第5話
付き合って欲しい。
真っ直ぐな目で見られながらそう言われて少し混乱している僕をよそに、先輩は瞳を閉じ、顔を寄せてキスをしてきた。
触れるだけですぐに離れたかと思えば、今度は先ほどよりも長い時間のキスを。
「んっ、……んぅ」
普通ならば急にこんな事をされれば逃れるのだろうけれど、僕は嫌いな相手でなければ別にいいといった考えだ。
抵抗らしい抵抗は驚いて反射的に体が動いた時だけで、後は受け入れてされるがままになっている。
そんな事よりも、先輩にキスをされて先ほどよりも身体が熱い気がする。
下半身についているものなんてとっくにお見せできない状態へとなっているし、服越しとはいえ触れているのだから先輩もそれに気づいているはず。
たぶん、何か混ぜ込まれていたのだろう。
鈍った頭ではそこまでしか考える事ができない。
ただでさえ無いと言える倫理観がさらに無くなっている。
今すぐにでも先輩へ欲求を無責任に吐き出したい。
告白をされ、更にはここまでされているのだから僕を好いてくれているのは分かる。
だからきっと、先輩は拒まずに受け入れてくれるだろう。
僕はこの欲求に抗う事をやめた。
なんて僕が主体のような考えが最後だった気がするけれど。
実際には先輩にされるがままとなっていた。
未だ少しだけ思考が鈍っているが、どちらかといえば疲労の方が濃い。
行為が終わった後に少しの間眠っていたようで、窓の外では陽が傾いていた。
今の僕は全裸でベッドに横たわっている。隣に眠る先輩も当然のように全裸だ。
着ていた服はカーペットの上に散らばっている。
裸でベッドにいるという、いけないことを侵している気分に体の内側をくすぐられているような感覚だ。
衛生面的にどうなのだろうと思うところはあるが、寝る前には色々な体液が大変なことになっているため今更だろうか。
意識すれば部屋の中も淫靡な匂いに満ちている。
このまま目を閉じればすぐに眠ることが出来るだろうが、そうしてしまえば家に帰るのが遅くなってしまう。
「…………んっ」
僕が上体を起こした時の動きで先輩も起きたようで、寝ぼけ眼を擦っている。
そんな先輩の無防備な姿を見て少し体が熱を持った気がした。
これはまだ薬が残っているせいなのか、はたまた僕自身の欲望なのか。
「先輩。僕はそろそろ帰りますね」
「え? 泊まっていけばいいのに」
「男女ってのは一先ず置いて、着替えとか色々と準備がないので」
「君に合う服なら下着まで用意してあるし、生活用品も予備があるからそれを使えばいい」
この様子だと何を言っても無意味だろう。
半ば押し切られる形で僕はこのまま先輩の家に泊まることとなった。
取り敢えず親には友達の家に行くと伝えてあるし、このまま泊まることになったとだけ連絡を入れておく。
服も貸してくれると付け加えて。
明日の午後からあるバイトには一度家に帰ってからでも間に合うだろうし、バイト着も予備が店に置いてあるから最悪ここから直接向かえばいい。
着て来た服も洗って乾燥までかけてくれるのだとか。
「このままだと風邪引いちゃいますし、先にシャワー浴びます?」
「私は後で平気だから先に浴びるといいよ。部屋を出て左の突き当たりを右だ」
僕としてはどちらでもよかったので、お言葉に甘える事にした。
……のはいいんだけれど、汚れた体で服を着るのはちょっと。
人様の家だけれど、パンツと薄手のシャツを羽織るだけの格好で移動するのを許して欲しい。
洗うと分かっていてもなんとなく嫌だった。
「…………はぁ」
丁寧に体を洗ってから湯に浸かれば、気が完全に緩んで口から息が漏れでてくる。
多分大丈夫だろうけれど、念のためにもう一度体を洗おう。
自身では匂いに気付かないってのは人間不便なものだ。
時間が経ち、湯につかった事で頭がクリアになった気がする。
一人になり落ち着いたところで色々と考えることがでてきた。
今回はお礼という事で呼ばれたはずだが、気付けば先輩から告白されてそのまま行為に至った。
でも、僕はまだ先輩からの告白に返事を返してないわけで。
僕と先輩は今、付き合っているという事なのだろうか?
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