異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。
レオナールD
第1話 異世界召喚されたが『無職』なので捨てられた
「おお、勇者よ! よくぞ来てくれた!」
そんなお決まりのセリフをぶつけられて、少年……
目の前にいるのは、玉座に座った偉そうな老人。
周りを見れば、白亜の壁と柱、まるで西洋のお城のような部屋。
そして……足元には幾何学的な文様が描かれた魔法陣。
このシチュエーションが意味することは、すなわち……。
「異世界召喚……?」
そうつぶやいたのはウータではない。
一緒に下校していたはずの友人の一人だった。
魔法陣の真ん中にいるのはウータだけではなく、他にも四人の人間がいた。
彼らは同じ高校に通っている同級生であり、幼馴染の友人である。
高校の制服であるブレザーを身に付けており、困惑した顔になっていた。
爽やかな顔立ちの少年でみんなのリーダー格。
成績優秀。サッカー部のエースでスポーツマン。女子にモテる完璧人間。
茶色の長い髪をポニーテールにした背の高い女子。
高身長で女子バスケ部のキャプテン。男子にも好かれるが、それ以上に女子に好かれる王子様のような女の子。
金髪に染めたショートカット、耳にピアスを付けたギャル。
読者モデルとして活躍しているらしいオシャレ系の女子。同じ制服のはずなのに、彼女が着ていると別の服のように見えてくる。
艶のあるカラスの羽のような黒髪を腰まで伸ばした清楚な美少女。
華道の家元の娘。所作一つ一つが美しくて、育ちの良さを感じさせられる。清らかでありながら凛とした相貌はまるで精巧な日本人形のようである。
そして……その少年、花散ウータ。
中肉中背。平凡な顔立ち。成績も運動能力も平均レベル。
いかにも目立つ四人と比べると、どうしても場違いな違和感がある。
カタカナの変わった名前のせいで、小学校の頃は随分と同級生に弄られていた。
そのおかげで四人の幼馴染と仲良くなれたのだから、本人はそれほど自分の名前を嫌ってもいないのだが。
「よくぞ召喚に応じてくれたのう、勇者達よ。どうか、我が国を救ってもらいたい!」
困惑しているウータと四人の幼馴染をよそに、目の前の玉座に座っている偉そうな男性……おそらく、国王が話を進めていく。
国王の言い分をまとめると以下のようになる。
この国の名前はファーブニル王国。
大陸南にある国。それなりに大きいが大国というほどの規模はない。
北には魔国という人間以外の種族が住んでいる国があって、そこの魔王が周囲の国々に侵略戦争を仕掛けている。
今は別の国がクッションになっているため、ファーブニル王国に被害はない。だが、いずれは魔王の魔の手が届くことになるだろう。
国を救うため、古の時代から伝わる勇者召喚を実行したとのこと。
王様の説明を聞いて、竜哉が代表して訊ねる。
「つまり、俺達は魔王と戦うために召喚されたってことか? 元の世界に帰る方法はないのか?」
「ウム……魔王を倒せば、元の世界に戻る方法もわかるじゃろう」
いや、何でだよ。
この国が召喚した目的はわかったが、魔王を倒せば帰る方法がわかるという理屈がおかしい。
魔王とやらと戦わせるための口実にしているとしか思えない。
同じ疑問を抱いたらしくて、ウータ以外の四人もそろって疑うような顔をしている。
「それでは、勇者様の『ジョブ』を調べさせて頂こう。こちらの水晶に手をかざしてもらいたい」
「……じゃあ、俺が」
この状況で逆らうのは得策ではないと思ったのだろう。
竜哉が代表して、魔法使いっぽい男が持っていた水晶に触れた。
すると、水晶玉にアルファベットとよく似た文字が現れる。
「おお……この御方のジョブは『勇者』だ! 素晴らしい!」
「俺が……勇者?」
魔法使いの言葉に、竜哉が複雑そうな顔をする。
勇者とやらに選ばれたことはまんざらでもないのだが、この状況を受け入れ切れていないのだろう。
「それじゃあ、次は私が……」
続いて、千花。美湖、和葉の順番で水晶に触れていく。
それぞれ、『剣聖』、『賢者』、『聖女』と水晶に表示された。
「素晴らしい! やはり君達を召喚したのは間違いではなかったようだ!」
国王が喝采の言葉を上げて、期待のこもった目でウータを見てくる。
ウータは仕方がなしに、水晶に触った。
「は…………『無職』?」
魔法使いがつぶやく。
玉座の間に騒然とした空気が走り、国王があからさまに不快そうな顔をした。
「フム……おそらく、そちらの少年は召喚に巻き込まれてしまった一般人だったのじゃろう。巻き込んでしまって済まなかったな」
「いえ……それは別に良いですけど……」
ウータが顔をしかめる。
本人は隠しているつもりなのかもしれないが、『無職』という単語が水晶に表示されてから、国王があからさまにウータを見下すような態度になっていた。
「それで……僕はどうしたら良いんですか? 無職ってことは魔王と戦えないですよね?」
「ウータ殿には支度金を渡すので、町に下りてそこで生活してもらいたい」
「ちょっと待ってよ! 彼を追い出すってこと!?」
千花が抗議の声を上げた。
「私達はこの城で訓練を受けるのよね? 彼と離れ離れになるってこと!?」
「ないわー。ウータ君を追い出すとかあり得ない」
「わ、私もウータさんと離れたくはないです」
千花に続いて、美湖と和葉も抗議の声を上げる。
竜哉は微妙そうな表情。
ウータと竜哉は幼馴染の友人だったが、最近はちょっと関係が複雑になっている。
どうやら、それには他の三人の女子が関わっているようだが……いま一つ、ウータはその辺りの事情がわかっていなかった。
「しかし、このまま城にいればウータ殿も魔王との戦いに巻き込まれてしまう。敵に人質に取られる可能性もあるし、城から出た方が安全かと」
「だからって……」
「えーと……千花、いいよ。俺は別に城から出ても」
「ウータ?」
「ちょ……ウータ君! 何を言ってるのよ!?」
「そ、そうですよ、ウータさん!」
女子三人が詰め寄られた。
ウータは一歩引きながら、自分の考えを述べる。
「いやいや、無職の僕じゃここにいても足手まといになるだろうから。それに……町に下りて、別の方向から元の世界に帰る方法を探したいんだ。魔王を倒しても、絶対に元の世界に戻れる保証はないからね」
「それは……」
「僕は大丈夫だよ……わかっているだろう?」
「…………」
含めるように言うと、三人は渋々といったふうに引き下がる。
どうやら、わかってくれたようだ。
ウータは安堵の息を吐く。
「それじゃあ、僕は城から出ていきます。支度金をくれるんですよね?」
「ああ……城下町までは少し距離があるから、兵士に案内させよう」
「どうも、ありがとう」
ウータは形だけ御礼を言って、お金を受けとって城から出る。
友人達が物言いたげな顔をしていたが、「心配いらない」と笑顔だけを返しておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます