神使への願いごと

藤原扇子

第1話 生きる意味と神使

 ペダルが重い。向かい風で寒気を感じる。帰り

道の桜は一昨日の雨で花は散り、ところどころ葉っぱが出てきている。


 先週から学校が始まった。私は高1から高2に上がるとき進学クラスから特進に変わったのだが、1年時から特進にいた人の方が多くすでにグループができている。話せる人はいるものの、休み時間も一人で過ごすことが多い。


 それで孤独が悲しいのかって言われるとそうなのかもしれない。勉強も進学とは違ってレベルもペースも違うから、予習・復習は欠かせないし、先週受けた模試の復習もしなければいけない。数学の2次関数もど忘れしてしまった。つまり、やることが盛り沢山なのだ。

 

 だから、(人間関係で悩んでいる暇なんてない) と心の中では思っているつもりだけど、なかなか休み時間も 移動教室も 一人なのはかなり辛い。勉強もついていけてる気がしない。一体なんのために生きているのだろう。

 

 あれこれと考えているうちにいつの間にか家についてしまった。

 家はマンションの4階。エレベーターで4階に上がる。

 シャワーを浴びた後夕食の時間になった。お父さんは出張だから、今日もお母さんと2人で食卓を囲む。テレビでいつも見ている料理番組を付ける。

 夕食はトマトグラタンと卵スープ。グラタンを食べているとお母さんが話しかけてきた

「学校どう?」

「話す人はいるけど、友達はいないからボッチかな」

「そっか、まあ、高2はもう受験生みたいなもんだし、勉強に集中すればいいんじゃない?」

「…そうだけど。孤独は寂しいよ」

「何あまいこと言ってるの?国公立目指しているんでしょう?」

そう、いつもこの展開だ。何かと 勉強、進路、大学の話に持っていく。一人ってどんだけ寂しいと思ってるのよ。

 私は頷く代わりにそそくさと食事を済ませ、「本買いに行くから」と家を飛び出した。そして、自転車を走らせた。

 結局は誰にも相談できないのだ。だったら、なんのためにここに存在しているというのだろうか。本やアニメの世界みたいに助けてくれる人は誰もいない。

 気がつくと私は校門の前にいた。先生達はとっくに帰ったのか、電気は付いていなかった。

 私は生徒玄関の鍵が掛かっていないことを期待して確認してみた。

「…開いてる」玄関のドアを開け、内履きに履き替えた。そして、屋上に続く階段を上がった。屋上へのドアの鍵も開いていた。

「そっかー…神様もきっともう死んだ方がいいって言っているんだな…」我ながら、悲しくなった。

 屋上に出るとフェンスの近くまで行った。涙が出ないように空を仰いだ。


 あーなんて綺麗な星なんだろう。私も星の一部になりたかったな…。

 フェンスを握った。その時どこからか声がした

「まった!」

「…だれ?どこにいるの?」

「ここだよ。ここ」

 フェンスの外に私くらいの女の子が立っていた。飛んでる!? 驚きで尻もちがついてしまった。女の子は巫女が着る袴を身にまとい、上から白い羽織を羽織っていた。髪は後ろで鈴がついている紐で高く縛られていた。

 彼女は少し上昇し、静かに私の前に降り立った。夜風で鈴の音が屋上に響いた。

 「こんばんは、私神の使いでここに来た。神使、狐よ」

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神使への願いごと 藤原扇子 @yumenosora

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