第45話 新宿ダンジョン攻略会議②

「わしが六角稲妻ろっかくいなづまじゃ!」


 その爺さんは、自己紹介のタイミングになった途端、建物全体を吹き飛ばすのではないかと思うほどの大音声で、自分の名前を名乗った。


 ここは、神奈川にある、御刀重工の本社ビルの会議室。そこで、俺達は、私設戦闘部隊ハーキュレスの隊長と会うことになった。


 そしたら、ものすごく、濃い爺さんだった。


 身長は190センチ近くあるだろうか。半袖の迷彩服からは、ムキムキのマッスルな腕が飛び出しており、全身これ筋肉の塊。それでいて、容姿は画家のダリそっくりで、ピンと跳ねた髭が特徴的という、なんとも、一度見たら忘れられないインパクトを残す爺さんだ。


「ハーキュレスの隊長をしておる! これからよろしく頼むぞ!」

「あ、え、あの、はい」


 すっかりチハヤさんは気圧されている。


「それで、えっと、お話ししたいことがありまして――」

「アナスタシア嬢から聞いておる! 新宿ダンジョン攻略のための作戦を練ろうというのじゃな!」

「は、はい、では、さっそく……」


 チハヤさんはテーブルの上に、新宿区の地図を広げた。


 ちなみに、この場に集まっているのは、チハヤさんや稲妻爺さん以外に、ナーシャ、シュリさん、レミさん、俺、といった感じで、これまでに出会ったメンバーは勢揃いといった状況だ。


 その中で、主にチハヤさんと稲妻爺さんで話を進めていく。


「結論から言おう! ツインタワーとわしは呼んでおるが、この二つの塔を背後から奇襲する!」

「え。で、ですが、敵だってそれを想定しているんじゃないですか?」

「陽動だ!」

「ど、どういうことですか?」

「部隊を二つに分ける! 四ツ谷より国道20号を西進し、まっすぐにツインタワーを目指す正面突破部隊! 敵がその正面突破部隊に気を取られている隙に、背後より奇襲を仕掛ける奇襲部隊! どうじゃ!」

「通常の人間相手であれば、その戦術は有効かもしれませんけど、相手はダンジョンを自在に生み出し、作り変えることの出来る、ゲンノウです。失敗する可能性のほうが高いです」

「そうか! うむ! では、別の戦術を考えよう!」


 稲妻爺さんは気持ちがいいほどに、聞き分けがいい。そして、けっこう頭の回転が早い。次々と新しい戦術を打ち出してくる。それに対して、チハヤさんがダメ出しをする。そのやり取りを、十五回ほど繰り返したところで、俺は手を上げた。


 ぼんやりとだけど、妙案が浮かんできたのだ。


「ゲンノウは、たぶん、俺の配信を見ていると思うんです」

「ほう! なぜだ!」

「俺があいつと同じ『ダンジョンクリエイト』持ちだからです。ダンジョンにどんな仕掛けを施しても、俺が上手く立ち回れば、無効に出来る。そのことを知っているから、特に俺の動向には注視しているはずなんです」

「なるほど! つまり、このダンジョン攻略においては、ダンジョン配信はしない、ということだな!」

「逆です。するんです。ダンジョン配信を」


 みんな、一斉に、俺の顔を見つめてきた。正気か? と言わんばかりの表情である。こういう反応が返ってくることは予測していた。


「俺の動向を、逐次、ダンジョン配信によって相手に知らせるんです。俺本人が映っていれば、確実に、俺が現在どこにいるかがわかる。あえてこちらの手の内を開示することで、相手の選択肢を狭めるんです」

「なるほど!」


 稲妻爺さんは頷いた。この短い間に、俺の提案の趣旨を理解してくれたようだ。


「では、こうしよう! 木南カンナ、お前はわしと共に来い! 四ツ谷からハーキュレス部隊で進撃していくぞ!」

「そうなると、一番最初のプランに戻る感じでしょうか。私達が奇襲部隊になる、ということで……」


 チハヤさんの問いかけに、俺はかぶりを振った。


「たぶん、それだけだと失敗します」

「え?」

「直接対決したから、わかるんです。ゲンノウは、すごく頭が切れる。俺達の作戦なんて、全部読み切っていると思う。常識的な戦術だと通用しない。ここは、もっと奇想天外な作戦でいかないと」


 そして、俺は、自分の考えを全部話し始めた。


 最初はみんな半信半疑の様子で聞いていたけど、作戦の全体像が見えてくるに従って、次第に目を輝かせ始める。


「そんな手が……!」


 ナーシャが感嘆の声を漏らすのと同時に、シュリさんが俺の背中をバンッと叩いてきた。


「すげーな! 天才か!」


 レミさんも、何度も地図を確認しては、俺が提案した作戦に穴がないかをチェックしていたが、やがて笑顔でこちらを見てきた。


「いけると思うよ! すごいね、カンナ君!」


 突然、稲妻爺さんが「ぐわっはっはっはっ!」と大笑いし始めた。


「小僧! やるな! お前にはセンスがある! どうじゃ! この戦いが終わったら、ハーキュレス部隊に入らぬか⁉」

「え、いや、遠慮します……」


 軍人にだけはなりたくない。


「何を言っているんですか」


 すかさず、チハヤさんが文句を言ってきた。


「カンナさんは、高校を卒業したら、うちのダンジョン探索局に入ってもらいます。そのほうが、彼の特性を生かせるというものです」

「あの、それは……考えさせてください」


 ダンジョン探索局に入るということは、公務員になることだ。給料は安定してもらえるかもしれないけど、色々と活動に縛りも出てくるだろう。そこが悩ましい。


 ともあれ、新宿ダンジョン攻略の計画は出来上がった。


 あとは、一刻も早く、出撃するのみだった。

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