第12話 心中
私たちは、この世からサヨナラすることにした。
実行日は明日。
放課後、可愛い制服を着て、前行ったショッピングセンターで楽しい時間を満喫して―――
そのまま、人通りの少ない外で深夜まで語り合い、その後、私たちが出会ったあの湖岸に向かい、湖に入って2人で心中する。
心中方法はもちろん、
お互いが同時刻に同じ場所で入水自殺をしようとして、色々あって、お互い入水自殺未遂に終わるという、なんとも奇妙な運命で出会った2人だったが、それが2人で一緒に入水をして、終わる。なんだか、それもまた運命のように感じた。
お互い遺書を書かなかった。遺書を書いたところで、誰も自分たちの苦しみがわかるとは到底思えなかったのだ。
心中当日、私たちは予定通り放課後、ショッピングセンターに行った。
ゲームセンターに行ったり、映画館に行って観たかった映画を観たり、本屋で立ち読みしたり、そして温泉にも入った。今から死のうとしているのに、温泉に入るのは少しでも綺麗な状態の死体で見つけて欲しいという十代女子の最後の想いからだ。
人通りの少ない湖岸の原っぱに座り、今までの人生について語った。お互いの人生の悪い面ばかりの話になった。後腐れなくこの世からさらばするためにお互い心の中の膿を吐き出したかったのだろう。
お互い何度も何度も泣いて泣いて抱きしめ合った。
時刻は深夜2時半、あの湖岸沿いの公園に着いた。
ベンチに座って、2人でキスをした。人生最後のキスだ。お互い体が勝手に動いたという感じだった。涙を流し、舌を絡めながら、長いこと抱き合った。体中がぽわっと温かくなった。
「お互い人生、色々あったけど、最後は笑いあって死のうね!」
山本さんは涙の跡が目元に残っている顔でにっこりと笑いそう提案した。
「うん!そうやね!!」
私たちは手を繋ぎ、はしゃぐように、湖の中心の方へ歩みを進めた。
人生をやり直せるというけれど、それは成功した人間が言うだけで。
一度失った青春は取り戻すことはできないし、人格形成する思春期の時期にトラウマや絶望を与えられたら、もう、その後の人生は暗闇に向かうだけだ。人の目も見れないし、誰も信じられない。
こんな世の中、サヨナラして次の人生をやり直そう…
私はそんなことを思い、涙をたらしつつも、満面の笑みを浮かべて歩み進めた。
体がどんどんどんどん水に埋もれていく。
数時間後、体は全て湖の中にすっぽりと埋まっていた。
お互い手を放し、今度は抱きしめ合った。抱きしめることで総重量は重くなり、生きているうちに、体が浮かぶ可能性も低くなり、死は確実になる。お互い打ち合わせはしていなかったが、自ずとそのような体勢になった。
目が霞み始めてきた。死に近づいている。これが淡水で良かった。海水だと塩辛くてもっと苦しんで死ぬのだろう。
意識が遠のく中、最後に、彼女の笑顔が見えた。
そして、視界が真っ白になった。
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