第7話 「 右手の決意 」

 ある日、右手が僕に語りかけてきた。

「しばらく休業するよ。疲れたんだ。潮時だよ」                    

僕はその突然のリタイヤ宣言に気楽に応じる精神的余裕を持ち合わせていなかった。

「そんなこと、急に言われても困るよ。なんとかならないものかねえ」

すると右手は「さあね」と拳をゆっくり閉じ、それっきり何も言わなくなった。考えてみれば僕は三十年以上彼を酷使し続けてきたのだ。僕はまるで部下に見限られた上司のようにしばらくうなだれていた。

「あのう」沈黙を守っていた左手が気恥ずかしそうに声をかけた。

「私ら、もう一度上手くやり直せませんかねえ」

 ハッとした。そうだ、僕は子どもの頃〝左利き〟だったのだ。

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