本来の世界線 文化祭編
1. 突然のバンド結成
本来辿るはずだった世界線、高校二年生時点でのお話。
愛梨視点です。
不定期更新となります。
――*――
「えっ、朋子、学校やめちゃうの?」
高校二年生、二学期の始業式の日。
友達の優樹からもたらされた情報に、私は目を丸くした。
朋子からは、夏休みに入るまで、そんな話聞いてもいなかった。
「ああ、俺もさっき聞いてびっくりした。な、修二?」
優樹は、暗い顔をしている修二に話を振る。
「おう。大きい声じゃ言えないんだが、アイツ、妊娠したみたいなんだよ。それも、誰の子だか分からないんだってよ」
「ええ……朋子、そんなことしてたの? 知らなかった」
声をひそめて話す修二に、私はさらにショックを受けた。私から見た朋子は、トレンドに敏感でいつもお洒落な、明るく綺麗な憧れの友人だったのだ。
「……正直、オレ、知ってたんだよな。朋子が複数の男と付き合ってるの。だから驚きはしなかったけど――」
修二は、そこでためらうように言葉を切り、さらに小さな声で呟く。
「――怖いんだよ。もし、お腹の子がオレの子だったらどうしよう。生まれたら分かっちまうよな? そうだったら責任取った方がいいのかな」
「……え? 修二、朋子とそういう関係だったの……?」
「……まあ、その……何回かした」
「……そう、なんだ」
私は今度こそ衝撃を受けて、俯いた。
友人二人がそういう関係だったなんて、全く気付いていなかったし――なんていうか、誰かと付き合ったことのない自分には遠い世界の住民みたいに感じる。
私が顔を上げると、こちらを見つめていたらしい優樹と目が合う。優樹は、なぜか耳を赤くしてすぐに目を逸らしてしまった。
「……朋子、これからどうするんだろね。進学とか、就職とか、結婚とか」
「結婚はないんじゃね? 相手がわからないんだろ?」
「それもそっか」
「まあ、オレはともかく、愛梨と優樹にできることはないから……って、優樹はまさか朋子と寝てないよな?」
「はぁ!? んなわけないだろ!? 俺はこう見えて一途なんだよ」
「へぇぇ、優樹、好きな人いるの? ねぇだれだれー?」
「おま、愛梨……っ、それは、ほら、その」
「――ははっ、お前ら仲良いなぁ。ま、頑張れよ、主に優樹」
「うぐっ」
優樹は、顔を真っ赤にして胸を押さえている。
誰か好きな人がいるなら応援したいけど、この様子だと教えてくれそうにない。
それに、なぜか聞きたくないと思ってしまっている自分がいた。
「ところでさあ、文化祭どうすんだ? オレら、朋子の提案でカフェやる予定だったじゃん。でも、アイツがいないと、流石に難しくね?」
「あー、そうだよな。俺も修二もまともに料理できないから、愛梨が休憩に出れなくなっちゃうな」
「それに、ラテアートをメインにする予定だったでしょ? でも私、朋子みたいに上手にできないんだよ。正直、私の腕じゃあ、このまま出し物にするの不安だなぁ」
「あの、シートかぶせて粉ふりかけるやり方じゃダメなのか? 朋子は簡単そうにやってたけど」
「見た目だけじゃなくて、味も大事でしょ? コーヒーに注ぎ込むミルクと泡の分量とか、泡の滑らかさとか、色々あるんだよ。ボコボコの泡をスプーンで上に乗せても、すぐに泡が潰れて可愛くなくなっちゃうし、味も全然美味しくないの」
優樹と修二は、「へぇー」と感心したように相槌を打っている。
「とにかく、朋子がいなかったら、カフェは難しいよ。別の出し物考えよ? 先生も、事情が事情だから、早めに新しい企画を出せば通してくれるんじゃないかなあ?」
「だな。うーん、でもオレ、正直やりたいことないんだよな。愛梨と優樹はなんかないの?」
私は、首を横に振る。正直、そんなすぐに思いつくものではない。
「……じゃあさ。二人とも、バンドとか興味ないか?」
「バンド?」
「うん。俺、ギター弾けるから。あとは、隣のクラスにドラムできる奴いるんだけど、声かけたら喜んで参加してくれると思う」
「へぇ、優樹、ギターできるんだ。ちょっと意外だけど、カッコいいね」
「そ、そうかな?」
優樹がギターを弾けるなんて、知らなかった。
褒めたらすぐ赤くなるのが面白くて、ちょっと可愛い。
「バンドかあ……オレ、家にベースならあるけど」
「おっ、マジで? いいじゃん。なら、修二、ベースやってよ。愛梨は、ピアノ弾けるよな? どう?」
「うん、いいよ。ピアノ弾くの好きだし、バンドも楽しそう。ヴォーカルは誰がやるの?」
「オレ、やろうか?」
「お、修二、ベースヴォーカルやってくれんの? じゃあよろしく」
こうして、文化祭の出し物は、バンド演奏をすることに決まった。
言い出しっぺの優樹がリーダーでギター、修二がベースヴォーカル、私がピアノ。
そして、隣のクラスの吹奏楽部員、琢磨くんがドラムを担当することになったのだった。
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