復讐の吹雪

 勇とエリカはアイスドラゴンと戦闘した

広場を後にし、更に奥を目指し洞窟を進んだ

しばらく進むと洞窟の先に明かりが見えた

勇は明かりを指差し


 『ね、あれって出口かな?』


2人は少し小走りで洞窟を出た

洞窟を出た先は山に囲まれた大きな広場だった

その広場の真ん中には氷柱がたっており

その氷柱を中心として周りに円を描くかのように

氷塊が墓標のように無数にたっていた

そして魔力が上空に向かって渦巻いており

上空で魔力が吹雪を発動していた

2人は目の前の光景に呆然としていた

その時だった


 『帰れと言ったはず・・・』


勇はビクッとなり

エリカは本能で攻撃体勢に入った

勇は声の主の姿を見て


 『エリカ、ちょっと待って!!』


エリカを静止し更に


 『ねっ、話できるんだよね

 教えてくれるかな

 これは・・・ここは一体何なの?』


声の主は村の入り口で勇とエリカを

襲った雪男とも、スノーオーガとも

村の人々から呼ばれている両腕と拳が大きく

全身が毛で覆われて2本の小さなツノをもった

体の大きな魔物だった

その魔物は勇の目をじっと見つめ

勇もまた魔物をじっと見つめる

そして魔物は口を開いた


 『使命を持ちし娘・・・

 我々はヨートゥンと言う一族

 村の入り口では失礼した

 関係のない其方達には帰ってもらいたかった

 私の命が尽きる前に

 其方にこの復讐の悲しい末路を

 聞いてもらおうか・・・

 ここは我々の村だ

 山に囲まれ、人族とは交わらぬ

 そういう場所だった

 しかし半年前だったか

 村の若者が人族に襲われた

 その若者は数名で洞窟の奥へ

 湧水を汲みに行っていた

 その時、急に壁に穴があき

 人族が数名現れたのだ

 若者達を見た人族は驚き

 逃げ出そうとした人族の者が

 足を滑らし転んだらしい

 若者は敵意はないという意味を込め

 手を差し伸べようとしたのだが

 それを脅威をみなした

 剣をたずさえた人族の者が

 若者を切りつけた

 一緒にいた数名の若者が

 切られた者を救おうとし

 武装した人族の者達と戦闘になり

 なんとか怪我人を連れて逃げてきた

 我々は人族がここまで洞窟を掘ってくるとは

 思っても見なかったのだ

 事が起き村では話合いが行われた

 人族と交流に臨むか

 それともここを後にし

 新たに村を探すか・・・

 長い間話合いが続いた

 その間人族の掘り進めてきた洞窟は

 石で埋めておいた

 新たに住む場所などすぐ見つかる訳もなく

 我々は戦闘を好まない為

 人族との縄張り争いをするという

 選択肢はなかった

 私は代表となり人族との交流すべく

 数名を連れて人族の洞窟へと向かったのだが

 我々を見た人族は話など聞く事もなく

 逃げてしまった

 私は仕方なく村へ戻り

 こちらから人への干渉はしないと決めた

 しかし・・・しばらくして

 洞窟に多数の武装した人族が現れた

 そして我々を見つけると

 問答無用に蹂躙し始めた

 老人も子供も関係なく

 無残にも切り捨てさらには

 死者を愚弄するかのように

 毛を剥ぎ、ツノを折った

 残虐非道、この言葉の通りだった

 我々には戦闘の意思などなかったのだ

 しかし人語を話せる者は数名しかおらず

 更に聞く耳を持たない人族に

 それを伝える術はなかった

 武装した人族が笑いながら立ち去った後には

 村の半数近い者達が惨殺されていた

 残された者達は悲しみに暮れ

 その後には復讐心が芽生えていた

 私にはそれを止める事などできなかった

 親、妻、子供を目の前で殺され 

 更に皮を・・・ツノを・・・

 全員が覚悟を決め復讐のために

 人族の村へと襲撃を決めた時だった

 全身黒い服を着た女が現れた

 女は人族ではなかった・・・

 のかもしれない

 その女が村の広場の真ん中に

 氷柱を建てた

 そして我々に復讐の力を与えようと言い

 氷柱の周り数メートルの円の中で

 氷柱を拝むように指示して来た

 我々は何か頼るべき力が欲しかったのだろう

 誰も疑わずして拝み続けた

 しかし1日もすれば拝んでいた数名は

 凍りの塊となっていた

 私は驚きまだ息のある者達の祈りを

 止めようとしたのだが

 また女が現れ

 我々の復讐が開始されたと告げた 

 人族の村は吹雪に埋め尽くされ始めていると

 更に祈りを捧げれば

 村は人ごと完全に凍りつくだろう

 そう言って我々を復讐心を煽ってきた

 女は我々に言った

 この氷柱は祈りを捧げる物の

 命を糧に魔法を発動する

 氷塊になった者の命を少しずつ削り

 魔力に変換しその命つきるまで

 魔法を発動し続ける

 この人数だろ30年は発動し続けるだろうと

 女の話を聞いて私はやめさせようと思った

 しかし愛す者をたくさん殺された我々は

 今更自分の命などどうでもよくなっていた

 更に祈りを続けた今

 生きているのは私を含め数名だろう

 意識を保っているのは

 もう私くらいだろう

 そして私もまた彼らと同じ氷の塊となり

 復讐は果たされ

 悲しみのもと一族は滅ぶ

 はたしてこれでよかったのだろうか

 ・・・・

 人族の娘よ

 君のような娘が他にもいてくれたら・・・

 話を聞いてくれてありがとう 

 そしてもうここから立ち去ってくれ』


話をし終えた雪男はそのまま目を閉じ

氷柱を拝み始めた

もう勇の声に耳を傾けてはくれなかった


続く

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