色羽に捧ぐ

凛道桜嵐

第1話

2019年12月1日に私は色羽(いろは)に出会った。

当時の私は動物を飼う事に反対だった。

愛犬ティンクが2017年に死んで命が無くなる事に対して酷く落ち込んでいたのもあった。

ただそれ以上に愛犬が居なくなってバラバラになった家族の輪を人間だけで丸く出来ないのかと思っていたのである。

しかし私の母は動物を飼いたがっていた。

「この子はどう?」

と毎日何度も聞かれても私は顔を左右に振って拒否した。

「あんたはどんな子を見せても拒否をする!!」

と母は私が頷かない事に対して苛立ちを見せ物に八つ当たりするようになっていった。

(そんな事を言われてもティンクが居た形跡を残してあげたい。他の子が来てティンクが居た跡が無くなるのが、新しい子が居る生活が当たり前になってティンクが居た当たり前が無くなるのが怖い。)

そう思ってはどの子も可愛くても頷く事は出来なかった。

そんな私がどうして色羽に出会ったのかと言うと母が動物が居ない生活に限界が来たからだった。

家族の輪も私の力不足のせいで輪が乱れ皆が四方八方に向いていてお互いを見ているようで見ておらず中心を見ていない状態だった。

そんな家族を見て私は過去の家族が壊れていく様を思い出した。

父が家族である私と母を見ないで外ばかりを見て家に帰って来ない。仕舞いには家族が端からパズルのピースが崩れるようにボロボロと崩れ去っていく様を私は3歳という幼い頃に感じそして見てきた。

きっとまた同じになるのだと思い私は何度か母と祖父にもっと家族と向き合うように話しかけた。

ただ、二人は私の言葉に耳を貸さなかった。

どんなにもっと家族の皆に目を向けてと話しても聞いてくれず自分勝手な行動を取っては周囲に八つ当たりする二人に私はどう接して良いのか分からなかった。

そんな中母が見つけたサイトがペットショップから弾かれ殺処分されそうになった子達を預かって低価格ではあるが販売しているお店だった。

里親も扱っているそのお店は私の家から数駅行った場所にあった。

私はその話を聞いてもしペットを飼うとなってもこういう子じゃないと、と思いサイトを時々見るようになった。

ペットショップの子達は高いお金だが里親として条件が合わない人は気楽に買える。

また里親は条件が厳しく中には家に来て動物が本当に飼える環境かどうかを確認する団体もあった。

私達の家は一軒屋ではあったが動物が飼えるという脱走防止の柵があるわけでも無い、窓も脱走防止にしている訳では無い、他にも家の住民からして私もずっとこの家に居続けるかと聞かれたら当時は「いいえ」と答える程実家に執着も無かった。

そんな家に里親の子を迎える事が出来るのかと考えると現実問題難しいのが本音だ。

里親を迎える事が出来ないのにペットを飼う資格は無いのかもしれない、それでも私は殺処分の子なら良いのではと思うようになった。

最初のティンクが居なくなってティンクの存在が消える事よりも家族のバラバラ具合にもう手の施しようが無く私一人の力ではどうしようも無くなっており、助けが欲しかったのだ。

