大学のゼミでハブられてた地雷系女子に優しくしたら、次の日から隣に座って来るようになった。

星野星野@電撃文庫より2月7日新作発売!

1st season 『地雷系女子』

プロローグ

地雷系女子みーつけた


 ——彼女が欲しい。


 そう思ったのは大学に入る直前のことだ。


 高校3年間をゲームとアニメに溶かした俺、風切裕也かざきりゆうやは見た目も身長も顔面偏差値も平均的な男子高校生だったが、趣味がオタク傾向にあるため、これまでオタク寄りの友達しか出来なかった。


 別にそれが嫌だとか思ったことはなかったし、むしろ同じ趣味を持っている友達の方が気兼ねなく趣味の話をできるので、その方がいいと思っていた。

 実際、オタクの友達といる時間は楽しくて他の友達や彼女を作る必要性を感じられなかった。


 ではなぜ、そんな俺が彼女が欲しいなんて非モテ男子らしい願望を抱いたか。

 それは、今まで俺と同じ陰キャオタクだった仲間がこぞって大学デビューに成功していたからだ。


 高校時代、いつもピザばっか食ってた通称"ピザデブ"の鈴木は、大学生になってからその太った身体をオーバーサイズのイケてる服で誤魔化し、新歓コンパではしゃぎながら女子たちと撮った写真をSNSに上げて陽キャぶっていた。さらにメガネオタクだった佐藤も、メガネからコンタクトにしただけで【彼女出来ました】とか自慢げに報告をしてた。


 高校時代まで俺と同じオタクで非リアだった二人の友人が、大学から真逆のリア充になっているのを見て敗北感を味わった俺は、ただただ嫉妬で狂いそうになった。

 高校の頃は「彼女とかいらねー」「リア充爆発しろー」が当たり前だったのに。


「こうなったら俺だって……大学生で彼女作ってイチャイチャしながら講義サボったり、自分の部屋で一夜明かしたり、泊まりがけで旅行もしてやる……!」


 あいつらがファッションとかコンタクトをしただけでイけてるんだから、俺だってやればできるはず。

 こうして俺は、大学生から変わる事を決心した。

 サークルとかで陽キャの仲間入りをして、彼女も作って、あいつらよりも充実した大学デビューをしてやるんだ……!


 ——そして、今に至る。


 ついに迎えた大学初日。

 俺は慣れないワックスで髪を整え、服も色々調べて流行に合った服にした。


 俺の通う大学では一年時から基礎ゼミという、大学の学習をする上で基本的な知識を学ぶグループ講義が存在する。


 これから4年間の大学生活を共にする友達は、この基礎ゼミで形成されるとも言われてるくらい大切な講義であり、その初日ということもあって俺はかなり気合いが入っていた。


 もうオタク趣味は出さずに、とりあえず陽キャと友達になってその流れで彼女作るんだ……!


 全国の俺と同じ陰キャ男子大学生が考えてそうな目標を胸に、俺はゼミを行う講義室のドアを開く。


 すると——。


「え、お前も自己推薦? 俺もだわー」

「ここの自己推薦クッソ楽勝だったよな? ほぼ全員合格だし」

「あ、とりまlimeのグル作らね? この後"飲み"行きたいしー」

「お前まだ未成年だろー?」


「「「「「「あははは」」」」」」」


 高校の時の教室くらいの広さの講義室の真ん中に、いかにも陽キャラっぽい男子たちが集まってゲラゲラ笑いながら話していた。


(う、うわぁぁぁぁ……ついていけねー)


 俺が講義室に入る前から、すでに陽キャ男子7人くらいのグループが出来上がっており、見た目も全員、金髪や銀髪。

 耳にピアスを着けていたり、室内なのに帽子被ってたりして、とても陰キャの俺が近づける相手じゃ無い。


 あ、あの怖いのはパスだ。他に話しかけられそうなのは……。


 他は、教室の後ろの方でチェック柄の服にメガネといういかにもオタクっぽい3人組グループと、窓際の席にかなり可愛い清楚系女子の4人組グループがいるだけ。


 前までの俺だったら真っ先にオタクグループに声をかけていたと思う。

 でもこれから変わろうってヤツがその思考じゃダメだ。


 こうして俺が最終的に取った行動は………。


「…………」


 俺は、一番前の席でポツンとスマホをいじって、誰かに話しかけられるのを待つという『完全受け身スタイル』に入った。


 や、やっぱ元オタクの俺に陽キャたちと共存するなんて無理だったんだ。


「おーい」


 むしろ鈴木や佐藤はどうやって女子たちと仲良くしてたんだよ!


