私勇者です!がんばります!!

勇が顔を上げて女性を目を合わせる

彼女の目は潤んでいた


 いろいろ大変なんだろうな〜


と勇の彼女に対する第一印象は

苦労人

だった


『勇者様申し遅れました

 私、マリエル=ガーベラルシア

 と申します

 この国、聖(セント)ガーベラルシア王国の

 国王代理兼神官長をしております

 皆には姫と呼ばれております』


苦労人、もとい姫と名乗る女性は

勇にぺこりと頭を下げて自己紹介をしてくれた


 『わたし、下御陵 勇 って言います

 勇者らしいです』


勇も姫様名乗り笑顔で会釈をする


 『勇者・・・らしい、と言うのは?』


姫様のもっともらしい疑問


 『私も今日が初めてなので

 ちょっと勇者とかよくわかんないですよね、エヘヘ

 ただ女神っていう神様がこの世界に必要なのは

 私だって言うんで来ちゃいました』


勇が姫様にだいたいの事の成り行きを説明する


 『やはり女神様の思し召しなのですね

 勇者、勇様!

 突然なのですがどうか我が国をお救いください

 現在我が国は魔族の手により

 未曾有(みぞう)の危機に陥っております

 少し前、ヘルファングの群れが急に現れ

 王国の城壁周辺を荒らしまわりました

 国王を先陣とした王国防衛騎士団の手により

 ヘルファングの群れは討伐されたのですが

 国王が群れのボスと思われる個体との

 先頭によりボスを撃破するも

 深傷(ふかで)を負い

 現在意識を失っております

 そこに畳み掛けるように数時間前

 この国では見た事もない巨大な鬼が

 どこからともなく現れました

 その鬼をオーガと呼び騎士団と冒険者組合が

 討伐に向かったのですが

 あまりにも大きく強い上に棍棒の武器を持つ鬼に歯が立たず

 城壁を破られ王国領内への侵入を許してしまいました

 ヘルファングにしてもオーガにしても

 私達の予想を大きく超えて強く

 騎士団と魔術師組合が国境付近への

 対応に追われている所を狙われた形になります

 これは王族が慢心してしまった事による失態です

 すでに国内の民衆にも被害が出ており

 為(な)す術(すべ)なくなった我々は勇者召喚の儀を行いました

 そしてあなた、勇様が現れたのでございます

 女神の眷属である勇者 勇様、お願いいたします

 オーガの討伐をお願いしたく

 そして我が国をお救いくださいませ』


 と姫様が勇へ現状の説明と救いを求めてきた


 『えるふぁんぐ?鬼?

 きしだん??

 ぼうけんしゃ組合?

 まじゅちゅし??

 ・・・・ふむ

 うん、はぃ

 あのあれですね!鬼退治ですよね!

 私、桃太郎だ!!』

 

と勇が答える


 『もも、たろう?』


姫様が困惑してるなか

勇もまた困惑していた


 鬼退治?

 私にそんな事ができるとは思えない

 でも姫様は真剣だったよね

 私に救いを求めてきた

 なんだか分からないけど

 なんとかなりそうな気がするんだよ

 こんな映画みたいな状況で

 神様なんて人が私にこの世界を救えって・・・

 一度失った命なんだ

 今度は誰かを守る為に使おう

 ここにいる人達は私が最後の希望なんだと思う

 結果がっかりさせてしまう事になるかもしれないけど

 それでもやれる事、出来る事を頑張ってみよう

 勇気ある一歩を踏み出せって言ってたし

 私なら出来るって言ってくれた女神様の言葉を信じ

 怖いけど、世界は救えないかもしれないけど

 誰か1人くらいは救えるかもしれない

 それが私の中の勇者

 でいいと思う

 

勇は震える足を両手で叩き

恐怖を超えて一歩踏み出す覚悟と決めた


 『わかました!出来るか分からないけど行きます

 私、勇者です!がんばります!!』


勇の意を決した言葉を聞いた姫様も

勇に全てを託す覚悟を決め

顔つきが変わり

優しい言葉使いから

意思が乗った力強い言葉に変わる


 『レイ!!レイ=ロニトリルはいますか!!』


姫様の呼びかけに遠巻きに勇達を見ていた

人混みの中から1人の紳士がサッと現れ

姫様の前に片膝をつき、頭を下げ

 

 『はっ姫様ここに』


間髪入れずに姫様が指示を出す


 『レイ、勇者様を急ぎ騎士団長の元へ!!』


レイと呼ばれる人は深く頷いた後

勇に一緒に来るように言った


 『勇者様、こちらへ』


レイが駆け出し、その後に勇も続く

長い階段を走り降り

先の廊下を走り、門を開けた先に

馬車が待たされていた

馬を見た勇は

 

 わっお馬さんだ

 一度乗ってみたかった

 ワハハーかっこよ

 私かっこよく登場しちゃうやつだ

 

ワクワクが止まらない勇

レイが馬に飛び乗り勇を呼ぶ


 『勇者様はこちらに!』


差し出された場所は馬が引いてる荷台だった

目が点になる勇


 『エ、ワタシココデスカ?』


少し半泣きの勇

レイが事を急かす


 『今これしかなく大変申し訳ありませんが

 しばしこちらにて我慢なされてください!!』


一刻の猶予もなく

いつ壊滅してもおかしくない現状

はやく、少しでも早く

レイの責務を全うしようとする

強い意思が言葉に現れているのだが

勇はとてもがっかりした様子で


 これドナドナだ

 ドナドナだよ

 私売られていくやつだよ


 『ハイ、ノリマチタヨ・・・・グスン』


馬車が出発する

勇は後ろ向きになり

離れていく城を見ながら

ドナドナを口ずさんでいた


続く

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