私達は痛がりたい。

城田

プロローグ


「っ、あっ、ぐぅっっはっっ」

脳天に衝撃が走る。

視界が暗くなったと思ったら再び衝撃で光が差し込み、また暗くなる。

何度繰り返しただろうか。

顔面だけじゃない。肋も痛い気がする。

痛すぎて正直どこを殴られているのかわからない。

「ごめん。痛いよね。でも、私の手だって痛いんだ」

この女は私を一発一発的確に殴ってくる。その度にごめんと謝られるし、ちゃんと心配そうにこちらを覗く。

「大丈…っ」

折角開かねぇ目を合わせようとしてたのに。

口が開き切る前にぱしん。と右頬を強めに平手打ちされる。

「んー…。今のは、いー音…さすが」

軽く口角を上げると切れた唇が更にじくっと痛む。

じんじんと頬が痺れて、だんだん血が通う。

痛い。鼻血だって出てる。

実際のところ私はこれが嫌いじゃないし、寧ろ幸せなのだ。

「ねぇ、刹那さん。好きだよ」

そう言って正門さんは私の頭を撫でて幸せそうに笑った。



―――月曜日の昼下がり。

どこの世界線も憂鬱なこの時間は学校の生徒も教師もみんな疲れたような、魂の抜けたような表情をしている。

みんなして同じ表情なのはまさに奇跡と言うべきであろう。そして雨まで降りそう。うーん、これは偶然だ。たまたま。

活気があるのはせいぜい放課後の運動部か1部のカースト上位の陽キャくらいだ。


高校に入学して早1年。

これといって日常に変化なし。

頭が特別良い訳でも無いし、役に立つ特技がある訳でもない。

毎日同じ風景を見ていたからだろうか?

代わり映えのない景色にも慣れた。

友達は出来たが仲が深いかと聞かれればそうでもないなと答えが出てくる。

この時間はほぼ毎週と言っていいほどつまらない数学の授業をつまらない顔で受けることしか出来ないし、つまらないので頭にも入って来ないし、当てられたところで「わかりません」のテンプレしか言えないのでつまらない。

頬杖をついて、黒板を眺めて、わかりもしない公式をノートに書き写すだけ。実につまらない。

こんなドセンの席じゃ窓から外見ることも出来ないし、左右を見れば優等生が真面目に先生の話を聞いている。

私も前を向いてみるけど、わからない公式がズラズラとあるだけで、教科書通りに説明する教師もつまらないなと思う。

だったら授業なんて受けなくても教科書だけで事足りるんじゃないか?

そもそも馬鹿だから一緒か。

そんなことを考えていると教師が私のやる気のない視線気づいたのか、こちらに向かってきては「柏樹、わからないなら考えようとするぐらいしろ。先生放課後教えてやれるから、何も用事ないなら教えてやる」なんて真面目に心配してくる。

