詩 誰も死なない世界に生まれたかった

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ちょっとした事で人は死ぬ

 ちょっとした事でなくても人は死ぬ


 とにかく何かにつけて脆弱な人の命は

 誰かがくしゃみをするような一瞬の中で死んでいる


 気が付けば死んでいた

 知らない内に死んでいた


 周りの人達も

 テレビの向こうの見知らぬ人達も

 新聞の向こうの見知らぬ人達も


 見ている視線の先の人達も

 見ていないどこかに存在する人達も

 地球上のありとあらゆる場所で死んでいた


 生まれる世界を選べるなら

 人の死なない世界が良かった


 死んでしまう人もそう思って

 死んでいく人を見送る人もそう思って


 それで世界が変わるならよかった

 けれど世界は変わらずに


 今日も明日も明後日も

 未来もずっと変わらずにいる


 ケンカのはずみでふいに人が死ぬような

 すれ違いの果てに憎しみ合って殺し合うような

 あるいは超えられない壁を挟んで拒絶の末に人を葬るような


「私達は」


「俺達は」


 そんな世界じゃない場所に生まれたかった


「ストーリー」


 人間として生まれる俺達は、ちっぽけな力しか持っていないから。

 どうやっても死んでいく全ての人を助ける事はできない。

 現実に折り合いをつけて、助けられる命と助けられない命を選択するしかない。

 そうして選んで助けたいと思った命だって、満足に助けられない事もある。


 こんな世界、選べるのなら生まれてこなかったさ。


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詩 誰も死なない世界に生まれたかった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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