籠の中の鳥




 時に、不自由で窮屈だと哀憫の念を向けられる。

 時に、安全な世界で守られていると羨望の念を向けられる。


 籠の中の鳥。


 一緒に自由な空を飛ぼうよ。

 一緒に籠の中で暮らさせてくれよ。


 どちらの言葉にも、否定の言葉を返す。


 確かに狭いけれど飛べない事はないのだ。

 食料も寝床も安全も景色も保障されているのだ。

 けれど、ここに留まる理由はそのどれでもない。

 

 籠に布をかけられて真っ暗になった世界でだけ聞こえる。

 あの人の美しく透き通る歌声。

 ともすれば、呼吸を意識して抑えないと聞き逃しそうなほどに、儚い。


 この歌声に恋してしまった時から、分かってしまったのだ。

 私はずっと。


 籠の中の鳥。


 この小さな客席で、この歌声を独り占めするのだ。











(2023.10.15)



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