「あっ、す。今日、バイトっすから」

「バイトばかりしてるから成績落ちるんじゃないのか?とにかく、いつでも相談待ってるからな」

教師の大きい背中を1つ返事で見送る。

今の会話なんて無に帰るように、終業のベルが鳴った。


「おい、柏樹。すまんがこれ頼むぞ」

教師がまた私を呼んだかと思えば数学の公式が書き殴られた黒板を指さしながら出ていこうとする。

「え、なんですか。先生、自分で……あー、私、日直…」

「そう、すまんがよろしく頼む。部活あるんでな」

へーい。とやりたくもないが返事をしておく。もう教師の姿は無い。

つーか、部活あんじゃん。

勉強教えてくれるって言うのは何だったんだ。

はぁ、と溜息を漏らしては自分の机の脚を軽く蹴って、黒板の方へ向かう。

理解ができなかった黒板に並ぶ数式をクリーナーで軽々しく撫でて消す。

少々面倒な作業なのに、私にとって不要なものが消える様は気持ちがいい。

わからないものは空っぽに消し去りたいものだ。

それにしても、教師身長高すぎだろ。届かん。

とりあえず軽くジャンプしてサッと撫でて消すが、薄らと文字が残ってうざい。

何度もサッとジャンプして消そうとするが、上手くいかん。なんやこれ。うざ。

「限界」そう呟いて、自分の席に戻ろうと反射的に振り返った時だった。

「わっ、と、正門さん?」

ファッション誌で見るモデルかと思った。

よっ、と右掌を見せてきた彼女は正門千星。

とにかく顔が良く、運動神経もそこそこで、頭も良いらしい。

挨拶くらいしかした事ないけど、皆に優しくて、皆に好かれている。

そんな彼女が声をかけてくるなんて珍しい。

友達でもなんでもないただのクラスメイトなだけだ。

「日直、私もなんだわー。ごめんね、クソしてて」

そういえば朝のホームルームで担任がそんなことを言っていた気がする。

それよりも。

「クソ?トイレ?」

「うん、そう。トイレ」

聞き間違いかと思った。

正門さんは元祖清楚系と思っていたけど、クソなんて言うんだな。意外と雑…なのか?

