第39話 青木ヶ原樹海ダンジョン⑩

 俺とTAKUさんは、お互いに息を合わせて、連係攻撃を仕掛けた。


 ゲンノウがダンジョンの構造を変えて、攻撃や防御を行うたびに、俺もまた「ダンジョンクリエイト」を発動させて、TAKUさんが突撃するのに必要な進路を切り開く。


 攻撃間合いに入ったTAKUさんは、ここが攻め時とばかりに、刀を振り上げて、一気に斬りかかろうとした。


「甘いな」


 パチン、とゲンノウは指を鳴らした。


 たちまち、TAKUさんの足元が変化し、ただの地面だったのが池へと変化した。当然、TAKUさんはその池の中へとバシャーン! と落ちてしまう。


「……!」


 TAKUさんは、何を考えたのか、俺のほうへ向かって日本刀を投げた。放物線を描いて宙を飛んできた日本刀は、ちょうど俺の目の前の地面にドスッと突き刺さった。


 そして、TAKUさんは、微笑みながらこう言った。


「あとは頼んだよ」


 直後、ゲンノウが再び、パチン、と指を鳴らした。


 TAKUさんが浸かっている池は、一瞬にして、真っ赤に燃える、超高熱のマグマの池と化した。


 ひとたまりもない。TAKUさんの全身は炎に包まれた。断末魔の絶叫が響き渡る。おとなしく静かに死ぬことが許されないほどの、苦痛なのだろう。TAKUさんはマグマの池の中でもがき苦しみ、やがて力を失い、ズブズブと沈んでいった。


 あっという間の出来事だった。


「あ……あ……」


 俺は呆然と突っ立つことしか出来ない。


 信じられない。こんなにあっさり、TAKUさんが死んでしまうなんて。


「カンナ! 集中して!」


 ナーシャが怒声を発し、ガトリングガンを乱射する。その攻撃を、全てゲンノウは防いでいるが、構わず火力で押し切ろうとしている。


 俺は、震える手を懸命に動かして、足元の日本刀を手に取った。


――君の戦い方には華がない

――君ももっと、わかりやすい武器が必要だ


 かつて、病院で会った時、TAKUさんがそんなアドバイスをくれたのを思い出す。そのTAKUさんから、形見として残された日本刀。


「よくも……! TAKUさんを……!」


 俺は日本刀を抜き取ると、慣れてなくて不格好ではあるが、学校の剣道の授業で習った構え方を思い出しつつ、構えてみた。


「うおおおお!」


 決死の覚悟で突撃を仕掛ける。


 が、突然、頭に衝撃が走り、俺は横っ飛びに吹き飛ばされた。


 地面に転がった後も、頭部を殴られた痛みは抜けず、起き上がれずにいる。


 よくわからないが、どうやら、ゲンノウの攻撃を喰らってしまったらしい。そして、この身動き取れない状況は、非常にまずい。


 ゲンノウが、指を鳴らそうとしている。


 やばい、来る――!


 俺もまた、マグマに叩き落とされるのを覚悟し、ギュッと目を閉じた。もうダメだ、と思った。


「ふはははは! 我輩が参上だ!」


 突如、天から降ってくる、悪魔じみたデスボイス。


 バサアアッ! と黒いマントを広げながら、その男、カルマごうは上空から落下してきて、俺のそばに着地した。


「おやおや、新手か。ご苦労様」


 そう言いつつ、ゲンノウは、パチンと指を鳴らした。


 俺やカルマ業の足元は池と化し、俺達は揃って水の中に落ちてしまった。


(え? 水?)


 この時、俺は追い詰められながらも、冷静に疑問を抱いた。素直に一発目からマグマへと変化させればいいのに、なぜ、わざわざワンクッション挟んで、水の池にしたのだろうか。


 カルマ業に水の中から引き上げてもらい、なんとか助かった後も、俺は頭の中で、その答えを探し続けた。けれども、納得のいく解は出なかった。


「少年よ! 少年の視聴者から、命を狙われていると聞いたぞ! 奴がそうなのか⁉」

「え、ええ、そうです」

「もう安心だ! 我輩が奴を倒してみせようぞ!」

「気をつけて。あいつは、ダンジョンを構造から変化させるスキル『ダンジョンクリエイト』の持ち主です」

「そうか! だが、我輩のスキルは、一筋縄ではいかんぞ!」


 聞いたことがある。カルマ業のスキルは、かなり特殊だと。日本全国の第六天神社を全て行脚して回ることによって、ようやく第六天魔王より手に入れることが出来たという、スキル。


 その名も、「魔王サタン」。


「ふはははははははははは!」


 大声で笑いながら、カルマ業は、マントを広げた。そのマントは、本来の大きさから倍化、さらに拡大していき、空を覆わんばかりに広がっていく。


「引きちぎってくれるわァ!」


 広がったマントから、無数の黒い手が伸びてきて、ゲンノウへと襲いかかる。


 が、ゲンノウは余裕の態度を崩さず、パチンと指を鳴らした。


 俺やカルマ業がさっき落とされた池が、マグマへと変化する。何をするのかと思いきや、もう一度ゲンノウはパチンと指を鳴らした。すると、マグマは何やら得体の知れない銀色のドロドロへと変化した。


「迎撃させてもらおう」


 そうゲンノウが宣言するのと同時に、銀色のドロドロが、幾重もの刃と化して、空中へと一瞬で伸びていく。


 カルマ業のマントから伸びている無数の黒い手は、ゲンノウの放った刃によって、次々と切り落とされていく。


(レベルが違う……!)


 こんな大規模な戦い、いまだかつて見たことがない。


 カルマ業はやはり強い。むちゃくちゃ強い。日本のトップランカーなだけある。


 しかし、ゲンノウもまた化け物じみた強さを持っている。


(頼む……! カルマ業さん、勝ってくれ……!)


 非力な俺は、ただ祈ることしか出来なかった。

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