1章「ウサギの王子様」

第1話「いつもの朝」

『それでは、今日の星座占い。第一位は、しし座のあなた!』


 私?


 朝ごはんを食べていた私は、じっとテレビを見た。私の……宇佐見うさみ 千弦ちづるの星座がテレビから流れてきたから、びっくりして。

 しし座、一位なんだ。ドキドキしながら結果を見る。でも、そのあとすぐ、がっかりすることになった。


『とくに恋愛運が絶好調! 恋人ともっとラブラブになっちゃうかも? 恋人のいない人は、運命の相手に出会える可能性が特大です!』


 恋愛運か……。他の運が絶好調だったらよかったのに。1位になっていたのにあんまり嬉しくなれなくて、またもそもそ朝ごはんを食べていく。


「こら、千弦! 早くしないと遅刻するよ!」


 怒ったお母さんがリビングに入ってきた。えっ、もうそんな時間? 私は壁に掛かっている時計を見て、さーっと背筋が寒くなった。嘘でしょ、急がなきゃ!


 私は残っている朝ごはんを食べて、ばたばたと支度を急いだ。


 不ぞろいのボブカットの髪をブラシでといて、お気に入りの三日月の髪飾りをつけて、丸いのメガネは少し汚れてしまっていたから拭いて……。


「行ってきまーす!」


 ランドセルを背負って、外に飛び出す。


 走りながら、私はさっきの占いのことを思い出していた。運命の相手、かあ。

 無理だろうなあ。私はため息を吐き出す。


 だって私、彼氏どころか、友達すらいないんだもの。




 チャイムが鳴って先生が出て行くと、教室はワイワイガヤガヤ、たくさんの音でいっぱいになる。


「外行こうぜ、外ー!」

「あー、待てよー!」

「ねえねえ、昨日のドラマ見た?」

「見た見た、とても気になるところで終わってたよねー!」

「あのね、この前買った雑誌のふろくが~」


 笑い声や騒ぎ声。あちこちから、楽しそうな声が聞こえてくる。当たり前だけど、私の知らないお話ばかり。そんな声を、私はぽつんと、椅子に座って聞いている。


 ああ、と息を吐き出した。ため息を出すの、今日で何回目だっけ……。何回息を吐き出しても、もちろん他の音のほうがずっと大きいから、誰も気づかない。


 窓際の一番奥の席は、ちょっと目立たない。ここに座っている私も、全然目立たない性格をしている。昔からそうなの。小っちゃいころから、一番苦手なことは友達を作ること。


 四年生のとき、一人だけ友達ができたんだけど。その子は去年引っ越してしまって、それからずっと友達ゼロ……。


 次の授業に使う教科書を取り出してなんとなく眺める。面白くもなんともないんだけど、何もしていないとひまだから。来年中学生になるけど、きっとそこでも同じような感じだろうな。


「えー、ユリちゃん告白されたんだ!」


 前のほうから、女の子の声がした。びくって、耳が反応する。


「そう! 昨日の放課後に付き合ってほしい、って!」

「いいなあ、あのサッカーが得意な子でしょ?」

「彼氏、うらやましいー!」


 す、凄い。友達もいるのに彼氏もいるなんて。私とは世界が違いすぎる……。


 はあ。ため息を吐いて、教科書のページのすみっこを、指でぺらぺらいじくる。

 早く学校、終わらないかな。そうすれば、楽しみなことが待っているのに。

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