「寝癖みたいに一本だけ髪がとんがってるキミー?」


 二次元の女の子でハスハスしてたオタクが、今さら三次元と付き合うとか無謀——


「えいっ」

「……え?」


 突然の出来事だった。

 俺の左頬に綺麗な色のネイルが優しく当たる。


「話しかけてもボーッとしてるから、つい、頬っぺたつついちゃった」


 黒のタートルネックのニットセーターに、オーバーサイズの黒のパンツの女子。

 いつの間にか俺の隣に座っていたその女子は、いたずらっ子みたいにはにかみながら、俺に話しかけてきた。


「あれ、驚かせちゃった?」

「そんなこと、ないけど」


 栗色ショートヘアのさっぱりした髪型で、顔は小さく瞳は大きい。

 手も足も細く、スレンダーなその見た目から、陸上部とかにいた陽キャ女子の印象を受ける。

 スポーツとかやってる子なのかな。


「あたしは日向保乃ひなたやすの。よろしくっ」

「あ、ああ。俺は風切裕也」


 日向から握手を求められ、俺はそれに応じながら自己紹介を済ませる。

 握った日向の手は、ひんやりスベスベしていた。

 これが女子の……"手"。


「ん、どしたの風切?」


 童貞丸出しの感想を頭に並べていると、左隣に座る日向が、目を丸くしながら俺の顔を覗き込んでくる。

 ち、近い近い。


「……えと、日向はあっちにいる女子グループに行かないで、どうして俺に話しかけて来たのかなって」

「え? あの子たちには後で話しかけるけど、あたしがキミに話しかけたのは——」


 俺は唾をゴクリと飲見込む。


 ま、まさか俺に1ミリでも男としての魅力があって、気になったから話しかけて来た的な王道ラブコメの展開なんじゃ——


「その髪、ワックスで固めてるからかもしれないけど、一本だけ寝癖みたいに変な方に向いてたから」

「……はへ?」


 俺は指摘されてすぐにスマホのカメラで確認する。

 すると、確かにアホ毛みたいにぴょこんと一本の髪の束が流れに抗って、明後日の方を向いていた。


「話しかけたのはそれが伝えたかっただけ。急に話しかけてごめんね、風切っ」


 日向はそれだけ伝えるとバッグを肩にかけて俺がいた前の席から、窓際に固まっている可愛い清楚系女子グループに話しかけて溶け込んで行った。


 やっぱ俺、大学生デビューすんの無理だわ。


 ワックスの一つもまともに使えないし、ファッションだってネットで適当に得た知識しかない。

 それに話しかけられたら、全員から好意を持たれていると思い込む陰キャっぷり。


 こんなんで彼女なんか、できるわけない。


「……というか」


 このままじゃ友達すらできないだろ。


 一番の前の席で頭を抱えながら机に突っ伏して絶望する。

 初日から絶望とか……終わってんだろ俺ぇ。


「おい、なんだあの服装」

「やっば……」

「見んな見んな」


 ん?

 俺が突っ伏した瞬間に、教室中が静かになって空気が変わった。


 みんなどうしたんだ? 俺がキモイから引いてるのか?


 無理もない。

 大学初日から突っ伏して絶望してるヤツなんてなかなかいないだろうし。

 しかし俺が顔を上げると、皆の視線は俺ではなく一人の女子に向けられていることが分かった。


 俺のいる廊下側の一番前の席とは反対にある窓際の一番前の席にその女子は座っている。


 かなり目立つピンク色の長いストレートヘアに、真っ赤なインナーカラー。


 派手な髪色に対して、病的に思えるくらい真っ白な肌。

 コスプレ衣装かと見間違うほど明るいピンク色の可愛らしい服は、フリルがたくさんあって、いかにも……な印象を受ける。


 あれって俗に言う"地雷系"ファッションってヤツか?


 彼女は見るからに近寄りがたい雰囲気がある。

 ただ、この手のパターンだと派手な見た目に反して顔があまり可愛くなかったり、太っていることが多いのだが、この子の場合は逆だった。

 見た目こそイカれてて近寄り難いが……顔は群を抜いて可愛いし、身体も痩せ型だが胸は普通に大きい。


「あの子もlimeグル誘うか?」

「スタイルも良さげで可愛いけど……あの見た目はないよな。ヤバそう」

「だよなぁー。それよりさ、あっちの子たちをlimeグルに誘わね?」

「おけおけー」


 講義室の中央にいた陽キャ男たちは、その地雷系女子は無視して、日向たちのいる窓際の女子グループの方に話しかけていた。


 ……あの地雷系も俺と同じでぼっちなのだろうか。


 地雷系女子は、ピンク色のスマホを両手で弄りながら、ひっそりと自分の席に佇んでいる。

 確かに病んでそうで派手な見た目してるけど、話しかけたら意外と仲良くなれたり……なんて。

 そう考えつつも行動に移せないのが陰キャ。

 あんな周りからハブられ気味の尖った女子に話しかけるとか無理がある。


 俺がそんなことを考えていたら、チャイムが鳴って先生が入ってきた。


「基礎ゼミ、始めますよ」

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