第8話

璃那利の件も終わり、これからのことについての話も終わったカフカは葵の研究を手伝い、その後自分の研究を進めた。


葵の尽力もあり二人は翌日も変わらず学校に向かう。


「おはよー。」


「おはよー、カフカちゃん。珍しく連続で学校に来たんだね。涼子さんは今日もぼっち飯かと思っていたから嬉しいよ。」


基本カフカが連続で来るのは珍しいことのため、毎回驚かれる。


「まぁ、連続で来ることもあるよ。てか、私いなくても涼子は他の学年のぼっちの女の子に声かけてるよね。一緒にご飯食べたりしているの知っているからね。」


「えー?何で知っているの?涼子さんこっそりやっているのに」


「さー、何でかな?」


頭を悩ませる涼子。カフカのいないときの涼子の様子を知っているのは偶然である。上流階級の学校のため、学校中に監視カメラが設置されている。カフカはその全てをノアを見守るためにハッキングしている。その過程で涼子が後輩に言い寄ったりしているのを見かけるのだ。


「これからはカフカちゃんに見られていることを意識してやるようにするかー。カフカちゃんに見られていると想像したら涼子さんは新しい扉を開けるかもしれない。」


「別に興味ないから勝手にやっていたらいいよ。」

 

「うわー、辛辣すぎて涼子さん泣いちゃうよ。どうせやめないけど。」


そんな事を言いながら特に変わらない日を過ごすカフカたち。一方でノアの方では緊急事態が発生していた。


「ノアちょっと校舎裏にクルです。」


「どうしたの、ニーナ。私もしかして今からカツアゲされる?」


「そんなことしないのです。いいから来てほしいです。」


そう言ってカフカを引っ張って行くニーナ。この時魅音はトイレに行っており不在であった。この現場を見たとしたらニーナに嚙みつくのは目に見えている。


「それで、こんなところに連れてきてどうしたの?なんか話したいことがあるの?も、もしかして告白?」


そんな風に冗談を言って場を盛り上げようとするノア。まだ、二人は話し始めて日も浅い。そのため会話を続けないと沈黙がまだ辛くなってくる。


「た、たしかにコクハクみたいなものです。」


「え?」


気まずい沈黙が訪れる。思いつめた顔をしているニーナ。

『ど、どうしよ。まさかほんとに告白なんて。冗談で言ったのに』と心の中で狼狽してしまうノア。


「そうです。ワ、ワタシは昔からノアのことが大好きだったんです。」


「ご、ごめ…」


「ノアは冬羽とわですよね。」


告白の返事を返そうとしていたノアに衝撃が走る。まさかここで、自分が研究結果を公表するために使っている偽名が出てくることは想像していなかった。


「え?え?冬羽って言った。」


「ソ、そうです。ノアは冬羽ですよね。」

恐る恐るといったように聞くニーナ。

一方こちらも同じようにどうしたものかと思考しているノア。まさか自分のことがばれているとは思っていなかった。この情報は世界でも限られた者しか知らないはず。葵たちとも一般にこの情報が漏れていないことは確認済みだ。だが、ニーナは知っている。


ノアはどこからこの情報が漏れたのかを聞き出そうと考える。同時にノアの周りにいる護衛たち静止の合図を送る。ノアの正体がばれたことはリアルタイムで葵や黒服たち護衛にも伝わるようになっている。しかし、友達でもあり、敵意も感じないニーナに手出しはしたくない。


『まずは情報を聞いてからでも遅くないはずです』と思考を回す。


「…そうです。私が冬羽です。」


「や、やぱり。ワタシはずっと冬羽のファンでした。ずっと会いたかったです。」


感極まった表情になるニーナ。依然敵意などは感じられない。


「ありがと。そんなに私のことが好きなんだね。ところでどこで私の正体を知ったんですか?」


静かにだが、油断なく質問するノア。緊張感が走るも、ニーナはそのことにも気づいていない。


「Dadに教えてもらいました。」


「え、お父さんですか。お父さんは何している人なんですか?」


「ホワイトハウスでワークしています」


予想外の人物だったが腑に落ちる。この学校に留学してこれるほどの権力を持ったアメリカ人の両親ならば自分たちの情報を知っていてもおかしくはない。


「お父さんはなんでニーナに私の正体を教えてくれたんですか?」


「私が冬羽の正体をずっと探すようにおねだりしてました。昨日テレビ電話をしているときに教えてもらったんです。新しい友達としてDadに写真を見せたら偶々冬羽と同じ顔だったんです!」


笑顔が眩しいニーナ。ニーナの説明どおりならばただ単に娘を溺愛する父が偶々娘の知りたいことを知っていて、教えたようである。衛星からの生体情報でも嘘をついていないと送られてくる。だとすると、偶然によって隠していた自分たちの所在がアメリカにばれてしまったということだ。


『めんどくさいことになりましたね。他の国にも漏れるかもしれませんね。』と危惧するノア。一段落したように見えた事態は混迷を極めていく。

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シンセリティの影: カフカとノアの戦い 神保2才 @borutotowa

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