芸人が教師になるとどうなるのか
@InoShota
第1話 芸人の終わり
大手芸能事務所、ツルピカプロダクションの副社長である高崎 誠は俺を見るなり溜息をついた。こうして俺が溜息をつかれるのは何回目だろうか。芸能界に憧れて養成所に入ったのが20歳。ペアを決めてコンビを決めろと言われたが、俺は人数の関係でピン芸人となった。あのグループが3人で組んだせいで。(今となってはピンでよかったと思う)そして大した仕事もなくだらだらと過ごしていたある日、俺に人数合わせで番組にでないかという話がきた。せめて人数合わせとか隠して言えよと思ったがお金は欲しいので番組に出演した。俺は人数合わせだからなにもしなくてもいいだろうと思い、ただぼーっと座って終わるのを待っていた。それがオンエアされたとき、SNS上で俺に対して何をしているんだというような批判があった。俺はそれを無視していたが事務所は無視できなかったようだ。
『なあ、由谷。俺がなんで呼んだか分かるか』
『さあ、ボーナスでもくれるのかと思いましたが違うっぽいですね』
『当たり前だ、一発殴られたいのか』
高崎は俺のことを事務所に採用した一人だ。なんとかして売れさせたいのだろう。
『定期的に思うが君はなぜそんな思考になったのかと思うような行動をとるな』
『それ褒めてます?』
『褒められてると思った理由も気になるがまあいい』
高崎はまた溜息をついてから口を開いた。
『なぜせっかくの番組出演で何もしなかったんだ。うちに批判が殺到していて最悪な状態なんだ。一応言い訳を聞いておこう』
『言い訳って・・・。まあ理由は三つあります。一つ俺は人数合わせで呼ばれたから、二つ何をしろとも言われていない、三つ俺からしたらあの番組はとてもつまらなかった。以上のことから俺は何もしなかったんです。なんかいけないことありました?』
俺が言うと高崎はあきれた様子で言った。
『君が今言ったことすべてが間違っている。おまけに考え方も間違っているよ』
『理由を言っただけで人格否定って・・・。いつもどんな風に俺を見てるんですか』
『世の中に不満ばかりぶつけて自分は何もしない逃げてばかりいる人間だと思っている』
実際、その通りだ。税金が増えるだとか国会議員が居眠りしてるだとかのニュースを見てはきちんと仕事をしている多くの一般人と同じように文句を言う。そうすると自分もきちんとした一般人だと錯覚する。それが唯一の現実の駄目な自分から逃げる方法である。勿論そんなことで逃げては駄目だと分かっている。しかし自分ではどうしようもないとあきらめている。だからこうやって逃げているのだ。俺は悪くない。世の中が悪いのだ。
『君がなぜそんな思考になるのか俺なりに勝手に考えてみたんだ。その結果、君には逃げ癖がついてしまっていると分かった。だから由谷、君は来週から学校の教師をしてもらう。もう決まったことだから文句を言っても変わらんからな』
え、今なんて言ったんだ。理解が追い付かない。
『安心しろ。君でも教えられる小学校の教師だからな。』
『なんで教師なんですか。そもそも僕は芸人ですよ。教師をする理由が分かりません』
『理由は明確にあるだろう、君のその逃げ癖やひねくれた性格を矯正するためだよ。子供や周りの教師から普通の人の心というものを学んでくるといい』
『なんで俺が子供から教えられないといけないんですか。そもそも芸人から教師になるって今のこの売れていない現状から逃げるということになるから教師になっても変わりませんよ。ってかなんで逃げ癖があったらダメなんですか。銃を持った男がいても逃げたらダメって言ってるようなもんですよ。』
『君が今何を言ったって変わらない事実だ。諦めて受け入れろ。』
そういって高崎は引き出しから書類を取り出し、俺に渡してきた。
『来週から君が働くことになる小学校だ。君は1年生の担当だから色々と大変だろうが頑張りたまえ。』
そう言って高崎は部屋から出ていった。
俺は突然のことで驚いたがポジティブに考えることにした。相手は小学生だ。ネタの一つや二つ一緒に考えてくれるだろう。あわよくばネタを盗んでやる。そうして俺は教師になることを決心した。
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