第19話  新人風紀委員の受難(後編)

かなり過去のお話です


*

どうしてこうなったんだろう


校門でのあいさつ活動にも支障が出始めた。

もう誰も来ない


私は恥を忍んで先生に相談した。


「わかった。私の方から何人かにこえを掛けてみるわ」


お願いします


「あなたも負けちゃダメよ」


先生は私に元気を出すように言った。


はい私は負けません


*


風紀委員の校門での活動は義務じゃないから、理由があれば免除可能だ。


出ないからと言って強制は出来なかった。


困ったときには相談だよ

はい困ったのです


私は引っ越す前の同級生に電話で相談した。


彼女たちは一様に驚いていた。

でも。ああやっぱりねとも思っていた。


曰く 

「あんたは気配りがなってないし、口も悪い」

「無愛想だからいつも不機嫌そうに見える」

 

え、ひどくない? 友達だよね?


「私も最初は怖かったんだよ」

「マジか」

この目で「なに?」って返されると真剣にビビるらしい。


なるほど・・・

全ては私に問題があった。 しくしく


なら答えは簡単だ

自分を変えて生きていくか、周囲変えるかだ!

ここは後者一択。自分好みに変えよう。


控えめでおとなしく引っ込み思案。そんな彼女たちにはもっと広い世界を見てほしいから。


その上で決めてくれたら嬉しい。

どちらの自分が好きなのか。



ふふふ


私を怒らせるとこわいよ。友達の押し売りするから。


次の日から計画はスタートした



「おはよう!」

「およう」

校門での挨拶のときさり気なくチラシを手渡す。

当然受け取った女生徒は困惑する。


「近いうちにお祭りやるよ!美味しいもの食べて天体観測よ!」

「へえおもしろそうね」

彼女はチラシを返すと、校舎へ入っていった。


ぐぬぬ 敵は手強い

こうなれば持てる最大戦力で挑戦だ!


次の日、私は街の外れに建っている天文台へと向かうことにした。

そこで相談 イベントを開くので当日敷地内を開放してほしい。と


高校生主催のイベントで使いたい

もちろんルール履きとんと守らせます

外の空きスペースで出店を許可してほしいと


館長は困惑した

どうやって断ればいいのか


こんなこと前代未聞

天体ショーの観測会なら何度でもやったことがあった。 しかし同時にお祭りを開くなんて

彼女はうちの常連さん 

とてもいい子


返事に窮していると、意外なところから助け舟が現れた。

「いいんじゃないか。わしは楽しそうでいいとおもうよ」?

「山岸さん!」

 山岸のおじいちゃんは、私がこの天文台に初めてきたときに出会ったおじいちゃんだ。

なに?

ひょっとして偉い人とか?


まさかの商工会の役員でした!

ただの天文好きのおじいちゃんじゃなかったのね。

彼いわく

夏まつりでは多くの出店を出店させている

だけど

儲けがなければ出店はできないと。


はいそれは当然です。

はいそうです


私は昨日ワープロで作成した計画書をおじさんに見せた。

眠い目を凝らし作った原価表や予想来場者数の予測グラフ。


どれくらいの店なら利益が出せるのか

どうせ子供が書いたものだと、高をくくってみていたおじいさんは次第に真剣になった。


「面白いな。これ自分が書いたのか」

そうですと言いたいけどここは正直に話す。


「その企画自体は前からあったものです」

他の地区でもやっていた物をうちの規模に落とし込んだ。

細かな数字は友人たちにお願いした。

私がやったことはそんなにはない。

せいぜいワープロでチラシを作ったことくらいだ。 


計算を頼んだのはイベント経験したことがある大学生だったけど、大人が見てもな納得させる出来のようだった。


将来は税理士か公認会計士にでもなるのだろうか。今からコネをつくろうかな。

「俺の一存じゃが、これは当たる予感がする。みんなにもわしが説得する。嬢ちゃんの頼みいいてみてはどうだ」

 

うーんどうしましょう

最後まで悩んでいた館長は押し切られた


次は出来るだけみんなに参加してもらうようにすること。

そのための絶好の場があった。


生徒会選挙演説会。


私は立候補した。 

みんな驚いたよ。外部性が何やっているんだって


でも私は負けるわけにはいかなかった。


選挙期間に発表した公約。

【この町にイベントを誘致する】

【その主催者は私が創設する天文部になる事】

【全国から学生や社会人参加する。あと出店でるから】


出店の言葉に何人かが食いついた!

出店いいよね!

 

私が伝えたかったのは二点だ。


楽しいことをやりたい!

 

それはみんなと一緒じゃないと駄目な事。 

後は参加してくれるよう仕向けることだ!

そう考え次の策を考えていると、意外ところから声が上がった。前に座った子だ。


私がハブられる原因を作ってしまった事を気していたらしい。

「なら手伝え!」

「ええー!」

「・・・手伝ってくれるよね?」

にっこり

「 ・・はい」

よっしゃー!

労働力確保!


私は彼女たちの罪悪感に漬け込む、どんどん参加させて仕事を割り振ってゆく。


「鬼がいるー」 愚痴は聞きません

 

そう言いながらも、彼女たちは楽しそうにチラシを刷っていた。

星の形のマスコットもあるよ

 


そしてイベント前日

「きたよー!」

「皆さんこいつです!あたしのいじめの原因作った男は!」

総宣言したらみんなぽかんとしてた


「じょせい?」


そうだよ


「ええーあたし男の子って思ってた!」


お前が犯人か!噂をばらまいたのはお前だったのか!

私はその子を捕まえヘッドロックした。


「ちょ、いたいいたい!」痛くしてるからね


罰です

痛いのは罪の深さだよ

私はあえて加減をしない

 

彼女たちが気に病まないように。

厳しく罰を与えよう

悔やまないほどに


「マゾなの?」

違うし


好きの反対は無関心

嫌ってもらえて上等だよ!


そしていつの間にか彼女はこの高校に受け入れられた。

打たれても倒れない不屈の闘志をもっていたから

 

彼女はきっと特別な存在

 これはきっと僥倖だ

そして支えてくれた友人たちもいたから出来た。奇跡。


もっと強くなれ 

私達が応援するから

これが初代天文部部長の伝説だ。


衰退していたこの地域に町おこしというイベントを根付かせ

今では全国規模にまでなっている。


彼女が残した奇跡の残り香がこの高校にまだあった。



そうね 女子校だから花がほしいね

ああ華ね たくさん欲しいね


第29代生徒会長に就任した彼女は、こっそりと規約を残した。

【折れそうならみんなで支えてあげるから強くなりなさい】と


これ以降ももちろんいじめ問題は起きたが、発覚次第早期収束が徹底した。



・・・という昔話があってね。

テスト明けでだらけていた彼女たちにせがまれ昔話をした。


生徒たちはだれもが呆然としてた。

こんな身近に創設者がいたなんて。


「はい先生のお話はこれでおしまい。教科書90ページを開いて」


黒板に向かう彼女の背中に一人が挙手をする。


「そのワープロってなんですか。ずっと気になって」

そう聞いた子に

「ええー先生そんな事言わないよー パソコンだよー」って笑顔で押し切られた。


先生こわいよね。


あ。一つ思い出した事があった。


先生の名前だ

確か華子だ


「華になりなさい」は

「華子のようになれ」って事なのかもしれない。


想像だけどね!


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