第3話 「 つかの間の眠り 」
そのかすかな振動が、診療室の床から遠くのさざ波のように私の体にも伝わってくる。
催眠術は世間一般にはまるでマジックの仲間のように思われているが、本当はれっきとした心理療法の一つなのだ。私の目の前にいるこの三十路手前の患者が、それを理解しているとは到底思えない。
「先生、よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げる女の顔は程よく笑みをたたえていた。
私ももう一日早く、このクリニックを閉めてしまえば良かったのだ。どこもそうしている。止むを得ないことなのだ。
女の患者は今はすでに深い催眠状態に入って、自分のイメージの中であそんでいる。本当に満ち足りた様子で・・・。もしかすると女の方も覚悟の上なのかも知れない。大体こんな時に催眠セラピーを受けに来るとは尋常ではない。よし、私も覚悟を決めよう。今さら逃げることはできない。
音声を消したテレビは南二つ向こうの通りを、ビルをなぎ倒しながら歩く、〝ゴジラ〟を映している。
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