作戦開始

 勇達を乗せた船が出航する数日前


航路の確認の為に港を一望できる

丘の上に向かう道中

商家イルワー邸の前で勇が立ち止まった時の事


 『あの娘、こちらを見ていますよ』


小太りの紳士が豪邸の2階の一室で

カーテン隙間から勇を見ていた

そして同室で豪勢な食事をしている

男に勇がこちらを見ている事を伝えた


 『どうしますか?フォカロル様』


フォカロルと呼ばれた男はスラッと背が高く

細身でスーツ姿の若い男性のように見えた

その男は大量の食事を1人で豪快に食べていた

フォカロルは紳士の問いかけに


 『勇者・・・らしいよ

 なにしにこの街に来たのかな〜

 僕の邪魔だけはしないでほしいんだけどなぁ〜

 イルワーあんたの事捕まえに来たんじゃないの?ククク』


小太りの紳士はイルワー

すなわちこの豪邸の主人(あるじ)だった

イルワーは勇達が街に来た事を

自身の情報網で耳にしていた

勇が王国の使いで街に来た事も聞いていた

そして勇と呼ばれる少女がアディオと共に

長く部屋に閉じこもって

なにやら話をしている事も

組合に忍ばせている従者から聞いていた

その少女が今度は自身の家の前で

こちらを見ている

それが気になってしょうがなかった


 『勇者!?ですと??

 あの娘が勇者なんですか?

 あんな小娘が勇者だなんて・・・信じられん

 しかし、私を疑っているのか・・・

 いやいや、だとしたら私よりあなたの

 フォカロル様の身が危ないのでは?』


食事中の男、フォカロルは

食べるのをとめてフォークを片手に

少し考える

 

 『僕には気がついてないと思うなぁ

 分かってたら突っ込んで来るでしょ、たぶん

 街に来た時にあの子を遠くから見てたけど

 視線は感じてた・・・と思う

 僕の事までは把握してなかったみたいだし

 もし僕の存在まで分かってたら

 今乗り込んで来てるだろう?

 まぁ来たとて返り討ちだけどね、フフフ』


そう言ってまた食事を続けるフォカロル

イルワーはフォカロルがどうなろうと

どっちでもいいが

もしもフォカロルの身に何かあれば

自分も危ないのでは?と焦っていた

なんとかして自分の身だけは守る方法を

爪を噛んで考えこんでいた

その様子を見てフォカロルは鼻で笑いながら


 『安心しなよイルワー

 僕が負ける訳ないからね』


そう言ってまた食事を続けるフォカロル

イルワーが外を見た時には

もう勇の姿はなかった

小心者のイルワーはそこでホッとして

いつもの如くフォカロルの機嫌取りに一生懸命になっていた


 それから2日後イルワー邸


 『フォカロル様、フォカロル様

 勇者達の目的がわかりましたよ!

 どうやら聖剣を帝国と戦争中の

 前線に送るみたいですよ

 ミスリルも同時に運ぶとの噂です!!

 聖剣を積むところを確認してきました

 本物を見た事がないので 

 分かりませんが、おそらく本物の気がします

 勇者ですし、たぶん本物でしょう!!

 聖剣なんぞどっちでもいいですが

 ミスリルはいい金になりますよ〜〜

 おいしい物食べ放題ですよフォカロル様!

 今回の標的はこの船にしましょうよ!!!』


テンション高めのイルワーに対し

フォカロルは相変わらず食事をしながら


 『イルワー・・・

 どう考えても罠だろう・・・・

 ちょっと考えたらわかるだろ?

 船が魔物に襲われる件を調べに来てるんだから

 お宝積んで襲われるの待つって作戦なんじゃない?

 たぶん勇者の子、どっかに隠れて待機してると思うよ〜』


そう言われたイルワーは小躍りして喜んでいたのだが

ピタッと止まってじっくり考えて急に怒りだした

そんなイルワーを横目にフォカロルは考える


 『聖剣ね〜

 本物か偽物が分からないけど

 もしかしたらって事もあるし

 本来ならそんな子供じみた作戦に

 いちいち乗ってあげないんだけど

 聖剣がもし本物だったら

 手に入れたいしなぁ〜

 う〜ん・・・仕方ないなぁ

 子供のお遊びに付き合ってあげるか〜

 どうせ僕たちは痛くも痒くもないしね

 途中まではあの子達の作戦で

 一緒に遊んであげるけど

 聖剣は僕がもらっちゃおうっと、フフフ

 イルワーこの船にしよう

 今回はちょっといつもと違うよ

 僕に妙案がある』


そして、しばらくして勇とエリカを乗せた船は出航し

大海原に出た直後に海の魔物にサハギンに襲われた

エリカの作戦、第一段階は成功となった

しかし同時にフォカロルの作戦が開始された事にもなった


続く

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