私は実家を出ようと考えた事もあった。

そうすれば大人三人でどうにかするだろうと考えたが私がそう考えている事が祖母は分かったのか

「あんたが出て行ったら私とおじいさんは施設に入ってこの家を売り払う。」

と言われ母の居場所が無くなると遠回しに言われて一人暮らしは断念した。

そんな時に出会ったのが色羽だった。

色羽はスコティッシュフォールドだが立ち耳で身体の色はグレー色の短髪、尻尾の先が少し曲がっていた。

一見スコティッシュに見えない彼女はそれが理由でペットショップとして売られる訳では無く処分または子供を産む用の猫に回されかけた所を拾われ保護されていた。

私はたまたまホームページを見ると他の子に興味があり色羽には興味が最初は無かった。

母に話すと母は一日先に見てくると言ってお店に一足先に行った。

私は家で待っていると母から電話があった。

「今触ったけれど噛まれた!!」

「どういう事?」

「あのね、春が言ってた子居たでしょう?その子触って良いですよって言われて抱っこしたら噛まれて拒否されちゃった。」

「噛んだの?まあ、嫌な所触ったんじゃない?」

「そんなこと無いよー。まあ明日春が来てそれでも駄目なら考えないとね。」

と言って電話を切った。

私は猫でも噛むのかと思ったのを今でも覚えている。

私は昔生まれてすぐの時に猫を飼っていた、というよりも世話をされていた。

私は赤ん坊だったから当時の猫に容赦無く触ったり尻尾を掴んだりしたらしい。

家族でもあまり心を開かなかった猫だったが、私には仕方無いという顔で許してくれたと母から聞いた事がある。

私の猫の記憶は他にもある、昔習っていたピアノ教室に黒猫が居たのだ。

その子はいつもピアノを弾くと隣に来てはジッと見つめてくる。しかし時々暇になると鍵盤の上に来ては邪魔してくるのだ。

触っても引っ掻く事も無く噛むことも勿論無かった。

そして私はよく野良猫を触る子だった。

家の近くに居た野良猫を良く小学生の時に触りに行った事もある。

その猫も触ってもひっくり返って寝るだけで噛んで来た記憶が無い。

そんな猫への記憶を辿りながら私は次の日に会いに行くのを待った。

それが11月最後の日。

12月1日私は母と一緒にお店に向かった。

寒い日だったのを今でも覚えている。

お昼の暖かい時間に行くとお店は狭く小さいケージが三段ずつ縦に乗せられてその中に猫が一匹または二匹入って居た。

私は昨日母が触った猫を探した。

「この子?」

と指を指し母に聞くと

「その子!あれ?ご家族決定になっているよ。」

ケージの左上には種類と誕生日が書かれた札がありそこには家族決定とシールが貼られていた。

「本当だ、家族決まったんだね。」

「どうする?他の子見る?」

「うん、実は気になっていた子が他に居てその子を探したい。」

私はお店に来る前にサイトで違う猫を見ていた。

それが色羽だった。

サイトに載せられている色羽は目がクリクリしていて可愛らしく今まで見た猫の中でダントツで美人だった。

私はその猫を探す為に見に来ていた他の客の間を縫って探す。

すると目線ぐらいの高さの所に猫が二匹くっ付いて寝ていた。

サイトを見ると誕生日が10月6日でケージに貼られたメモと同じである事、写真も同じだったそして家族はまだ決まっていないようだったのでお店の人に声を掛けた。

「この子、抱っこしたいのですが良いですか?」

と聞くと

「良いですよ、どちらの子ですか?」

「女の子のこの写真の子です。」

「こっちですね、もう一匹は男の子なので。」

「そうなんですね、全然分からないや。」

「お腹見ないと分からないですよね。手を除菌しますので手を差し出して貰って良いですか?」

と言われて私は両手を差し出した。

すると除菌スプレーでシュッシュッとかけられパイプ椅子に案内された。

パイプ椅子に座ると太ももにトイレシートを敷かれたので私はされるがままに居ると、お店の人はケージから猫を一匹取り出し私の膝の上に乗せた。

その小ささはホームページに載っていた動画よりも小さく、そしてとても可愛らしかった。

「どうですか?」

と聞かれて私は

「可愛い」

と素直に言葉に出すと猫は昼寝を邪魔したからなのか嫌がって下に降りようとしたので抱っこすると不機嫌そうな顔をして私を見た。

母がその姿を見て

「ママにも触らせて」

と言ったのでお店の人が私にした時のように除菌スプレーを両手に掛けてパイプ椅子に座らせるとトイレシートを太ももの上に敷いて猫を私の腕の中から移動させた。

「小さいね~」

