第47話 新宿ダンジョン①
四ツ谷駅周辺は、自衛隊が新宿区との境に防御壁を張っていて、物々しい雰囲気になっている。誰一人、新宿ダンジョンの中に入れまい、あるいは新宿ダンジョンから何者も出すまい、という意思を感じる。
そんな中に、稲妻爺さんはハーキュレス部隊を率いて、ズカズカと入っていく。まったく物怖じしていない。
「おい、止まれ! なんだ、あんたらは!」
「わしらはSDSTじゃ!」
「身分を証明できるか!」
「これをよく見よ!」
そう言って、稲妻爺さんは首から提げているネームタグを見せてきた。そこにはSDSTの文字が刻まれている。他のハーキュレスの面々も同様に、タグを見せた。
俺も慌てて、自分のネームタグを見せる。
タグについては話が通っているのだろう。俺達を呼び止めた自衛隊員は、半信半疑な様子でありながらも、脇へ届いて、俺達のことを通してくれた。
「門を開けろ!」
簡易ではありながらも、新宿区との境界線には壁が設置されており、それが多少の安心感をもたらしてくれている。
しかし、門が開けられた途端、禍々しい瘴気のようなものが流れ出てきた。
「なん……だよ、これ」
新宿ダンジョンは、異様なまでに変貌を遂げている。
まるでダリの絵画のように、シュールなまでにグネグネと歪んだ建物群。ダルマのような形になっているビルもあれば、ドロドロに溶けたようになっているビルもある。
俺達が新宿ダンジョンに足を踏み入れると、自衛隊は即座に門を閉めた。
これで、完全に死地に入ったことになる。
あらためて、俺はハーキュレス部隊のほうを見る。
稲妻爺さんを筆頭に、その他十人の少数精鋭。もっと大部隊なのかと思っていたが、意外と小規模だ。
稲妻爺さんの横には、常に銀髪ショートヘアの綺麗な外国人のお姉さんがついている。副隊長だと聞いている。名前はアビゲイルさん。稲妻爺さんはアビーと呼んでいる。
「さて、アビー。お前ならどう進めていく」
「私なら、こんな無用な会話をする暇があれば、さっさと集中突破をしますね」
アビーさん、なかなか辛辣だ。
「敵がどのように出てくるかわからん。少しは警戒しながら進むのが吉と思うが」
そして、意外と稲妻爺さんは、戦場に置いては慎重だ。
「どちらにせよ、敵は理屈を超えた存在です。先入観も、思い込みも、予測も、全てが命取りになる可能性があります。ならば、敵の迎撃態勢が整う前に、目標地点まで突破するのがいいでしょう」
「よかろう。今回は、アビーの意見を採用じゃ」
稲妻爺さんは満足げに頷いた。
なるほど、爺さん自身もアビーさんと同じことを考えていたけど、あえて反対意見の立場を取ることで、作戦の有効性について再確認をしていたわけか。
と、考えていると、早くもハーキュレス部隊は動き始めた。
みんな足が速い。中腰の姿勢で動いているのに、すごいスピードで、俺は駆け足でやっと追いつけるくらいだ。
「あ、あそこに!」
最後尾にいる俺は、目の前の空から飛んでくるモンスターの一団を発見し、指さして警戒を促した。
ガーゴイル、というやつか。西洋ファンタジーの世界では当たり前のように出てくるモンスター。それが、ざっと見ただけでも二十体近く。俺達に向かってきている。
「方円の陣を取れい!」
稲妻爺さんの怒鳴り声とともに、ハーキュレス部隊は爺さんを囲むようにして円形になって並び、四方を警戒し始めた。俺は急いで円の真ん中に飛び込み、爺さんの隣に立った。
「え、なんで⁉ あっちは攻撃しなくていいんですか⁉」
まったくガーゴイルの一団のことを気にしていない様子に、俺は焦りを抱きながら、稲妻爺さんに尋ねる。
「これ見よがしの襲撃じゃ! 惑わされるではない!」
爺さんの読みは正しかった。
変形したビルの陰から、ゾロゾロと、新手のモンスター達が現れる。みんな、複数の動物がごちゃ混ぜになったような奇妙な形状をしている。
キメラ、というやつだ。俺達を取り囲み、最初はゆっくりと歩を進めていたが、ある程度距離を詰めたところで、一気に飛びかかってきた。
たちまち戦闘が始まった。
ハーキュレス部隊のショットガンが、マシンガンが、グレネードランチャーが、一斉に火を噴く。あまりの轟音に、俺は耳を塞いだ。事前に稲妻爺さんから耳栓を装着してもらっていたが、それでも鼓膜が破れそうだ。
キメラ達は、一撃で倒されるものもいれば、何度も根強く立ち向かってくるものもいる。
しばらく撃退しているうちに、上空のガーゴイル達がかなりの距離まで接近してきた。
「ぐはははは! その程度で挟撃のつもりか! 甘いわ!」
稲妻爺さんはロケットランチャーを構えると、ガーゴイル軍団の中心に向けて、ロケットを撃ち放った。
空中で大爆発が起きる。ガーゴイルが三体ほど、首や胴体を吹き飛ばされ、バラバラになって落下する。
残ったガーゴイルは散開し、地上のキメラ達と連携を取りながら、攻撃を仕掛けてきた。
けれども、ハーキュレス部隊は強い。
冷静に、的確に、敵を狙い撃ちし、撃破していく。
しかも、移動しながらだ。円の陣形という防御態勢を組んではいるものの、一箇所にとどまらず、ちゃんと歩を進めながら、戦闘を続けている。すごく、熟練の動きだ。
ものの数分で決着はついた。
周囲にはモンスターの死体がゴロゴロ転がっている。
この調子なら楽勝で目的地まで辿り着けるな、と思っていると、早くも第二陣が襲いかかってきた。
ズシンッ! と重たい足音を響かせて、見上げんばかりの巨人が姿を現す。
全部で五体。
一つ目の巨人サイクロプスだ。
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