第41話 魔界四方山話
【魔族】
王都アークガルダから移転された魔王軍司令部の戦略会議室で、魔王ワルフラと何名かの参謀が話し合っていた。
議題は魔界防衛や軍の移動から始まり、魔王領の事、そして敵の情報についてへ派生する。
「人間軍はバニア大陸での戦いで優秀な士官を大量に失っている。その後イエルカは参謀組織を縮小し、可能な限り自身に指揮を集約した。しかし、魔界の存在が発覚したことでより複雑化していくこの戦争において、現在の人間軍の指揮統制は明らかな弱点だ」
とワルフラが言うと、参謀たちは嬉しそうに頷いた。
「あのオデットも消えましたから、人間軍の人材不足は過去最悪ですね」
「うむ、これは我々にとって千載一遇、最終決戦の好機だ。となると、奴ら人間軍も次の戦いは全戦力で抵抗してくる。そうなればイエルカに依存した指揮の貧弱さは致命的になる。我ら魔王軍はそこを突く」
「それは、どのように?」
「今回の戦い、我が力を制限を設けず発揮しよう。どうせバレてしまったのだ。ワルフラ率いる魔王軍の真価を
ワルフラの能力は魔王軍一番のアドバンテージのため、対策されることを案じて人間たちに見せない努力をしてきたが、もう見せてしまったので仕方ない。
「最初で最後の無制限戦争だ」
*
ドラガのもとへ貴重な物資を届けるためにやって来た部隊の先頭には、ドラガのよく知る女性の魔族がいた。
メリメは王都の近隣都市の副司令官で、ドラガの姉。頭から羽が垂れ、顔には目や凹凸が無い。
物資を渡し終えた後の事、メリメとドラガの姉弟は倉庫の裏にいた。
「ドラガくん、また地上に行くんすか」
メリメは掌に器用に剣を立ててバランスを取っている。
「行くかもしれねぇし、行かねぇかもしれねぇ」
「どっちっすか」
「戦況による」
「行かないほうが嬉しいっすか」
「地上で死ぬよりはな」
ドラガが素っ気なく答え、メリメがアンニュイに振り回す。
「また死んじゃったら、メリメ悲しむっすよ」
「親が死んだときに笑ってた奴に言われてもな」
「あ、それ禁句っすー」
バランスが崩れて落ちていく剣をメリメは逆の手でキャッチした。
「そもそもー、魔族ってみんな残忍だから、メリメは悪くないっすよ。そういう本能なんす」
遠くで新兵らしき魔族同士が殴り合っている。
「ほらー、やっぱ魔族ってのは野蛮で
メリメは剣をブン投げ、殴り合っていた魔族の片方に当てた。
「なーんで、勝てると思ってるんすかね」
*
魔王領とは、魔王軍が地上に構えた領地であり、今や全大陸の4割を支配する広大な土地のことである。
そこには人間は住んでおらず、かといって魔族が多いわけでもない。駐留しているのは主に軍で、人間へ攻め入るための前線基地としての意味合いが強い。
鳥の群れが飛んでいる。星のように
視界を埋め尽くす鳥の群れはそれぞれの速さで進み、小高い丘に立っているジグロムの上を通り過ぎていく。
「獣ってのはいいもんだ。バカで本能的で、小難しい事を考えない。一匹殺したとこで裁かれることもない」
ジグロムは右後ろを向く。
「今の聞いてたか? 良いこと言ったぞ」
そこには手足を縛られた人間の男がいた。全身に傷があり服を着ておらず、無気力に唸って鳥に怯えている。
「ンー、能天気な奴だ。そんなんじゃ足の腱は治してやんないぞぉ?」
ジグロムが男の頬を軽く叩いていると、部下の魔族が丘に現れた。
「ジグロム様、人間軍の分遣隊を発見しました。ヤシュドガを連隊規模の兵が移動しています」
「そうか、やっぱお相手も防勢戦略だけじゃ物足りないよな。今度は俺たちが攻める番かと思いきや、まだまだ暇があるってことだ」
ジグロムは男を放置して丘を下っていく。
「樽の中にあったワインってやつを飲もう。物は試しだ」
「赤いのと白いのがありましたが」
「アー、混ぜてみるか。人間の食いもんの味は薄いからな」
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