嫉妬深い彼女
不思議ちゃん
第1話
「今日は勉強だけのはずじゃ?」
夏休みの宿題を進めていたため、テーブルの上には教科書やノートが広がっており。
先ほどまで休憩していたのか氷だけが残ったコップとお菓子のゴミが端の方に置かれていた。
部屋には二人の男女がおり、かたや十人に三、四人はカッコいいかな? と言われるような男の子が。
こなた、男女問わず十人に聞けば十人がカッコいいと答えるような女の子が。
「我慢、できなくなっちゃった」
そしていま現在。女の子が男の子をベッドに押し倒し、逃げられないよう腹部──よりも少し下に跨り、男の子の手をベッドへ縫い付けるよう押さえつけていた。
「でも先輩。昨日、それに一昨日だってそう言って途中から──んむっ」
真っ直ぐな目で見つめられている男の子は恥ずかしがることもなく。
途中で止まってしまった勉強を再開させるべく口を開いたが、言葉半ばにしてキスにより無理やり口を塞がれる。
「君と私は恋人同士なのに、まだ先輩だなんて呼ぶんだね」
「先輩も僕のことを名前じゃなく君って呼ぶじゃないですか」
思わぬ返しに女の子は一瞬だけきょとんと目を見開いた後。言われたことを理解した女の子は花が咲いたような笑みを浮かべる。
「あはっ。君はとても嬉しいことを言ってくれるね。──でも、まだ恥ずかしいからこれで我慢して欲しい」
そう言って再び唇を重ねる女の子。
大人しくそれを受け入れている男の子は、名前呼びよりもキスのが恥ずかしいんじゃ……? などと考えつつ。
今現在恋人となっている女の子──
☆☆☆
夏休みに入った初日。
八月にも入っていないというのに地面が熱せられ、陽炎が揺らめいて見える。
まだ家を出て十分も経っていないが身体中から汗が吹き出し始め、今すぐにでも冷房が効いた部屋へと引き返したい気持ちであった。
だがそれは叶わず、これからアルバイトが待っているのである。
それを認識した途端に足が重くなる。
……働く場所が涼しい店内であることが唯一の救いか。
その労働の前にいつも三十分ほどゲームセンターに寄っているのだが、今更ながら今日に限っては寄らなくても良かったかなと思ったのは目的地に着いてからであった。
そんな考えも店内に入って冷たい空気を全身で感じれば吹き飛んでいたのだが。
初心者というか、普段馴染みのない人からしたら居心地が悪いように感じるらしいゲーセンは僕だって最初はそうだった。
それでもめげずに通っていれば、気付いた時には馴染んでいた……ような気がする。
ゲームの腕前は可もなく不可もなくといった感じではあるが、何回も来ているうちに多少言葉を交わす程度の知人ができていた。
今日は来ていないようなので、一人でも長く楽しめるゲームを数回だけやって終わりにしよう。
慣れ親しんだ場所なので案内板なんかを見ることなく、クレーンゲームのコーナーを抜けようと一歩踏み出した足にどこからか転がってきた百円玉がコツンとぶつかった。
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