第23話 15歳までに理由を決めなければならない
「母さーん。今の話は聞かせてもらったぜ〜」
空気をぶち壊すように窓から入った俺はあっさりした口調で言う。すると母さんは驚いたように目を見開いてこっちを見てくる。まぁ母親からしたら自分の息子が悪魔呼ばわりされている事を聞かれたら嫌だわな。悪魔呼ばわりされていることは前から知ってたけどね。
「い、いつから聞いてたの?」
「最初から最後までだね。タロクが窓から話しかけたところから」
「本当に最初からだ……」
「本当に最初からだね。で、一応言っとくけど悪魔呼ばわりされていることはずっと前から知ってたよ」
「なんで、お母さんに言わなかったの?」
「過保護な母さんは絶対村の人をボコボコにするからね」
「……まぁ確かに」
先程までガキが座っていた椅子に今度は俺が座り、クッキーを齧りながら会話をする。うんやっぱり母さんのクッキーはうめーな。あのガキに全部食われなくてよかったよ。母さんのことだから少しはまた別のところにおいてあると思うけどね。
「それでだけど、俺はその悪魔呼ばわりは特に気にしていないからボコボコにする必要はないよ?母さんがボコボコにしたいって言うならしてもいいけど」
「ボコボコにしたいです」
「そしたら多分この村に居られなくなるよ?」
「それでもいい。ルカのことを変な風に呼ぶやつが悪いから」
「なるほどなるほど。なら俺がボコボコにするから母さんは何もしなくていいよ?」
「……ルカがするの?」
「俺がするよ」
この村に居られなくなるのは母さんにとって辛いだろうし、母さんと2人きりで旅に出るだとか慣れない村に引っ越すだとか、そういうのはあまりしたくない。折角この村にはリージアさんという、最高の人間の母さんの友だちがいるのだ。その人と離れるのは嫌だろう。そうなったら悪者は俺1人だけで大丈夫であって、母さんは被害者で居てもらったほうが都合がいい。
「もしかしてだけど、自分が悪者になろうとしてるの?」
「してるよ。でも大丈夫。15歳になったら旅に出るつもりだし、そのタイミングでボコボコにするよ」
あくまでも俺は母さんと2人で旅がしたくないだけであって、1人で旅をする分にはなんの問題はない。母さんと旅したら絶対『あそこは危ないからダメ』だとか『私が戦う』だとか、過保護が発動して旅どころではないからな。
「ちょっとまって。旅に出るの?私をおいて?」
「色々この世界のことについて調べたいからね〜」
「それは許可しません。あなたには平穏に暮らしてもらいます」
「この村で?」
「この村で」
「ずっと?」
「ずっと」
おい嘘だろ。異世界に来て平穏に暮らすとか嫌だぞ。もっとドンパチ魔物と戦いたいし色んな困難にも立ち向かいたいぞ。
「まずあなたは戦闘魔法使えないでしょ?」
「使えるよ。でなきゃ父さんは倒せていないよ」
「……まさか、誰かが倒したのじゃなくて、ルカが倒したの?」
「そうだけど」
「私、詠唱なんて教えてないよ?タロクくんみたいに魔導書もあげてないわよ?」
「魔法は想像力があったら使えるよ。ていうか、なんで俺には魔法を教えてくれなかったんだよ」
色々不思議だったんだ。5歳になったガキが「僕、魔法を使えるようになったんだよ」って言ったことも。そして俺が母さんに魔法のことについて聞こうとした時も軽く流されたことも。冒険者登録をさせないようにギルドになにか言っていたことも。全部合点が行ったぞ。この母親、俺に戦闘させないようにしてやがったな。
「だって、魔法なんて使ったら怪我するじゃない」
「……まじかよ」
こんな母親が物語に居たら話が進まなくて困るぜ。というか今現在困ってるぜ。過保護であることはありがたくて嬉しい。が、子供の成長を妨げるのは良くないと思うぜ。というか子供の意見を尊重させてくれ。
「てかルカ?この前魔物の血がついていたけど、まさかとは思うけどあなたが倒したの?」
「俺が倒したね」
「ダメじゃない!戦ったらダメ!」
……なるほど。反抗期というのは過保護すぎる親がいるが故に怒るものなんだな。この過保護さはかなりめんどくさい……いや、めちゃくちゃめんどくさい。今すぐにでも反抗期になってやろうかと思うぐらいめんどくさい。
「母さん。俺が子育てをしていく上で大切なことを教えてあげるよ」
「なに」
「『子供の意見を尊重してあげる』だ。子供がやりたいって言っていることをダメと言い続けたらいつの間にか子供に嫌われるぞ?」
「え……ルカ、私のこと嫌いになるの?」
「俺の意見を聞いてくれなかったら嫌いになるね」
「それは……やだ」
過保護なら子供を脅しの道具に使えば良いのか。そしたら今母さんがなっているみたいにすっげー嫌そうな顔をする。非常に悪いとは思っているが、すまんな母さん。俺の意見を聞いてくれ。
「けどまぁ、母さんが心配しないようにできるだけ努力するよ。命に関わりそうなことなら全力で逃げるしね」
「本当に?」
「本当だね」
「絶対に?」
「絶対に」
「ルカが死んだら、私も死ぬよ?」
「……うん」
過保護通り過ぎてメンヘラ化してるぞこの母親。流石に息子のことを好きすぎじゃないか?こんな母親を将来結婚する人に見せた時どんな反応をするのか想像もしたくない。絶対母親が理由で別れましょう、って言われるに違いない。うん、結婚する予定なんて1つもないけど、もしすることがあるなら母さんに紹介するのはやめておこう。
「ならわかった。15歳までに旅に出るそれ相応の理由を見つけてきたら言っていいわよ。魔導書は自分で買いなさい」
「世界のことについて知りたいじゃダメなの?」
「ダメ」
「分かった。ちなみにだけど、5歳児に魔導書を買わせる母親をどう思いで?」
「中身は5歳じゃないでしょ」
ちくしょうこの母親都合のいいときだけ俺の転生前のことについて触れやがって。別にお金は自分で稼げているから良いんだけど、絶対店主になにか言われるやつだぞ。
最後のクッキーを頬張った俺は立ち上がり、部屋に冒険者カードを取りに行くために立ち上がる。
「はーい。中身は5歳児じゃないのでお金稼ぎにいってきまーす」
不貞腐れたように言葉を口にした俺は部屋の方へと歩きだし、冒険者カードをポケットに入れて家を後にした。母さんは母さんでどこか不服気な感じがしたが、まぁお互い様だ。家に帰ったらどちらも忘れているだろう。なんてことを考えながらギルドへと向かう。
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