時を刻まなくなった時計




 昔、友人が言ったのだ。

 時計が時を刻まなくなったって。

 へえ不老不死の薬でも手に入れたのか。

 笑いながら言えば、友人は笑顔のまま言葉を紡いだ。

 ぽわぽわと、背景に丸い点描と多種多様な花を背負って。


 恋人と過ごす時間があまりに幸せ過ぎて、自分の時計が時を刻まなくなった。

 ずっと、止まったままだと。


 どんだけ~。

 思わずツッコんだ。

 どんだけ恋に盲目になっちゃってんの。

 おまえも、世界中でただ一人の運命の人と出逢えたら、俺の気持ちがわかるさ。

 上から目線に聞こえて、イラっとしたので、とりあえず幸せボケの友人に食事を全部奢らせたわけだが。


 ああ、友人よ。

 今なら俺が全部奢ってやるよ。


 俺も出逢っちまったよ。

 運命の人に。

 幸せ過ぎて確かに。

 時計の針が止まっちまった。

 誕生しちまったよ。



 時を刻まなくなった時計。











(2023.10.17)



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