第64話 エピローグ③
チハヤさんとの通話を切り、急いで配信サイトを立ち上げた。
検索するまでもなかった。オススメの動画のトップに、
配信を覗いてみると、どこかのダンジョン内、石造りの通路の中で、
配信のタイトルには「始皇帝陵」と書かれている。たぶん、そういう名前の遺跡か何かなのだろう。そして、戦っているモンスターは、いわゆる兵馬俑というやつだろうか、古代中国の兵士の姿を模した人形だ。
そんな
トレードマークのガトリングガンこそ持っていないが、レオタード型のパワードスーツは着ており、徒手空拳で無敵の強さを見せている。
あっという間に、兵馬俑達を駆逐した後、
「她是我的新搭档阿纳斯塔西娅! 她很强!」
なんて言っているのかさっぱりだが、「
ナーシャは、あんなに感情豊かだった彼女らしくなく、やけに無表情だ。それに、ひと言も口をきいていない。何があったのか、どうして
わからないけど、俺はジワジワと湧き上がってくる喜びを噛み締めていた。
生きてる! ナーシャは生きてる!
すぐにまた、チハヤさんへと電話をかけ直した。
「確かにナーシャでした! 間違いないです!」
『やっぱり見間違えなんかではなかったんですね!』
「どうしよう、なんか、会いに行く方法はないですか」
『ちょうど来月、ダンジョン探索局のほうで、向こうの行政機関との交流を兼ねて、中国へ旅行に行くところでした。そのメンバーに、特別に、あなたを加えられないか、上司に相談してみます』
「頼むよ! なんとしてでも、ナーシャに会いたい!」
『わかりました!』
それから、チハヤさんは、『あ』と声を上げた。
『ひとつ、大事なことを言い忘れていました』
「なんすか?」
『来月から新たに「ダンジョン危機管理法」が成立するのはご存知でしょうか。それに伴い、ダンジョン探索も、ダンジョン配信も、全てダンジョン探索庁の管理下に置かれることとなりました』
「ああ、なんか、ニュースでやってましたね」
『これからは、自由にダンジョンへ潜ることは違法となります。必ず届出が必要になりますので、注意してくださいね』
「大丈夫。ただでさえ退学の危機が迫ってるところに、これ以上波風立てるつもりはないっすよ」
電話を切った後に、俺は大事なことを思い出した。
中国へ渡ろうにも、パスポートがない。
一ヶ月くらいで発行できるのだろうか。ギリギリになるのではないか。そんなことを考え、パスポート申請のやり方をネットで調べながら、家へと戻った。
「ただいまー……って、え⁉ どちら様⁉」
出迎えたのは、ノコではなく、銀髪ショートヘアの少女と、金髪ツインテールの少女。どちらも俺と年齢は近そうだが、雰囲気的に、年下に見える。
「あ、お兄ちゃん、お帰り。ちょうどこの人達も来たところだよ」
キッチンでお茶を作っているノコが、振り返って、笑顔で説明してきた、
「こんにちは、木南カンナ。私は
銀髪ショートヘアの少女タチアナは、クールな感じで自己紹介してきた。
「それから、こっちは――」
「そのさらに一歳下、
金髪ツインテールの少女オリガは、やたらと元気な感じで挨拶してくる。
ナーシャの妹達⁉ そう言えば、あいつの家族構成って、ちゃんと聞いたことがなかったな。二人も歳の近い妹がいたんだ。
「早速ですけど、木南カンナ、あなたは
「見たよ。ナーシャが映っていた」
「なら、話が早いです。助けに行きましょう」
「助けに? どういうことだよ。世界最強のDライバーの側にいるんだから、問題ないだろ」
「あなたの目は節穴ですか」
やたらと辛辣な物言いで、タチアナはズバッと言い放つ。
「ナシャ姉は普通の様子ではなかった。まるで、誰かにマインドコントロールされているような、そんな雰囲気でした。明らかに異常です」
「確かに、様子はおかしかったな……」
「だから助けに行く。あなたもついてきてくれますね」
そのことに異論はない。
だけど、ノコのことがある。出来れば、今日この場で、そんな話はしたくなかった。
「いいよ、お兄ちゃん。行ってきて」
お客さん二人にお茶を出しながら、ノコは思わぬ言葉をかけてきた。
「マジでいいのか、ノコ?」
「止めるわけにはいかないよ。ナーシャさんは、お兄ちゃんの大事な仲間でしょ。助けてあげてきて」
「その流れで、ダンジョンに潜るかもしれないんだぞ」
「お兄ちゃんならきっと戻ってこれると信じてるから」
無理して笑顔を作っているのがわかるほど、ノコの表情は引きつっている。
心苦しいが、ここはノコの言葉に甘えよう。
「わかった。行くよ。行ってくるよ。それで、タチアナ。どうやって行くつもりなんだ?」
「明日にでも、出発しましょう」
「俺、パスポート持っていない」
「しょうがないですね。では、いますぐに作りに行きましょう。御刀重工の力があれば、三日もあれば発行してもらえます」
「すごいな、御刀重工」
「政府に愛されている企業ですから」
こうして、俺は、もともと一ヶ月後の予定が、数日後には中国へ行くこととなった。
そのことをチハヤさんに伝えると、彼女はだいぶ慌てた様子になったが、
『わかりました。あなた方の予定に合わせましょう。こっちのスケジュールを前倒しにします。中国側はきっと文句を言ってくるでしょうけど、何とかします』
とのことで、ダンジョン探索局のみんなも同じタイミングで、中国へ行くこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます