第4話 見抜いてます(見抜いてない)
休日。
今日は、春花と初めて出かけに行く日だ。
待ち合わせは駅前で、俺は待ち合わせ時間の十分ほど前に駅前に着いた。
「春花はまだ居ないか」
性格的に待ち合わせ時間よりも早く来るようなタイプじゃ無いことはわかっていたから特に驚いたりはしない。
「……」
それから五分ほど待っていると、後ろから春花の声が聞こえてきた。
「あれ、先輩〜!まだ待ち合わせまで五分あるのにそれより早く来てるって、そんなに私とのお出かけ楽しみだったんですか〜?」
「礼儀として当たり前の────」
春花の声の方に振り返りその言葉に反論しようとしたところで、俺は思わず息を呑んだ……今までは制服姿の春花しか知らず、制服姿には制服姿の可愛さがあったが、今の春花の姿は白のTシャツにミニスカート。
シンプルなように見えて、自分のスタイルに合わせているからかそれがとてもオシャレに見える、そして首にはハートのペンダントを付けている。
「あれ、先輩〜?今私のこと可愛いって思いましたよね〜?」
俺は咄嗟に春花から顔を背けて、駅の方を向いて言う。
「思ってない、それより待ち合わせできたならそろそろ目的地に向かおう」
「え〜!まだ本来の待ち合わせ時間の四分前じゃ無いですか〜!それより先輩の顔見せてくださいよ〜」
「断る」
「べ〜!」
後ろから春花が俺に対して色々と言っているが、全て無視して駅の中に入った……休日に一緒に出かけているのと、見た目からして普段の春花とは違うせいか、今日はとても不思議な感覚だ。
俺と春花は、春花の言う運動ができる場所という場所に向かうべく、電車に乗ってその場所に足を運んだ。
「────で、ここなのか?」
「はい!ここです!」
運動できる場所とは聞いていたが、まさかそれがジムだったとは……思ったよりも本格的に運動する場所だ。
「ジムにはよく来るのか?」
「二週間に一回くらいです!ちゃんと体絞ってるんですよ私〜!先輩がどうしてもって言うなら見せてあげ────」
「中に入ろう」
「興味無しってことですか〜!?酷いですよ〜!」
興味が無いんじゃなく、そんなのを見せられたら絶対に顔に出て春花に「先輩照れてるじゃ無いですか〜!」とか言われるのが目に見えてるから見ないんだ。
俺はどうにか本心を隠しながら、春花と一緒にジムに入った。
春花の紹介ということで、俺は初回無料でジムを使うことができるらしく、早速ランニングマシンの前まで来た。
「本当はもっとオシャレしてきたかったんですけど、今日は運動するってことだったので軽い服で来たんです」
「そうか」
十分似合ってるからそこは特に気にしていない。
「じゃあ先輩!ジムでは私が先輩として、先輩にこのランニングマシンの使い方をレクチャーしてあげます!」
先輩という単語を乱発していてややこしくなっているが、とりあえず今目の前にあるランニングマシンのレクチャーをしてくれるそうだ。
「このボタンを押して、速度を自由に設定したら……こんな感じで、床が動くので、それに合わせて走ります!」
そして、春花は実際に走り出した。
……が、その二十秒後、春花は突然ランニングマシンの動作を停止して、俺の方に近づいてきた。
「私、疲れちゃいましたぁ、先輩にもたれさせてくださぁ〜い!」
そう言って俺に近づいてくる春花のことを避ける。
「疲れてる後輩のこと避けるなんて酷く無いですか!?」
「さっき二週間に一回ジムで体を絞ってるって言ってたのに、二十秒でそこまで疲れるはずがない」
「じゃあ本当に疲れたら良いんですね!?」
「そうは言ってな────」
春花は俺の言うことを無視してランニングマシンに向き直ると、ゴムを取り出して髪を一括りにした。
「……」
髪を一括りにするだけで一気に印象が変わる、ランニングマシンに向き合っているからというのもあると思うが、何だか少し大人びて見える。
その後春花は二十分ほど走り続けると、ランニングマシンを止めて俺の方に近づいてきた。
「先、輩……私、ちゃんと、疲れましたよ……だから、今はもたれさせてくださいね」
春花は息を切らしながら言うと、重たい足取りで俺の方に近づいてきた……俺はそれを受け止める。
すると、春花は小さく笑いながら言った。
「やっぱ、先輩って、優しい、ですね……」
「春花のことをこんなに疲れさせてるのに、優しいのか?」
「先輩は、不器用なんですよ……私は、先輩のことちゃんと見抜いてますよ……だから、そんな不器用な先輩に、ちゃんと私のこと可愛いって思わせて、認めさせてみせます」
……春花は、俺のことを見抜けていない。
俺は、今こうしている間も、春花のことを可愛い後輩だと思っている。
それは容姿や性格全てを含めてだ。
俺は疲れている春花のことをベンチで休ませて、今度は俺がランニングマシンに挑戦して、その後軽くランチを食べてから待ち合わせ場所の駅前で解散した。
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