と言いながら母は抱っこする。

私は

「本当に小さいし、可愛い。」

と言うとお店の人が

「この子ともう一匹の猫ちゃんは姉弟なんですよ。」

と言った。

「そうなんですね、でも二匹同時には迎えてあげられないし。」

「そうですよね。」

「春はどうしたい?」

と私は訪ねられて少し考えた後

「この子引き取ります。」

と言った。

「早くない?本当に良いの?」

「うん、だってこの子のフィット感が確実に私を選んだんだもん。」

「あれだけ反対していたのに本当に?」

「うん。」

そう言うと母は少し呆れた顔をして店員さんに言うと店員さんは驚いた顔をして

「他の子は良いですか?」

と聞いて来たので私は顔を横に振った。

今この子に決めないとこんな可愛い子すぐに貰い手が決まると思ったのだ。

店員さんはすぐに用紙を持って来て

「購入への説明しますので一旦猫ちゃんお預かりしますね。」

と言って猫を母の腕から預かると優しくケージの中に戻した。

そこから猫の手続きは早かった。最初は猫のトイレが上手くいかないと思うので排泄を促す薬と三日間トイレに行かない場合は病院に行って下さいとの事。

そしてお金を払って小さい段ボールの箱に入れられて猫は私の手元にやってきた。

家に帰るまでは大変だった。自転車の音が怖いのかそれとも風が冷たいのか分からないがニャーニャーと鳴いては私は度々慰めるようにして自転車を止めて様子を見た。

少しでも段差が少ない道を選び大きな声で鳴くようであれば自転車を止めて中の様子を見たり、15分も掛からない駅からの道が果てしなく遠く時間が掛かったような気がした。

それから家に帰ると祖父母が猫を連れて帰ってきた事に驚いていた。

私は祖父母に披露するのもそこそこに自分の部屋に入ると箱を真ん中に置いて暫く様子見する事にした。

「ママこれから猫用のトイレとか買ってくるから待ってて。」

と言って母は近くのペットショップに買いに車で出かけた。

私と猫二人きりになった。猫は段ボールの中でゴソゴソ動いている。

私は少し覗いてみた。すると小さい灰色の毛玉が中で動いている。

私は暖房をつけ少し段ボールを開け自由にしてあげた。

するとヒョイと段ボールから出てきて部屋の中を探索し始めた。

「出てきた。」

私はそう言うと部屋の端で小さくなって只の置物のようにしながら携帯を見ていた。

(あまり注目すると怯えて近づいてこないと思ったからである。)

暫く猫は部屋をウロウロしてそして運んできた段ボールを噛んでちぎり始めた。

そんなに運ばれて来た事が憎かったのかと言うくらいちぎるので私は夢中で写真を撮った。

するとそのシャッター音が気になるのか近づいてきて今度は甘えるようにスリスリと身体を密着してきた。

「可愛い」

と呟きながら夢中で動画を撮る。

「さっきまで無視してたのに何で急に甘えてきてんの?」

と話ながら撫でる動画は今も大切に保管されている。

それからの生活は一変した。

まずは家族の仲を私は気になる事が少なくなった。

例え過呼吸で倒れた所で誰も心配しなくても猫が居るだけで心の支えが違った。

私の心の異変に気が付くと猫はニャーニャーと鳴き私を呼ぶ。

私はその度に傍に行って膝に抱っこするのだ。

余りにもの暖かさに何度か膝に抱っこしながら寝てしまった事もある。

お世話係は私が担った。

名前は勿論私が付けて、桜の花びらが舞うような綺麗で鮮やかな人生を送って欲しいという意味を込めて色羽にした。

色羽は甘えん坊の子だった。夜中も布団の中に入ってきては甘えて来る子で常に一緒に居る環境が好きだった。

一人になると鳴いて私を呼ぶ。

私はその度に部屋に行っては抱っこをした。

時には子守歌も歌ったり、一緒に絵本を読んだりした。

そうして寝かしつけたそんな日々が一年経ってもその生活は変わらなかった。

私は子猫のうちだけの生活だと思っていたが実際は違い一年経っても同じように要求鳴きは勿論甘えん坊は増していた。

そして現在色羽には二人の妹が居る。

妹が出来てから姉としての性格が出てきたのか甘えん坊が少し減ったがそれでも時には膝の上にやってきては甘えさせろと要求してくる。

いつかはティンクのように空に旅立つ時が来るのだろう。

それでも私は色羽に沢山の物を見て感じ、そして愛を伝えて行きたいと思っている。

始まるある物は必ず終わりが来る。

それでも終わりには愛していると沢山伝えられたら良いのでは無いかと思う。

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