(二)-10

 私立の崎玉国際医療福祉大学の広域医療センターの敷地内に、附属の医療専門学校の校舎がある。拓弥はその七号館の建物に入っていった。医学部と医療専門学校、それに看護学校の共用の教室があった。

 その三階の教室で公衆衛生学の授業を受けているところだった。

 しかし、拓弥は教科書を開いたまま居眠りをしていた。

 面長で黒縁眼鏡を掛けた痩身で背の高い、高齢の教師が拓弥の前にくると「起きろ」と大声を上げた。

 教師は三度声を張り上げた。教室中の学生が、拓弥の方を見ていた。

 教師はそう言った。

 ただ、拓弥は頭が全く回っておらず、なにかいるようにしか聞こえなかった。

 よくわからなかったし、授業の邪魔になると思い、拓弥は荷物も掴むと、教師を押しのけて教室へ出て行った。

「待て!単位が足りなくなるぞ!」

 教室を出る際に、背後からそう言われた。

「うるせーよ!」

 拓弥は怒鳴り、木製のドアを殴った。そして廊下に出ると、近くの階段を足早に降りていった。


(続く)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る