第41話 どう責任取ってくれるんだよ!

「なんだ、言ってみよ」


「では恐れながら、殿下にお尋ねいたします。──ベアトリス・バレリーは、本当に罪人なのでしょうか?」


「なんだと?」


 フェルナンが眉間にしわを寄せ威圧するように応えるが、ユーリスは一切動じることなく淡々と話し続けた。

 

「殿下は、しかるべき捜査や裁判も行わず、独断で二度も彼女を罰しました」


「それは、ベアトリスが罪を犯したからだ! 一度目は呪具使用、二度目はセレーナをワイン瓶で殴った傷害罪、罰を与えるのは当然であろう!!」

 

 ユーリスは目を細め、再度フェルナンに尋ねる。

 

「確固たる証拠がある上での沙汰だったと?」


「この俺を愚弄する気か? もちろん証拠があるに決まっているだろう! 一度目の事件で使用された呪具は押収済み、二度目の事件は騎士ポールがベアトリスの犯行だと証言している」

 

「左様でございますか。それではここで、その証拠と証言を覆し、ベアトリスの無罪を証明いたします」


「無罪を証明だと? ハッ、馬鹿馬鹿しい。時間の無駄だ」


 フェルナンの嘲笑に構わず、ユーリスは「証人をここに」と配下に命じた。

 するとすぐに広間の扉が開き、ブレア領騎士に取り押さえられた男たちがゾロゾロと入ってくる。


 傷を負い破れたボロボロの服を着た男たちの列。その最後尾にいたのは、身体を拘束され項垂れるポールだった。


 セレーナは愕然し『なっ、なんで……!?』と内心動揺したが、すぐさま平静を取り繕う。


 王妃が口元を扇で隠し「なんです、その汚らしい者たちは」と蔑んだ。

 

 しかし次の瞬間、男たちの腕にあるドクロの刺青を見て「ヒィ」と情けない悲鳴を上げる。

 隣ではフェルナンもまた「暗殺傭兵団……」と呟き、身をすくませた。

 

 王宮の近衛騎士が剣の柄に手をかける中、ユーリスが淡々と説明を始める。

 

「この男たちはご覧のとおり、我が国で暗躍する暗殺傭兵でございます。先日、護送中のベアトリスが襲撃された際、私が逮捕し独自に事情聴取をしておりました」


「王太子である俺に報告もなく、独自に事情聴取だと? 捕らえた罪人は、すみやかに王都へ護送すべきだろう!」

 

「報告が遅れましたこと、深く謝罪いたします。しかし、この者らを捕らえたと知られれば、口封じのために殺害され、証拠を隠滅される恐れがありました。──そこにいるセレーナ聖女と騎士ポールの手によって」


 人々の視線が、一気にセレーナとポールに注がれる。

 

 ユーリスは間髪入れずに「ポールに指示されたことを全て話せ」と傭兵に命じた。

 

 傭兵たちは自白剤でも打たれて意識が朦朧もうろうとしているのか、虚ろな顔で自慢げにペラペラとしゃべり出す。

 

「俺たちはぁ、ポールに依頼されて色んな仕事をしてきたぜぇ。あいつは金持ちのボンボンだから『セレーナ様の頼みなら出費は惜しまない』とか言って、じゃんじゃん金を使ってくれるんだ。なあ、相棒」


「おお。最初は、ネックレスを呪具に変えてくれって依頼だったっけなぁ~? 綺麗な宝石がついていたから、よく覚えているぜぇ」


「そうそう。それからはよぉ、王宮の侍女を脅して猛毒ムカデを部屋にばら撒かせたり、女を橋からつき落として自殺したように偽装したりぃ。あー、バレリー伯爵の護送車を襲って、魔物の谷に落としたこともあったよなぁ~」


「アハハ、あった、あった。ぜぇ~んぶ上手くいってたのになぁ! こっちも忙しいっていうのに、急に『バレリー家の娘を強姦して殺せ』なんて命令されるから、準備不足で捕まっちまったぜ。クッソ! 頭にくる! はぁ~、ポールさんよぉ、どう責任取ってくれるんだよ!」


 

 衝撃的な内容に誰もが絶句する中、傭兵たちの怒声と下品な笑い声が広間に響き渡る。


 混沌とした状況下で、ユーリスだけは普段と変わらず冷静に言葉を続けた。


「お聞きのとおり、騎士ポールは暗殺傭兵団に依頼し、様々な犯罪に手を染めました。ですが、その背後にいたのはセレーナ様──貴女ですね?」


「……そんなっ、ちがいます……!」


 セレーナはか細い声で否定し、婚約者にすがるような視線を向けるが、フェルナンは口をポカンと開けて放心状態。肝心な時にまったく使い物にならない。


 王妃が素早く合図を送ると、セレーナはあっという間に騎士に押さえつけられ、身柄を拘束された。


「いたっ、痛い……! ちがうのです! わたしは、なにも……」


「まあ、白々しい」

 

「王妃様、ちがうのです……わたしは、なにも知りません……すべて、ポールが勝手に……」


 泣きながら弁明すると、同じく騎士に拘束されているポールが何度もうなずき叫んだ。

 

「そうです! すべて僕が勝手にやったことでセレーナ様はなにひとつ悪くない! 裁くのなら、僕を裁いてください!!」


 フェルナンが困惑の表情を浮かべ「ああっ! なにがどうなっているんだ!」と当たり散らす。

 

 一方のユーリスは、冷めた顔でセレーナを見やると、小声で「まだ粘るか、悪女が」と囁いた。

 そして、突然ポケットから何かを取り出してストンと床に落とすと──踏みつけた。


 その拍子に、セレーナが急に身体をくの字に折り曲げてうめく。

 

「うぐっ──! あぐっ、あ”あ”ぁああぁ」


 奇声を発して両手で胸を掻きむしり、痛みにのたうち回るセレーナ。

 異常な苦しみ方に、人々は「何事だ」と驚き戸惑った。

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