「クソとか汚い言葉使うなんて思ってなかった」

「刹那の中には理想の私が居るの?」

「さりげなく下の名前呼び捨てかい」

「質問に答えてよ〜」

正門さんが左右へゆらゆら揺れる。

正直呼び捨てされるとは思って居なかった。

「うーん。清楚系?みたいな。そんな感じだと思ってた」

「刹那の前では清楚系で居ようか?」

「いや、そこまでしなくても…」

理想の正門さんじゃない。私から見えた正門さんだよ。

というより、正門さんにここまで絡まれたのは初めてだから若干緊張する。

私はぶっちゃけ美人には弱い。

「刹那ってどんな私でも受け入れてくれそうだね」

そんな事ない。でも、そうかもしれない。

「私、あんまり人に興味無いよ」

と言いつつも正門さんと目を合わせることが出来なくなってくる。

こんなふうに私は人に流されやすいのだ。

「ふふっ、そういう所だよ 」

全てを見通したように正門さんは笑った。

美人って狡いなぁ。なんて思った。






あれから一ヶ月くらい経っただろうか。

なんだかんだすっかり正門さんと連むようになっていた。

あの後から正門さんが毎日私に話しかけてくる。

「刹那、帰るかー」

特に最近は放課後になると正門さんの方から一緒に帰ろうと誘ってくるようになってきた。

断る理由が特にないので、何も言わずに正門さんについていって、行動する。これが最近の当たり前。

流れるように一緒に居る。

「よし、帰ろ」

本当に、さらっと、トントンと何気ない仕草でさりげなく背中を叩かれる。

それが少しだけ、ほんの少し、気持ちがいいと感じてしまっている自分が居る。

最近こんなことばっかりだ。

先週も少しだけ頭を撫でられたりした。

人からこんなふうに甘やかされたりするのが初めてで、 思い出して思わずふわっと口元が緩んでしまう。

「なんその顔。これ好きなの?」

正門さんは私を見てニヤニヤしてる。

とても、ニヤニヤしてる。

「刹那のお望み通りにしてあげるね〜」

トントンとまた同じリズムで優しく背中を叩かれる。

「まぁ、悪くないね」

私って実は少しぶっきらぼうかもしれない。

こんな感じで気持ちが表に出ること自体が珍しくて気づかなかった。

「刹那はあんまり素直じゃないのかな?」

「正門さんが素直すぎる」

「えー、そんなことないと思うけどな〜」

実際の所、正門さんは本当に素直だ。

思ったことをすぐ口に出すし、感受性豊かだし。

サバサバというよりはハッキリしている。

下手したら人が傷つく事も言いかねない。

それなのに彼女の周りに人が集まるのは、彼女に魅力があるのだろう。

人気がある事自体は一際目立っているからわかっていた事だけど、改めて最近になって始再認識させられた所だ。

数日前友達と喧嘩をしたと言っていたが、直ぐに仲直りしたらしい。

一方的に好かれてるだけじゃなくて、友達が沢山居る事にも気づいた。

「ちせー!ばぁーい!」

「ばーい」

ほら、こんなふうにね。

人気すぎて私とは住む世界が全然違う。

「ごめんね、刹那。友達でさ」

「あー、わかってるから。大丈夫だよ」

「刹那は優しいね。行こっか」

私の手を掴んで先を行く正門さんの方が優しくて、やっぱり住む世界が違う。

だけど、その世界に私が少しだけ入ってしまったから、頭がちょっとおかしくなってきたんだと思う。

いつもの帰り道。夕暮れ時の何も変わらない景色。変わることと言えば天気くらいか。今日は曇りで、夕焼けが直接見えないけど、雲の中に反射して街を紅く染めている。

「正門さんは、友達、多いよね」

「いやまぁー、そうねー。そらここエスカレーター式だしね?」

「正門さんもそうなんだ?」

「小学校からね。大学までここ使う予定かな」

「だから頭良いんだね」

「自然と身につくんだよ。勉強以外は全然」

あははとおちゃらけて笑っている。

勉強以外も出来てるじゃん。体育とかも。嫌味。あっ、でも、体育も勉強の1つだからかも。

「ずっとここなのに、寮には入らないの?」

「んー、まあ、家と寮の距離がそんなに変わらんし」

「何?」

「一人暮らしだからね」

「あー、そう」

話を聞く度にもうエリートの塊って感じがして、どんどん余計に正門さんが遠くなるような気がする。

手を繋いだり、一緒に帰ったり、こんなにも距離は近いのに。

一人暮らしか。良いな。自由なんだろうな。

彼氏とかも連れ込むのだろうか?そもそも彼氏居るのか、居ないのか。居なくても選び放題だろうな。羨ましい。

大学は羨ましいと思えないけど。

「なんなんまたその顔」

「いやあ」

「なんとーく刹那が考えてることわかってきた気がするよ。一人暮らし羨まし〜とかでしょ?」

図星だ。こんな所まで頭が働くのか。

「まぁ、それはそう」

「やっぱり素直じゃないね。特に言い方が」

トンと背中に手を当てられる。

「ねぇ、ウチくる?」

え?何突然。って言おうとしたのに。

目を細めて真っ直ぐとその視線で私の瞳を貫く。

こんな美人が私なんかを家に呼ぶなど、騙されている気がする。

だって、明らかに、どう考えても。胡散臭い。そうわかっていても、そんな胡散臭い正門さんの一言にただ頷いてしまった。

「あ、素直だ」

だいたいこの人は何を基準に素直だの素直じゃないだの決めているのだろうか。

「なしてそんなに不機嫌そうなの?来ない?」

美形がこちらを覗いてくる。距離感おかしい。

近いのあんまり得意じゃない筈だが、あまり不快では無い。

私、正門さんの顔が好きなんだろうな。

仕方ない、諦めろ。と脳内の誰かに囁かれた気がした。

「行く」

「やったー!いこいこ」

バンザーイと両腕を上げて喜ぶ正門さんに釣られて私もバンザーイをやらされる。

街のド真ん中で。恥ずかしいが過ぎる。

「さぁ、行こっか」

やっぱりこれは騙されているに違いない。

ただ手を引かれて歩くだけじゃなくて、確実に自分から一歩踏み出していた。








五階建てで高さはそれほどないが、セキュリティはしっかりしてそうなマンションに連れてこられた。

正門さんの部屋は207号室で角部屋。

ドアを開けると生活感と共に迎え入れられる。

フワッと花の香りが私の鼻腔を擽った。ぐるりと見渡すと花が飾ってある。黄色のはなびらが落ちていて、名前はわからない。

それの隣にしっかりキーラックまである。

全体的に白い壁紙で、落ち着いた女性という感じの雰囲気だ。

雑さとか、乱暴さやズボラさを一切感じさせない部屋だ。

「なぁにー?その顔。意外だと思ってたりする?」

正門さんが振り返って顔を覗いてくる。

なんだかいっぱい話したそうな表情だ。

「なにが?」

「この部屋のカンジ?」

「まぁ、少し」

「えー、どう見ても私らしいでしょ。あっ、今度刹那の部屋も見たい」

「半分くらい勝手に連れてきたくせに」

「残りの半分は刹那の意思でしょ?」

正門さんが両手で私の手を握ってくる。

え、何この展開は…。

「家に帰ったらすぐに手を洗って。ちゃんと」

固まった私を無理やり動かすかのようにシンクに連れていかれ、握られた手を片手で持ち替えられて、そこにあった薬用せっけんのボトルを2プッシュほど正門さんが自分の手のひらに出したら、その泡を私の手の甲につけて優しく撫でられる。というか、洗われている。

