第一章
第1話 売られるときは唐突に
-観門 北地区
「お父さん、お母さん、
明るい声が響き渡る。
観門の中でも貧困層が集まる北地区。19になったばかりの
決して裕福とは言えない家だが蘭玲はそれでも家族が大好きであった。
毎日起きたら出稼ぎへ出て、日が暮れる頃の帰り寝るの繰り返し。
ご飯を食べるときは家族と一緒というのが蘭玲の中の決まりだ。
しかし、何気ない日常は音もたてずに崩れ落ちていく。
「え、お父さん借金ってどういうこと?」
「すまん、蘭玲。うまい儲け話があると誘われて。」
「それでその話に乗ったってわけね」
「本当にすまん。少しでも家族を幸せにできたらと思ったんだ。」
友人から1万元の資金を元手に10倍に増やせるといういかにも詐欺だろと突っ込みたくなる話にお父さんは乗ってしまった。
そもそも1万元などどこにあったのだろうか。そのお金で何かできただろう。
というのは胸にしまっておいて蘭玲はこれからのことを考えた。
「私がもっと頑張るから。お父さんはそんなに気負わないで。」
「本当にお父さんがごめんね、蘭玲。」
「ううん。いいの、お母さん。詩夏もいるし、何より私はみんなで暮らしていたいからさ。」
詩夏はまだ10歳だ。巻き込むわけにはいかない。
その日から蘭玲は朝早くから夜遅くまで働いた。
だが実際にはそんなうまくいかない。
***
「ただいまー」
蘭玲が帰ってきたときそこには知らない人相の悪い男が三人いた。
「お父さん、誰?」
「お金を返せと言いに来たんだ。」
ちょっとずつではあるがお金は返してきたのに、いきなり押しかけてくるものだから驚いてしまう。
「だからぁお金がないなら連れてくしかねぇって言ってんだろ!?」
「耳ついてんのかぁ?」
お父さんと男たちの言い合いが加速していく
「だからそれは何回も言っているようにできません!お金ならちゃんとちょっとずつですけど返しています。」
「そのちょっとがちょっとすぎんだよ!お前いったよな?しっかりそろえて返しますって嘘はよくないなぁ」
男たちがお父さんを煽っていく。
「いい加減にしてください!こんな時間に、まだ幼い子供だっているんです!お金はちゃんと返せるようにしていますから、今日のところはっ」
「うるせぇんだよ!期限までに返す約束を破ったのはそっちなんだからしっかり落とし前付けろよ」
男たちは引こうとしない
「さっきから言ってるだろ?金が用意できなきゃ連れてくだけだって。そっちのちっこいのは使えないからこの娘もらってくぞ」
突然に腕をつかまれ抵抗もできずに連れ出されてしまった。
最後に見たのは泣き崩れる母親とその後ろに隠れる妹。そしてずっと叫んでいる父親の姿だった。
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