悪も正義も唐突に
「ふわぁ...寒い」
土曜日、日差しが眩しく暖かいが、冷たい風が通り、やや目が覚める。
時間は7時、平日ならもう着替え終わらないと行けないだろう。
あまり音を立てずに下の階へと降りて、朝食を済ますついでに、父と母のコーヒーも準備しておく。ニュースを見る限り、今日は一日中快晴のようだ。
「いい映画日和だ。」
そう独り言をこぼし、自身のカバンの中身を確認すると同時に、インターホンが鳴った。
時間は8時手前、やや遠い大きなデパートの中にある映画館に行くためちょうどいい時間だ。
「よっ!」
「おはよう、もう少しだから待ってて。」
来たのは僕の親友のなっちゃんだ。
今日は彼とヒーローマンの映画を見る約束をしていたのだ。
僕もそうだが、彼も楽しみだったのか珍しく目の下にうっすらくまがある。それに、グッズを沢山買う気なのか、やや大きめのバッグを持ってきていた。
「大丈夫?映画館で寝ちゃわない?」
「ンなわけあるかよ!去年から待ちに待ったヒーローマンの映画だぞ!」
僕がからかい気味に言うと、なっちゃんも笑いながら返してくる。こんなやり取りも日常的な風景だ。
「母さん達のコーヒー、ちょっといる?」
「いや、家で飲んだからいいよ、それより時間迫ってるからそろそろ行こうぜ」
彼のその言葉を聞いて時間を見ると、さすがにゆっくりしすぎたのか、もう一時間前だ。
「やばい!!!」と叫びそうになるのを抑え、2人で靴を履き「行ってきます!」と、声をかけ家を出る。
映画館にギリギリで間に合うなんて危ないことにはならなず、約十分前には、席にはつけた。
スクリーンに描かれているヒーローマンのアクションは、とても派手で、周りに子供が多いことなんて知った事では無いという程に僕らはこの映画に夢中になっていた。
映画が終わり、物販でいくつかのグッズを買うと、いつの間にかお昼前になっていた為、ヒーローマンの感想をいいながら、同時にお昼をどこで食べるかを話し合う。
「まぁ、ここが一番食べたいもん食えるよなぁ」
「面白味はないけど、そうだね。」
僕たちは悩んだ末、結局、フードコートに入り、お互いにバラバラな昼食を選び、席を共に囲んで食べた。僕はうどんにお茶、なっちゃんはジャンボバーガーにポテトとジュースだ。
その間にも、互いに映画の感想や最近読んだ漫画等、他愛無い会話を広げている。
「......っと、すまねぇ少しトイレに行ってくるわ。」
なっちゃんが急にそういうと、彼は返事も待たずにそそくさと席を立ち、御手洗と書かれた看板の方へ向かう。
僕はすでに、食べ終わったお盆を返却しており、特に何もやろことがないため、スマホを除いている。
少し時間がたち、僕は何となく外を眺めてみた。
雨が降っていた。
おかしい、今日は一日中晴れと言っていた。
(ゲリラ豪雨か?)
そう考えたが、その次の瞬間、その考えはかき消される。
ドゴォン!!
何かが爆発したような音、それも、かなり大きな音だった。
それと同時に、広間に大きな穴のようなものが突然現れ、そこから見たこともないような生き物が十数体、異形の人のようなモノが一人現れ、次の瞬間にはアレらはデパート内の物を次々に壊し、人を襲い出した。
装飾物は軒並み壊れ、襲われた人々は、体の一部を食いちぎられ絶命している。
混乱や、恐怖が、その場の人々の心を一瞬にして染め上げ、逃げ惑うように走り出す。
僕もその波に飲まれるように押し出されるが、ふと振り返ると、子供が置いてけぼりになっていて、泣いていた。
危ない、あんな所に1人残されたら、あの化け物達に食べられてしまうかもしれない。
そう思った時には、既に僕は、その子供の方に走り出していた。
人波をかき分け、抜け出すと、直ぐにその子の傍に立ち、「大丈夫?」と声をかける。
「おかぁさぁぁぁん!!うわぁぁぁぁん!!」
「大丈夫、君のお母さんはきっと無事だよ、だから一緒に逃げよう。」
子供はないており、返事ができていなかったが、もう目の前にあの化け物が迫ってきており「グルルルッ」と、唸り声を鳴らしているため、僕はその子を抱え、走り出す。
「はぁはぁ.....くそっ!!」
出口まで、いつもならそう遠くない道のりが、恐怖で永遠に長く感じられる。
「....!?クッ!」
「グルルル....」
一体が上の階か、飛び降りてきて、僕の目の前に来る。
囲まれた。
どうすれば、ここから助かるのだろうかと考えるが、逃げ出した人々が助けに来てくれる訳でもなく、僕に特別な力があるわけでも無い。
そう考えている内に、化け物達は僕達に飛び掛り、襲ってくる。
殺される
どうすればいい
せめてこの子だけでも助けられないのか
なっちゃんは逃げられたのか
一瞬の間に、走馬灯の様に思考が回り続ける。そして、化け物の爪が僕の目の前に来た。
その瞬間だった
「オッラァァァ!!!」
僕達の目の前に、赤いヒーローが現れ、化け物達を吹き飛ばしたのは。
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