第7話 アリーナ、理解者を得る

「ところでアリーナ様望美、スタンピードは本当なのか?」


 再会の喜びも束の間、ルークはハッとした顔をしたかと思えば、アリーナの肩をつかんでそう聞いてきた。

 先ほどまでの雰囲気から一気に変わり、場に緊張感が生まれる。


 アリーナは、ルークにどこまで話をすればいいのか考えていた。

 

 スタンピードのことを話すにはアリーナのギフトに触れる必要があり、そうなるとエイト栄斗ミザリー秘書への復讐についても話す必要が出てくる。

 そこに、前世で幼馴染とはいえ、関係のないルークを巻き込んでしまうのは……

 

「……おそらく、としか……子ども達が言っていた、”ここら辺では見ない魔物を最近見る”というのは、よそを縄張りにしていた魔物が移動してきたからではないかと……」


 アリーナが歯切れ悪く答えていると、ルークは目を細めて表情が一瞬固くなった。

 

 あ、これ、何かを考えている時の衛の表情だ……と、アリーナが久しぶりに見る幼馴染の姿に懐かしさを感じていると、思考を終えたルークが口を開いた。


「……それを、どうやってアリーナ様望美は確認するつもりだったんだ?」


 ルークの鋭い言葉と眼差しに、アリーナは目線を横にらし、下唇を少し噛んで黙り込む。


「……これは、隠し事がある時の顔だな」


 ルークはそう言ってフッと表情を和らげたかと思えば、さらに目を細めてアリーナの顔を覗き込んできた。

 

「森に入って確認するつもりだったのか? この、国内でも屈指の危険な魔の森に、護衛が俺一人に、こんな軽装で?」

「……」

「……ギフトを使って……か?」


 ……やっぱりダメだった。

 こういう時、衛に隠し事をしても、すぐにバレてしまっていたなとアリーナは前世での思い出の数々を振り返る。


「……そう、ちょっとしたいことがあって……」


 アリーナが往生際悪く、なおも言葉をぼかしながらそう言うと、ルークがため息をつきながら言った。

 

アリーナ様望美の元旦那のことか?」

「……! 知ってたの!?」

「やっぱりか……名前が同じだし、アリーナ様望美が妻ってことで、もしかしたらとは思っていたが……」

「!? ひどい! カマかけたのね!」


 ルークの誘導にまんまと引っかかってしまったことに気付いたアリーナが、顔を赤らめて小さく非難すると、ルークは「悪い、悪い」と言い、仕方がないなといった表情でアリーナの頭を撫でた。


 一つ一つの表情や、やりとり……その全てが前世と同じで、アリーナは懐かしさと安心感に目頭が熱くなってくる。


 頭から伝わる温かさに少し身を委ねていると、ルークが優しくアリーナに問いかけた。


「……それで、あの不倫野郎と偽聖女をアリーナ様望美はどうしたい……?」

 

 思わず見上げると、ルークはアリーナに優しく微笑みかけていた。

 アリーナの頬に涙が流れる。


「私は……悔しい……あの二人に……復讐したい……!」


 アリーナがそう言い終わると、ルークは優しくアリーナを抱き寄せた。

 前世からの様々な感情が、涙と共に一気にこぼれ落ちてくる。

 

 腕の中で泣きじゃくるアリーナを、ルークは黙って抱きしめ、頭を撫で続けた。

 その目は一切笑っておらず、深い怒りに満ちていた。

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