幼女、モグモグ、可愛い

「もぐもぐ……」


 そうやって、両手で果物を頬張る幼女……その姿はなんていうか、可愛い。

 ぷにぷにのほっぺたに、詰められるだけ詰めてて……その、可愛い。


 小さな手で、果物を思いっきり食べてて、ほっぺたに食べかすがついてるのも……可愛い。


 とにかく可愛い。


 この幼女、可愛い。


『な、何何ですかッ! この可愛い生き物はっ!』


 ナビもまた、そう言って『ほわああああ!』と謎の言語で叫んでいる。

 ……まあ、分かるけど。

 

 俺も、幼女がいなければ、今すぐ体を溶かして叫びたい。

 ……あ、そうだ。


 そう言って俺は、意識を船の方に飛ばすと……

 

(ほわああああああああああ!)


『マスター⁉ 突然船の方になって……叫んでどうしたんですか?』


(いや、幼女が可愛すぎて……叫びたかったからさ)


『なるほど、それは仕方ないですね』


 とりあえず、叫んですっきりしたから少女の体に戻ろう。


(よっ……と」


 少女の体に戻ると、目の前で幼女はまだまだ食べている。

 食べて……ちょっと待てよ。


 あれ? 一応……樽一杯の果物を机の上に置いてたよな? なんかもう半分くらいなくなってるように見えるんだが?


『はわわー……凄い食べっぷりですね、マスター!』

「そ、そうだねぇ……」


 ……まあ、可愛いからいっか。


 そう思って、俺が幼女の事を眺めていると、それに気が付いた幼女は俺の事を見ながら食べ続けていた。


「もぐもぐ……」


 目が合っていながらも、モグモグと食べるのを幼女はやめていない。


「……うんうん、いい食べっぷりだね」


「もぐもぐっ……もぐっ……ごっくん‼ は、はわわ……こんなに卑しく食べちゃって……は、恥ずかしいです」


 そう言って彼女は、真っ赤になった顔を隠した。

 可愛い。


「ん? 別に卑しいとか……そんなことはないと思うな、お腹すいてたんでしょ? ならちゃんと食べた方がいいよ?」


『マスターの言う通りですよ!』


 そう、ナビも頷くが……一応言っておくと、ナビの言葉は外には発せられないから、幼女には聞こえてないんだよな。


「そう……ですか?」


「そうそう……もし恥ずかしかったら、俺は外に行っとくけど?」


 俺がそう言うと、幼女は何処か怯えたような顔をした。


「い、いえ……大丈夫です。あの、その……モグモグ」


 そうモジモジしながら幼女は果物を食べていく。


 うんうん! いい食べっぷりだ!


 ……まあ、本当はお肉とか、おかゆとかの方がいいんだろうけどさ……今はないからな……あ、お肉は一応あるにあるけど、あれまずかったからな……焼いたら美味しくなるのかな?


「……あの……モグモグ、その……モグモグ」


「うん? どうしたの?」


「……ゴクン……あの、お姉ちゃんの名前……」


「かはっ⁉」


 お・姉・ちゃ・ん‼


『マスター、吐血しました? 私も吐血しました……かはっ‼』


 そう言って俺とナビは吐血する。

 ……まて、ナビが吐血するってどういうことだ? ……いや、幼女がお姉ちゃんって言ったら吐血するか。 そっか普通か。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


 そう、混乱していると幼女が心配そうに声をかけてきた。


「い、いや……大丈夫だよ……ちょっと幸せ過ぎて、爆発しただけだから」


「ば、爆発っ……幸せ過ぎると爆発するんですか⁉ モグモグ」


 そう言って驚く幼女。

 可愛い。


「あ、そうそう……そう言えば、俺の名前聞きたかったんだよね? 


「え? あ……はい。教えて貰ってもいいですか?」


 そう幼女に言われ、俺は自分の名前を名乗った。


「俺は海鳴 奏多……よろしくね?」


「えっと、ウミナリ カナタさんですね……ウミナリ カナタ?」


 俺がそうできる限りの声で名前を名乗ると、幼女は何処か驚いたような、何処か怖がっているような……そんな目で俺の事を見てきた。


 な、なんだ?


『……なんかわかりませんが、凄いマスター警戒されてません?』


 そう、幼女は警戒していた。

 まさに、触れたら警察に通報しますっ‼ みたいな?


 そんなことを考えて、焦っていると幼女は、俺の事をじっと見つめてこう尋ねて来た。


「一応確認何ですけど……ウミナリさんって、ウミナリが名前で、カナタっていうのが苗字なんですよね?」


「いや――違うよ。奏多が名前で、海鳴が苗字だけど……」



 俺がそう言うと、幼女は今まで食べていた果物を地面に落とし……


「……嘘、異世界人」


 何処か絶望した声でそう言ったのだった。

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