ。
夕刻、6月のスイスは夜が遅い。9時を過ぎてやっと夕方という感じで、風景の中にあるスイス風のシャーレーと言われるログハウスの建物に明かりが点き始める。幻想的な景色だ。それが最高の夕食のおかずだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます