素直すぎる俺と、悪意がわかる君

佐倉華月

 男子の学級委員長決めは、思いのほか難航していた。

 高校一年生の四月なんて、まだお互いのことをよく知らない。よほどやりたいと思っていなければ、立候補する人もいないだろう。

 一方の女子は、すぐに決まった。眼鏡をかけて髪を一つに結んだ坂崎という女子生徒だ。彼女はどうやら立候補すると心に決めていたようで、他に立候補者もなくあっさりと決まった。

 おかげで、大人しく席に座って無言を貫く男子たちとは違って、女子たちは余裕だ。

「誰か立候補する人、いませんか」

 教壇に立って時折声をかけるのは、不運にもこの日にちょうど日直だった笠野勇樹だ。女子のほうの日直はというと、我関せずな顔で暇そうに立っている。

 笠野の呼びかけに答える生徒はいなかった。ここで目立ったら負けだとでも思っているかのように、みんな心なしかうつむいている。

「どうしてもいなければ推薦ですか?」

 笠野が、窓際に立って様子をうかがっている担任にたずねた。

 すると担任が答える前に、一人の男子生徒が声を上げた。

「そのまま笠野がやればいーじゃん」

「は? やだよ。なら俺、お前を推薦しようかな」

「ウソウソ! ごめんって!」

 教室内が軽い笑いに包まれて、少し空気が和んだ。

 その機会をうかがっていたかのように、一人の男子が言った。

「世良(せら)君とかどうよ」

 名指しされた世良千明(せらちあき)は、クラスでも唯一県外の中学校から来た生徒だ。まさか自分の名前が出るとは思っていなかったのか、軽く目を見張っている。

「いいかもな、世良くんみんなに優しいし」

「俺、推薦するよ」

「俺も世良に一票」

「世良くんなら誰も文句言わねえよな」

 周りから口々に言われて、千明は困ったように笑っている。全員一致の雰囲気になり、このまま彼に決まってしまいそうな流れを折るように、一人が口を開いた。

「無理だろ」

 一番後ろの席でずっと黙っていた、成瀬誠(なるせまこと)だ。

「こいつにそんなのやらせたら、クラスがやりたい放題になる。もっとはっきり言えるやつじゃないと無理だ」

 再び、教室内がしんと静まり返る。

 むっとしたのは、最初に世良を推した男子だ。

「ならお前やれよ」

「別にいいけど。そうしたら俺がやりたい放題やるだけだから。俺、誰の意見も聞く気ないし」

 誠が学級委員長をやるという案に、賛成する人は誰もいなかった。

 結局、男子の学級委員長決めは振り出しに戻ってしまい、世良を推していた男子生徒たちは不満そうな目を誠に向けていた。

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