放課後

霧山よん

放課後

「あーわかんないわかんないわかんない」

 隣でアヤカが悶絶し、俺の部屋で体をなげうっていた。

 スカートは乱れ、ピンク色のパンツは丸見え。

 それはいつもの事だ、

 どうでもいい。

 ふと上半身にシャツからピンクのブラジャーも透けている。

 もしかしたら部屋の中は少し暑いのかもしれない。

 俺はエアコンのリモコンを手に取りボタンを押した。

「そんぐらいわかるだろ。お前の方が頭いいんだろ。斎藤先生も毎度褒めてるじゃん」

 獣医になりたい俺は必死に勉強しているのに、アヤカにテストで勝ったことがない。

 そもそもなんでこいつは毎度毎度俺の部屋に来て、勉強を教わりにくるんだろうか?

「だってだって一人勉強してもつまんないじゃん」

「何人いようが、勉強してたら話もしないし、そもそも効率が……」

 俺がそう言いかけると、ムクリと起き上がったアヤカがこちらを向いて口を尖らせる。

「タカシっていっつもそう。効率とかじゃないんだって。そもそも効率とかで言ったら、それだけ勉強してるのに頭悪いタカシの方が問題でしょ」

 痛恨の一撃。

 俺が繊細な人間だったら、立ち直れないかもしれない。

 ただアヤカの軽口も不平不満をダラダラと立てるのも、慣れっこだ。

 付き合いもかれこれ十年。

 お互いの母親がお互いのおねしょで濡らした布団を干しながら、笑い合ってたといえば関係性は誰にでもわかるだろう。

「それでなんだけどさ……」

「ん?」

 咳払いを一つしたアヤカが言う。

 その顔はどこか神妙だった。

「タカシは大学は北海道に行くつもりなんだよね?」

「あぁそうだな。獣医学部あるし」

「私も北海道がいいなー」

「なんでだよ。お前北大行きたかったの?」

「いやそうじゃないんだけど……」

 言い淀んだ次の瞬間、表情が晴れる。

「あっそう! 私暑がりだからさ! 北海道って涼しいじゃん?」

「そんなしょうもない理由で……大体お前が北大受けたら、枠がへって俺の合格率減っちゃうだろ?」

「別に大学に受けるなんていってないじゃん……」

「だったら何しに北海道いくんだよ」

 アヤカは少しうつむいて、悩んで、ウンウンと唸ったあとに口を開いた。

「タカシのお嫁さんになりたいから」

 予想外の答えに部屋の空気は冷えたのを感じた。

 きっとこれはエアコンのせいじゃない。

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放課後 霧山よん @Kiriyama_4

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