第16-2話 アイスブレイク秋田オンラインの謎を追え!【推理編】

 昼下がりの国道285号線。

 私の従姉ドームの車で、眠たくなるような温かい春の日差しの中を進む。

 目的地は、上小阿仁村かみこあにむら

 秋田県の真ん中に位置する林業の村ってイメージだ。あれほどあった雪が、今年の高温気味な天気であっという間に溶け切った。


 私は若干緊張を顔に浮かべて、上小阿仁村かみこあにむらの調査ノートを広げた。

 上小阿仁村かみこあにむらの景色も、秋の続きと言った山々と田畑風景だ。村の面積の92%は山林原野である。

 その産業である林業は、秋田藩あきたはんのころから歴史がある。

 阿仁鉱山あにこうざんがあり、そこで使う秋田藩あきたはん御用達の坑木に上小阿仁村かみこあにむらの『秋田杉』が使用されていた。

 その秋田藩あきたはん久保田くぼた阿仁鉱山あにこうざんを結ぶ宿場町としても村は発展してきて、今でも国道285号線として名残がある。

 山野草のコアニチドリや、食用ほおずきでも、近年有名になってきた。


 道の駅かみこあにの駐車場は広く、休憩所や物産館、食事スペースがある。私たちは下車した。

 お日柄は良い。

 春の薄い青い空、たなびく雲がある。

 空は大館おおだてともつながっている、大丈夫と私は自分の勇気を信じた。 

 かなり両肩に力が入っている。

 私の両手両足がロボット歩行になっているのを見て、ドームは笑った。


「大丈夫だって。シドニーは、いつも通りで良いってさ。今まで頑張ってきたなら、それを見せればよくないか?」

「わわわ、私は大丈夫だ。元気、元気!」


 私の緊張は些細なことだ。そう。今日、私よりも元気がないエルフさんが1人。

 レナがいつになく無表情で、小型のビデオカメラで彼女の姉シドニーと通信を始めている。

 画面の向こうの旅行参加者さん。

 色素が薄い金髪は長くシルクのように輝いている、白い肌も透明感ある宝石のよう、その瞳は青く吸い込まれそうな色をしている。

 長い両耳、シドニーがエルフ種であることを示していた。

 利発そうな低く丁寧な活舌の声だ。おそらく人生経験が高いエルフに一筋縄ではいかない。


「うふふ、皆さん、ごきげんよう」

「こんにちは、シドニーさん」

「こんにちは。私も上小阿仁村かみこあにむらについて色々調べたわ。村面積の大半を占めるほどの森林で林業が行われて、秋田市と国道285号線で結ばれていて、コアニチドリや、ほおずきが有名な自然豊かな場所らしいわね」

「よ、よくご存知ですね」


 先手の駒の読みが早い。

 シドニーはチェスも将棋も、戦略上手なんじゃないかと思った。

 それくらいに、こちらの調査を読んでいる。私たちは何も出来ない。

 すると、エルフ姉はクスクスと笑った。

 読むだけでなく、場を動かす。

 旅のオンライン参加者はアクティブだ。


「でも、現地の空気は分からないわ。そちらでは、イベント最中なのかしら?」

「まとびイベントとして、ボール掬いや的当て、それにキッチンカーや出店がたくさんですね」

「おー、ナイス。では、ソナタさん、ご案内いただけますか? レッツゴーレッツゴー!」

「私の食べっぷり見せでやる!」


 何だか、心に火をつける煽りを受けて、私の秋田弁あきたべんは帰ってきた。

 レナにも私はされたこと、感情ごと誘導された出会いがあった。

 エルフの手口が同じなら、向こうの土俵で張り倒すまでだ!

 そわそわしているレナと、呆れて小さく笑うドームを後目に、私はキッチンカーの方へ歩いて行った。

 緊張よりも、まず腹が減ってきた。


 子供たちが遊ぶボール掬いや的当て、輪投げが見える。

 そのお隣の店前に私は立って買い食い開始だ。もう私は、焼き団子を頬張っていた。

 表面がパリッと焼かれ、でも中のみょーんと伸びる柔らかさ。

 そして、しょっぱめのタレがたまらなく美味い。

 食べきった後の唇が甘っじょっぱい。これは食欲が湧く。もっと食おう。


「すごく美味しそうに食べるのねぇ。私も団子が食べたくなってきたわ」

「んめぇ~!」


 レナは麺を啜る。白神ねぎラーメンがお気に召したようだ。

 ドームは、みそたんぽと焼き鳥を無言で食べている。

 この2人が一緒なのは、去年の秋以来だろうか。


「んあ~。ビールほしいな」

「ドーム、帰りも運転だぞ」

「今は飲まないって。それと夜道は気をつけるさ」

「いつも以上に安全運転しろ。お前はスピード出し過ぎだ」

「レナが遅えんだよー。法定速度は守っていますー」


 あんまり仲が良い2人ではないけれど、それなりに会話できるまで2人の仲は戻って来ていた。

 一方で、私は2本目の焼き団子を貪るように食べる。

 同じ釜の飯を食うと、仲良くなり、みんなに幸せを呼ぶ。本当に良いことだな。


 すると、シドニーは企んでいる笑みを見せた。

 エルフの姉がまた口火を切る。面倒くさがりのドームが一応、確認していた。


「ごはんを食べたら、食後の運動ですよ~。レッツウォーキング!」

「ちょっと待て。上小阿仁村かみこあにむらはかなり広いぞ。どこ歩かせる気だ?」

「うーん、七倉神社ななくらじんじゃはどうですか? 加成一族かなりいちぞくの詰め城があったとされる場所でーす」

「えー。山の中、歩くの?」

「うふふ。歩いて~!」


 ドームが困惑して、たじたじになっているのを私は初めて見た。

 シドニーの強引さは、それほど気にならない。

 ノリとテンション。ただし、場の空気を読んでいる気がする。だから、ドームも強く否定しなかった。

 七倉神社ななくらじんじゃは、道の駅かみこあにの近くにある。

 水道が流れる側の細道を抜けて、赤い鳥居が見えてくる。そこからは山の中、石段を少しだけ歩く。


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