閑話日和 -4-


 これは訓練場……ではなく、創造神と円卓騎士をまつる神殿での一幕。

 この神殿は祈りと礼拝の施設としての他に、円卓騎士の養成施設としての面も持つ。


「レッスンその3は『自分の力が魔法であることを忘れない』ことだ」


 窓から日が差す一室で、グリフトフが黒板の前で教鞭を取っていた。


「座学もやるんですね」


 席にはアネスが座り、机に腕を乗せている。


「当たり前だろ、軍隊なめんな」

「で、授業内容は?」

「……魔法の仕組みはお前も知っての通りだが、円卓騎士の能力っつーのは『直感的魔法』って呼ばれてる」


 別に何か書くわけではないが、手持ち無沙汰では違和感があるので、グリフトフはチョークを持ち上げる。


「例えば『物を投げて、的のド真ん中に当てる』。これがフツーの魔法だ。センスのある奴とか、練習しまくった奴は当てられんだろ」

「ですね」

「円卓騎士は『物を蹴ると、なんとなくで的のド真ん中に』。最初からやりたいことが完璧にできる状況にある、なんて理想が円卓騎士だ」

「でも、魔法使いは円卓騎士になれませんよ」

「まあな、そこもデケぇ違いだ。円卓騎士は百発百中にプラスで、魔法としての複雑性、利便性があるから価値がアホほど高ぇ。誰も円卓騎士と同じ魔法は使えねぇだろ? その上でクソ強ぇ即戦力になるってんだから、みーんな欲しがるわな」


 なぜ円卓騎士がここまで重宝されるのか。その理由は再現不可能な先天的魔法能力にある。


「しかしなぜそんな能力が、人類のごく少数にだけ現れるんでしょうか」

「知らね」

「そこは知らないんですか」

「学者の仕事だ。有力な説としちゃあ『突然変異説』と『魔族説』の2つがあるが」

「……魔族説?」

「魔族ってのは一人ずつに特有の魔法があるだろ。人間の場合は1から10まで満遍なくそこそこで扱えるが、魔族は1から10がそこそこ扱える上に加えて、1つだけクソほど上手く扱える魔法がある。魔法に特化した生き物だ」


 魔族とはそういうもの。人間よりも魔力の扱いに長けた生き物であるため、魔族と呼ばれる。


「なるほど。つまり人間が魔族に近づいている……円卓騎士はその最前線というわけですか」

「そーゆーことだ」

「しかしそうなると、人間が進化した先に魔族がいることになるのでは?」

「問題あっか? 見た目を気にしなくていいってのはけっこうスゲーことだ。足がなかろうと鼻がなかろうと魔族は魔力で繋がってる。同じ空気吸ってりゃあ仲間になれるってのは、楽なもんだろ」


 魔族は形状が一定でないために、外見はさほど重要視されない。それを羨む一派も人間の世には存在する。

 隣の青い芝生だと片付けられれば楽なものだが、自分がその芝生に近づいているとなれば、いささか嫌悪の気持ちになる。


「そういうもんですか……」


 アネスの考え込むような表情をほぐすためなのか、グリフトフが適当な質問を投げつける。


「お前、魔王軍の中で誰が好みだ?」

「何ですかそれ」

「好きな犬種とかあんだろ。それと同じだ」

「……」


 普段の生活の中で様々な魔族の噂は聞いてきた。魔王、四天王、参謀……その中で、アネスの頭にある魔族が浮かんでくる。


「あの背の高い、赤い女性」

「誰だよ」

「じゃあ師匠は誰が好みなんです?」


 アネスが逆に問うと、グリフトフは大した考えもなく言う。


「あー、意外とジグロム」

「意外なんですかそれ」


 授業は続く。


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