第44話

食糧を持って再びシドル村へやってきた。


『帰還魔法陣』は一度使用すると消滅してしまうようで、再び設置する必要があった。

全兵力転移と帰還魔法陣の設置、一回の往復で魂が2000消費される。

まぁ仕方ないことだな。


「また食料を持ってきました」

「本当に助かる」

「おぉ……」

様子を見るに、みんな落ち着いているようだ。

下民の兵士と奴隷との間で揉め事は起きていない。

ここに上民が一人でもいたら話は違っていたのだろうな。


「皆さんの中で、皮の加工をできる方はいらっしゃいますか?」

フェリスさんが全体に尋ねる。

「「「………………」」」

だれもできないようだな。


「では、針や糸の代わりになるものを探してください」

廃村なら、ありそうだな。

「あ、あの……発言してもよろしいでしょうか」

奴隷だ。

「大丈夫です。基本的に発言は自由ですので、許可を取る必要はありませんよ」

俺は奴隷に言う。


「この辺りの植物で糸の代わりになるものを探してみたいのですが」

「それはありがたいです。魂兵をつけますね」

「ホ!!」


「お、俺も同行します」

「では、皆さんはリュックの素材を探してください。

 そのほかにも使えそうなものがあったら持ってきてください」

奴隷たち、いや元奴隷たちは素材を集めに行く。


兵士が家族を連れてくるまであと2日か……

その間にできる限りのことはやっておかなければ。


あ!!

そうだ!!

バタバタしていて忘れていた。


「あの、フェリスさん?」

「はい、なんでしょう?」


「次の廃村に行くわけなんですが、俺って消滅しませんよね?」

「? どうしてそのようなことを?」


「いや、フェリスさんスイセンに俺が消滅するって言ってたじゃないですか」

「あ!! 申し訳ございません!!

 あれは、あの場を凌ぐために言いました。

 そのようなことはございません!!」


「あ……そうなんですね……」

またてっきり未熟な勇者は遺跡を離れると死ぬとかで、魂が必要になるのかと思った。


□□□


シドル村でできることが終わった。

リュックの作成や、上民兵士の死体処理、食事と休息。

本当なら、このシドル村を復興し、拠点にしたいところではある。

だが、数日後確実にメージスに見つかるからな。


「では、2日後に再び戻ってきます。

 それまで魂兵は置いていきますね」

「ホ!!」

「それは助かる。夜の見張りは体力を消耗するからな」


「あらあら? 私も同行してよろしいの?」

トヨワさんが言う。

「それはもちろんです。遺跡は快適じゃないですか?」


「それもそうね」

俺とフェリスさん、トヨワさんは再び遺跡に行き、準備をする。


□□□


「勇者様。お時間もありますし、稽古をつけていただいてもよろしいです?」

「はい。構いませんけど……」

トヨワさんに訓練を提案され、訓練室へ移動する。


「これを使ってください」

俺はトヨワさんに木の剣を渡す。

鍛冶場で作成できるものだ。

そして、俺は木の剣と木の盾を装備する。


「行きます」

「!!」

速い!!


ガキンッ!!


剣圧はそこまでではない。

しかし……


ガガガガキン!!


連撃が非常に素早い。

トヨワさんは剣のみで盾を装備していない。

対して俺は、剣と盾を駆使し、なんとかガードをする。


隙が全くないな。

しかし、隙がなければ作ればいいだけだ。


ガガガガキン!!


凄まじい剣速だが、ガードに徹すればなんとかなる。

『肉体強化』で動体視力と筋力でゴリ押している感じだ。

剣技には大きな差を感じるが、肉体的な差はほとんどない。


今だ!!


バキン!!


俺はガードすると同時に盾を押し返す。

トヨワさんは、のけぞり、体勢を崩しかけている。


ズバッ!!

俺は剣を薙ぎ払う。


スカッ!!


い、いない!?


「ま、参りました」

首筋に木の剣がある。

「ウフフ……勇者様に勝ったわ」


クソ……

課題が浮き彫りになったな。

「あの、俺が盾で押し返すこと、わかってましたか?」

「さぁ、どうかしら……」

いやいや、教えてくれないのかよ。

トヨワさんは意地悪に微笑む。


肉体的な強さはあまり変わらないはずだ。

問題は剣技。

しかし、訓練室で『剣技』のレベルを上げただけでは勝てない気もする。

「………………」


「考え事してる勇者様も、悪くないわよ」

!!

ち、近い。

いつの間にかトヨワさんの美しく整った顔が目の前にある。


「ちょっ!!」

「勇者様が私に触れられるようになったら、もっといろいろ教えてあげます」

な、なんだよそれ……


□□□


2日後。

できる限りの強化をおこなった。


まず魂兵。

新たに一般兵を8体作成し、さらに6体をレベル1から2に上げた。

レベル2の2体分には石のフル装備を作成、残りの一般兵と魔法兵、それから奴隷たちように木の装備も作成した。

『魂兵保管室』の容量が限界に近づいている。

ちなみに必要魂が不足しているので、木の装備は全て揃っているわけではない。

木の剣と木の盾は優先してある。


さらに食料を生産。

俺自身の『肉体強化』まで魂がまわらない。

装備が思ったよりも魂を消費するのだ。


しかし、おかげで兵力が大幅に強化された。


一般兵 Lv2 13体

一般兵 Lv1 4体

魔法兵(炎) Lv3 1体

魔法兵(炎) Lv2 1体


よし!!

出発だ!!

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