「正門さん。流石にこれは自分で出来るよ?」

こっちを見向きもせずに、ぎゅうと離さんと言わんばかりに力を込めて握られる。

「洗わせてほし〜」

そうシンクに言い放って泡を全体的に伸ばしていく。

正門さんの5本指が私の指の間を往復してる謎光景。

私の手を裏返して、また5本指で往復。

もう片方の手も反復して洗われる。

こんな唐突な状況。特にどう反応すればいいかわからないし、ずっと黙っていることしか出来なくて、ただそれを眺める。

一通り終わったのか、正門さんが雑に蛇口を捻って小さな滝を作る。そこに突っ込まれ、ばしゃばしゃと手と手擦り付けて泡を落とす。2人分の手垢は渦を巻くように排水溝に飲まれていった。

正門さんが両手にタオルを広げて私の手を包み、優しく拭いてくれる。ここまでされるがままも初めてかもしれない。いや、子供の時くらいはされたと思う。

正門さんは私の手を取ったまま、後ろ歩きで下がっていく。

私と目は合わせて、1歩1歩後ろに下がる。

「Shall we dance?」

「正門さん?ふざけてる?」

部屋の中央のちょうどいい所に立ち止まって、正門さんがいつも座っているであろう二人掛けのソファに座らせられる。

「ねぇ、これいつまで続くの?」

「いーから、ね?」

正門さんはソファの隣にある低い棚から白い丸みのあるケースを取り出して、人差し指で掬い、私の手の甲につけて伸ばされる。

するとバターみたいに馴染んできて、少し気持ちがいい。

「ハンドクリーム?」

指1本1本全てをマッサージするように伸ばされ、掌の方も塗られる。

ずっとされるがままも飽きるので、こちらから攻めてみる。

こんな事わざわざするのも恥ずかしいけど、正門さんと恋人繋ぎをするみたいにしてクリームを返す。

「そこはもう付いてるよ。こっち塗って?」

繋いだ手を解いて、掌を裏返して見せてくる。

折角強気で行こうとしても敵わなくて少しばかり悔しい。

正門さんと私の手を重ねてゆっくり塗る。

さっきしてくれたみたいに。

正門さんの体温がじんわりと伝わってきて、頭から煙が出そうになる。

「やっ、やっぱ、むりかもっ」

正門さんから離れてソファの背もたれに寄りかかった。

「何?」

「なんかこれ以上はヤバそう」

「何が?」

「私が」

「やり返しといて。慣れないことするからだよ」

正門さんは余裕ですって感じで視線で煽ってくる。結構きっつい。

ふぅー、あつー。なんて言って手で顔を扇いでみせる。

今はまだ5月でそんなに暑くない。なんなら適温で過ごしやすい時期でもある。

「刹那ってなんか可愛いね」

ニヤニヤしてる正門さんを見て余計に恥ずかしい。

けど、正門さんの頬がいつもより赤くなってるのは見逃さなかった。

そもそも仕掛けてきたのは正門さんだし、私が照れる必要ないんだ。と言い聞かせる。

「とりあえずまぁ、茶でも飲む?」

正門さんはいまさっき座ったばかりのソファを立ち上がり、台所で用意したお茶とアルファベットチョコレートを持ってきてくれた。

人の家の勝手がわからないから、ありがとうと軽く手を合わせて伝え、視線を正門さんに移すことしか出来ない。

綺麗な色をしたグラスに注がれたお茶をひと口飲む。

お茶を飲んでるだけなのに正門さんはじっと私を見ている。

だが、それもつかの間。

色付きかけた沈黙を遮るようにインターホンが鳴り響いた。

正門さんは動かないままこちらを見てニヤニヤ笑っている。

しっかりこれは居留守というやつだ。

「出ないの?」

うん。と頷いてグラスに手をかけて、両手で抱える。

お茶の入ったそれを大事そうに。

「なんで出ないの?」

「刹那が居るから」

それは理由になってない。

またすぐにインターホンが鳴る。

変なところだけ真面目が出るとはこういう事で、こういうのが我慢出来なくなるのだ。

「出な」

正門さんに顔で行けと指示すると、若干の間を置いて立ち上がり、小走りで来客を確認しに行く。

「宅配だあ」

