第6話
午後いちばんの日本史の授業を夢半ばの中で受けていると、校庭から突然、雨の打つ音が聞こえてきて目を覚ました。
座席が窓際なので空模様を確認すると、ネズミの腹が横たわるように分厚い灰色の雲が空を覆っていて、数時間前の天気が嘘のように陰りを占めた。そうして滴がぽたりぽたりと落ちてきたと思っていたら、間を置かず、上空から川をひっくり返すみたいに降ってきて、隣町の方から稲光も見えた。
教室はにわかに騒々しくなり、皆、思い思いに口走る——ゲリラ豪雨ってやつ? ゲリラってなに? んー、突然みたいな?突然の雨? それ本当かあ? んー、知らんけど。
「はい、静かに静かに。窓際は早く閉めなさーい」
窓を開け放っていてはまともに授業も出来ない程の勢いだった。鉄砲水が断続的にガラスを打つ。陽の光はほとんど隠れてしまい、教室は蛍光灯の明かりを意識できるくらいに薄暗さを伴った。
日本史の授業もそこそこに、おれはなんだか言いようもない、良くない前触れを感じていた。
― ☂ ―
放課後。
月田は今朝、おれに教室で待っているよう頼んできた。なにかのっぴきならない事情があるようにも思えた。けれど、別に月田に言われたから待っているのではなく、いつも通りのルーチーンであるから席に座しているだけで……と誰に弁明しているのか、おれは虚しさを感じ始めてきていた。
月田はホームルームの後、そそくさと教室を出ていったかと思えば、三十分以上姿を見せていない。まさか今朝のことを忘れているでもなく、彼女に限って新手の嫌がらせをするとも思えない。そもそも荷物はまだ教室に置いてあるようだったので、おれは途方に暮れていた。
やることと言えば、のんきに景色を眺めることだけだ。雨脚は降り出した直後からは少し落ち着いたが、まだ勢いとしては強いままだった。校庭はみるみる水が溜まっていてぬかるみを激しくしている。おれがいる校舎を囲むように植わっているカシの木を見れば、木の葉は風雨に揺らされていた。
おれはふと、樹木が並ぶその先で数名の人影を見た。ビニール傘をさした男子らが、木を仰ぎ見ながら話している。会話はもちろん聞こえてこないが、身振り手振りの動きから盛りあがっている様子だった。
すると、一人の男子が地面に屈みこんだかと思えば、立ち上がって何かを放り投げた! その後すぐに数名も同じことをしている。あんな場所に特別ななにかがあるとは思えないから、多分石ころでも投げつけているのだろう。なにも抵抗する術を持たない存在に集団で石をぶつけている状況は、とても異様に映った。でもいったいなにが目的なのか?
そしておれはまた次の展開に度肝を抜かれた。
校舎の向こう側にいる彼らを観察していた矢先に、おれのすぐ真下を通っていく女子の姿が見えたのだ。ぎょっとして確認すれば、彼女は傘もささずずぶ濡れのまま歩いて行く。肩まで伸びた黒髪、色白の細い腕、孤高の横顔——月田!?
唖然としてしまい、窓を開けて呼び止めることもままならなかった。月田はずんずんと男子たちへ向かっていく。そこまで見届けて、はっと我に返る。
「いったい何してる、月田!」
ただならぬ予感を感じて、おれは教室を飛び出した。
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