時間にシビアな宅配便を待たせるとは、正門さんの悪い部分を知ってしまった気分だ。

解錠ボタンを押して受け取ってきたみたいだ。随分早すぎるお戻りだ。

それに宅配便にしてはありえないくらいオシャレな小箱。

ちょっとばかり中身が何か気になって、覗き込む。

「何?気になるの?」

正門さんはほれほれと箱を見せつけてきて意地悪してくる。

「まぁ、気になる」

「じゃあ開けていいよ?」

その小さい箱を私の膝の上にやさしく置いて、正門さんの人差しが擽ったい所をつつく。

「ほら、あけてあけて」

箱はミシン目の開け口で、親切にこちらからという表示が書いてあり、それに従って引くとなんとなく気持ちいい音を立てて、気持ちいいくらいに剥がれた。

中身を探るように開けるとさらに小さい箱が出てくる。

Lupineと書かれていて、高級そうな素材でできてるのが私でもわかった。流石にこれは私は開けられそうにないので正門さんに渡した。

「んー、要らないんだよねー、これ」

複雑そうな表情で綺麗な箱を開ける正門さんは、綺麗な顔をしている。

複雑そうというか、最早嫌そうにしていて、表情に出ているのにも関わらず、綺麗な顔だ。

どうやら中身ハート型のネックレスらしい。

正門さんに似合いそうなシルバーで小柄なチャーム。

しかし、どうして要らないものを注文するのか、届く間に要らなくなったとか。そういう感じでもない。割と本気で嫌そうだ。

「なんで、要らないの?」

「んー…」

ネックレスのチャーム、一点を眺めながら。

「重い、これ」

「ん?重量の話?」

「彼氏かな」

「ん?」

聞き間違いだろうか?もう一度確認してみる。

「彼氏って言った?」

「うん、彼氏」

正門さんはネックレスを箱に戻して、少々乱暴に机に置いた。

「彼氏、居たんだね」

「うん、そう。今これ持ってきたのが彼氏」

「は?」

「直接持ってきた。けど、中に友達いるからって帰ってもらった」

「うわぁ…」

開いた口が塞がらないとはこの事だ。

「彼氏さんが来ることは知ってたの?」

「知ってた」

正気かこの人。

「彼氏さぁ、重いんだよね。これさ、半年記念日だよ?半年だよ?ヤバくない?」

ヤバいのは間違いなく正門さんだ。

私自身彼氏が居たことはないけど、周りの友達とかを見ていると皆そんなもんで、1ヶ月記念日とか、半年記念日とか、よく言っているし。確実におかしいのは正門さんだ。

「本当にこういうの無理で…」

「過去になにかあったとか?」

「そんなんじゃないけどー…単純に重くて」

正門さんが言ってることが理解できないわけじゃないけれど。

「なんで付き合ってるの?」

「正直なところさ、付き合ったら好きになれるかなーって、思ってたの。でも半年経っても好きになれないし、トキメキとかも無いし。少しは愛情ってもんがわかるかなって勝手に思ってたんだけどね」

「正門さんは恋した事ないの?」

「無いよ。でも、最近は可能性を見つけたかな」

「可能性?」

「そうそう」

正門さんはそれ以上深くは話さなかった。





後に私達は普通にお茶を飲みながらくだらない世間話をして解散した。

それから1週間たったけど、正門さんと特別遊んだりはしていなくて、学校で顔を見るくらい。

あぁ、今日も顔綺麗だなぁって見るだけ。

私から放課後遊びに誘ったりはしないし、したくない。なんとなく。

正門さんから誘いがないのは私のせいか、正門さんのせいか。

うーん。後者90パーセント。

あの日は正門さんと彼氏さんは会う予定だった。

正門さんはそれをわかって居ながら私を家に誘い、私の事を彼氏さんを追い返す道具にしたのだ。

彼氏が重いとか言われても困る。そもそも私は正門さんの事をあまり知らないし。知っている事と言えば必要以上にパーソナルスペースが狭い事と、頭が良くて、顔が良くて、運動も出来る事。

それからこれは予想だけど合ってて…多分クズって事。

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